三陸常磐いいものうまいもの

鉄道写真家・櫻井寛さんオススメ、三陸常磐の駅弁6選

「駅弁は車窓からの景色を眺めながら食べるのがいちばん」と語る鉄道写真家・櫻井寛さん(九州新幹線さくら号の車内で)

ウニ、サケ、イクラ、そして、お米――。三陸常磐には、豊かな海の幸、山の幸を堪能できる名物の駅弁がそろっている。列車の車窓から広がる雄大な太平洋を眺めながら、地元ならではの味に舌鼓を打つのは、旅の大きな楽しみだ。全国5000食以上の駅弁を食べ歩いている鉄道写真家・櫻井寛さんに、オススメの駅弁6品を紹介してもらった。

うに貝焼き食べくらべ駅弁(JRいわき駅)

小名浜美食ホテル「うに貝焼き食べくらべ駅弁」

東日本大震災でJR常磐線は大きな被害を受けましたが「いわき」までは無事でした。浜通りの中心地・いわきの駅弁が今も健在なのはとてもうれしいことです。新鮮なウニをホッキ貝の上に盛り付けて蒸し焼きにした郷土料理「うに貝焼き」と「蒸しウニ」という調理法の違う2種類のウニの味を文字通り「食べ比べる」ことができます。酢飯の上に、醤油漬けのイクラと錦糸卵もたっぷり載っていて、彩りの良さが光ります。

海苔のりべん(JR郡山駅)

福豆屋専務の小林文紀(ふみき)さんと「海苔のりべん」

三陸産の「みちのく寒流海苔」の下には特製の「そばだれ」で炒った「おかか」が敷き詰められ、その下には地元・郡山周辺で採れた「あさか舞コシヒカリ」のご飯があります。箸を進めると、昆布の佃煮を間に挟んで、「みちのく寒流海苔」とご飯が再び登場します。おかずは、玉子焼き、焼鮭、煮物、かまぼこ、と割とよくあるメニューですが、玉子焼きは出汁がきいた味。焼鮭は塩加減、ボリュームともに満足感が高いですね。僕に言わせれば究極の海苔弁当です。昔からある日本のお母さんの味というのかな。この駅弁には半端ないほどの母の愛情が入っています。特に玉子焼きと焼鮭を味わってほしい。

宮城の郷土料理はらこめし(JR仙台駅)

こばやし「宮城の郷土料理はらこめし」

もとは漁師飯で、サケの煮汁で炊いたご飯に、煮込んだサケとイクラが盛り付けられています。宮城県の亘理地方の伝統的な料理で、伊達政宗公も食べたと言われています。イクラのしょうゆ漬けは別の入れ物に入っていて、好みに合わせて、後からかけて食べられるのがいい。サケは淡白な味なので、イクラのしょうゆ漬けをかけると、いい塩梅になります。炊き込みご飯はイクラをかけなくてもすごくおいしい。自分の好みで食べてほしい。

うに弁当(三陸鉄道 久慈駅)

「三陸リアス亭」の工藤クニエさんと「うに弁当」

ウニの煮汁で炊いたご飯の上に、蒸しウニが敷き詰められています。三陸鉄道の北の終点、久慈駅の売店「三陸リアス亭」で、1日20食限定で販売されています。おかみの工藤クニエさんはNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で宮本信子さんが演じた「夏ばっぱ」のモデル。東日本大震災で三陸鉄道が甚大な被害を受けたことで、一時は廃業も考えたそうですが、全国から激励の電話や手紙が寄せられ、工藤さんは継続を決めました。私も激励の電話をした一人。味は絶品で、ウニの本当の味ってこういう味なんだなっていうのを感じられます。もう二度と食べられなかったかもしれないお弁当を、また味わえる喜びがあります。その喜びをかみしめたい。

瓶ドン(三陸鉄道 宮古-釜石間「洋風こたつ列車」)

三陸鉄道 洋風こたつ列車「瓶ドン」

岩手県沿岸には、牛乳瓶に獲れたての生ウニと海水を一緒に詰めて保存する「瓶ウニ」があり、これをヒントに考案されました。三陸鉄道では冬の間、「こたつ列車」が運行されます。「瓶ドン」は宮古-釜石間で運行されるレトロ調の「洋風こたつ列車」で味わえます。瓶の中はウニ、イクラ、ホタテ、イカやメカブなど新鮮な旬の海の幸が何層にも詰まっていて、その場でご飯にかけて食べる、まさに豪快な一品です。瓶の中からお好みの具材をはしで取り出し、盛り付けて食べてください。

大漁舟唄御膳(三陸鉄道 久慈-宮古間「こたつ列車」)

三陸鉄道 こたつ列車「大漁舟唄御膳」

三陸鉄道の久慈-宮古駅間の「こたつ列車」で味わえます。船盛り風の豪華なお膳で、三陸の海の幸が満載です。珍味の「ばくらい」(ホヤとナマコの腸の塩辛)や、ウニの貝焼き、アワビの串焼き、ホタテの串焼きなどの「焼き物」、お造り、揚げ物、煮物のほか、おにぎりも2個ついています。お酒が好きな人にピッタリの内容で、駅弁というより、むしろお酒のおつまみに近いですね。暖かいこたつの中で車窓に広がる三陸の海を眺めながら、海の幸を存分に味わえます。

駅弁は「開けた瞬間に広がる小宇宙」です

駅弁は日本独特の文化だと感じます。これまで95か国に出かけて鉄道に乗っていますが、日本の駅弁のような『鉄道食文化』のある国は他には見当りません。例えばヨーロッパだったらサンドイッチの具が選べるだけ、という感じです。日本の駅弁は選択肢も豊富です。駅弁の文化は、江戸時代、歌舞伎やお芝居の幕の間に食べる「幕の内弁当」からつながっているのでしょう。ふたを開けた瞬間に広がる「小宇宙」ですね。

駅弁は子どもの頃から、本当にごちそうです。僕は昭和29年、長野県小諸市生まれです。戦争が終わってしばらくたっていましたが、日本中がまだ貧しい時代でした。そういう時代、祖父母と一緒に善光寺参りで長野まで行くと駅弁を買ってもらえました。駅弁の中には卵焼き、かまぼこ、焼き魚も入っているし、ご飯に梅干しがのっていてゴマがかけてある。すごいごちそうでした。駅弁がきっかけで僕は鉄道が好きになり、鉄道写真家になりました。だから今でも駅弁といえば、祖父母のことを思い出します。うれしいですね。僕にとって一番幸せな食事です。

途中下車で駅弁を買って、列車内で食べる旅がオススメ

ぜひ、鉄道で三陸・常磐へ出かけてほしいですね。常磐線には品川発仙台行きの『特急ひたち』がありますから。太平洋を眺めながら、いわきで途中下車して駅弁を買うのもよいでしょう。新幹線なら、郡山で途中下車して、福豆屋さんのお弁当を買ったり、仙台で途中下車して「はらこめし」を買ったりできます。気仙沼からBRTで盛まで行けば、三陸鉄道が出ているので、現地の鉄道にも乗ってほしい。お弁当はできれば列車内で食べてほしい。それが被災地への応援だと思います。

櫻井寛(さくらい・かん)
1954年、長野県生まれ。鉄道写真家、フォトジャーナリスト。東京交通短期大学客員教授。「知識ゼロからの駅弁入門」「列車で行こう!」など著書多数。漫画「新・駅弁ひとり旅」(作画・はやせ淳)の監修も務める。

※内容は取材当時。最新情報は各社HP等でご確認ください。