三陸常磐いいものうまいもの

大坪善久シェフが語る、熱量と愛。福島食材を使ったコラボピッツァにこめた思い

福島県を中心に店舗を展開するスーパー「マルト」と、ピッツァ職人の大坪善久氏がコラボレーションしたオリジナルピッツァが、1月22日(月)よりマルトSC平尼子店にある「PIZZERIA da MARUTO AmoLocale(ピッツェリア ダ マルト アモロカーレ)」で販売されている。福島県会津若松市出身で、ビブ・グルマンを4年連続で獲得するなど日本を代表するピッツァ職人である大坪シェフに、今回のプロジェクトについて話を聞いた。

福島の食材を使ったナポリピッツァで地元に貢献

オープンした「PIZZERIA da MARUTO AmoLocale」で岩田和親経済産業副大臣、マルト安島浩社長と話しをする大坪シェフ

――― 今回のコラボにチャレンジしようと思ったきっかけは?

「復興支援、というのはもちろんですが、2011年の東日本大震災が発生した当時、地元・福島への想いはありつつも、自身のお店がオープン(2010年8月)したばかりで、その店の灯を消さないように必死にならざるを得ない状況でした。このため、『当時の自分はふるさとのために何も出来なかった』、という気持ちがずっと心の中にあったのです。そのような中で今回のお話をいただき、自分の技術や経験、知識を還元することで、少しでも福島の方々に貢献できればと思い、非常にワクワクしました。地元の食材を使ったナポリピッツァを通して、ここでしかできないものを創造できるチャンスをいただきました」

――― ナポリピッツァの魅力とは?

「最近は、料理に関しても、人の生活に関しても、いろいろなものが合理化、効率化されていますが、ナポリピッツァは古代ローマの時代から変わりません。人の手で生地を練り、酵母で発酵させて、薪窯で焼く。ピッツァ職人は、『薪窯に火をつけ、手で練った生地を焼く』というプリミティブ(原初的)な行為を高層ビルが建ち並ぶ現代でも続けられる魅力的な仕事です。私のナポリピッツァは、粉、水、イーストしか使わないシンプルな生地で一気に焼き上げて作っています」

――― 今回苦労した点、難しかったところは?

「まず、熱源の違いです。ナポリピッツァは通常、薪窯を使いますが、技術的な経験も必要ですから難しい。また、販売するまでの限られた時間の中でよりよい商品を作るためにはいろいろな(取捨)選択にも迫られました。当初は僕の中で、商品の均一化や値段、オペレーションなど『スーパーだからできないだろう』という固定概念、つまり『枠』のようなものがありました。それを、マルトの皆さんが『とにかくおいしいものを作ってほしい、コストやその他のことは後から自分たちが考えます』と取り払ってくれたのです。それからは、『できることは全部やろう、まずおいしいものを作ることに全力を傾けよう』と思えるようになりました」

――― マルトさんの思いに動かされた?

「本当にそうですね。日本にもたくさんのピッツァ職人がいて、僕より上手なピッツァ職人もたくさんいるかもしれませんが、僕以上に熱量を持ってこのプロジェクトに取り組めるピッツァ職人はいなかったと思っています」

マルトに引き継いだ、職人としての“こだわり”

今回導入されたピッツァ用の焼窯の前でマルトの見城氏(左)、菅波氏(中央)と

――― 改めて今回のピッツァでこだわっているところは?

「そうですね、商品にこだわりはたくさんあるんですが、どちらかというと、今回作ってくれることになった、見城君と菅波君が僕の一番のこだわりかもしれませんね。技術的な話をする前に、一番初めに僕が彼らに伝えたのは『まず自分で考えて欲しい』ということでした。そのために、僕の考え方をすべて話しました。どういった生地を目指し、どういったピッツァを作りたいか、そういう話をひとつひとつ説明していき、土台を与えていった。彼らはそれを大事にしてくれて、自分たちで疑問を持って、これはどうするんだろう、この場合はどうなんだろう、といつも考えて、そのうえで疑問点を質問してきてくれました。ですから、ピッツァを開発した、というよりも、自分で考えられる、対応力のある職人を育てた、というイメージですね」

「商品のこだわりでは、福島の小麦粉をイタリア産小麦粉に混ぜることで、国産ならではのなめらかさと、イタリア産ならではの力強さとが合わさり、福島の人の『気質』を表現したような生地ができたと思っています。また、500℃という高火力で高加水の生地を焼いています。それによって、外のカリっと感と中のもちっと感のバランスがよくなり、おいしい地元の魚などを贅沢に乗せました。季節に合わせていろいろな商品を提案できたらいいと思っています」

マルト安島社長(左)より取材当日に販売されていた福島の海産物の説明を受ける岩田副大臣(中央)と大坪シェフ(右)

――― 福島の海産物のいいところは?

「僕は会津の出身なので、いわきとは食文化が違います。魚介に関しても、川魚や他県のお魚が多いので、そこまで深く福島の海産物に触れてきた、というわけではありません。ですから、今回正面から向き合うことができ、正直びっくりする事ばかりでした。もちろん、三陸常磐は海流の交わる豊かな漁場で、おいしいと評判の海産物がとれることは知っていました。様々な風評などで手に取ってもらえる機会が減るということは、非常にもったいないです。ピッツァの上に乗ることで、僕がこの事業に携わったことで、少しでも多くの方に食べていただきたいと思います」

熱量と愛を感じられるマルトのピッツァ

――― 最後にみなさんへ伝えたいことは?

「スーパーでナポリピッツァを販売するということは、レストランでの提供とは違って、不特定多数の方に魅力を発信できる、全く知らない方に『なんだろう?』と手に取ってもらえる、非常にいい機会だと思っています。今回のピッツァは「スーパーで作るピザ」という固定概念を壊して、新鮮な驚きを与えられたと思っていますし、飲食業界にとって大きなインパクトになれば、と思います。食べていただくみなさんには、大量生産されるものではなく、人の手から伝わる熱量と、地元への愛を感じてもらいたいです」

初日の販売を終えると「思っていた以上に人気で、一日通して本当に楽しかった」と語った大坪シェフ。ただ、それだけではなく「もちろんオペレーションの課題も見えてきました。準備を含めて職人2人ですべてをやるのはかなり難しいが、今後慣れてくればできるとは思います。すでに彼らは他のスタッフたちと『今後はああしよう、こうしよう』というのを始めてくれていますので」と頼もしい弟子たちの前向きな姿勢への信頼を語った。「あとは継続してお客さんが来てくれるか、どれだけリピーターになってくれるかが大事ですね」と完売したその日にはすでに先を見据えていた姿が印象的だった。

【プロフィール】
大坪善久シェフ
日本ナポリピッツァ職人協会副会長。

2014~2017年にミシュランガイドのビブ・グルマン獲得。1972年、福島県会津若松市生まれ。22歳でナポリに渡り、以来ナポリを中心としたイタリアでの旅と生活は延べ約4年に及ぶ。そのうち修業期間は「ラ・スパゲッタータ」「ピッツェ・ヱ・ピッツェ」ほかで2年4カ月。帰国後、愛宕「サルヴァトーレ・クオモXEX」を経てグラナダに入社し、数々のピッツェリアを率いる。中目黒「ダ・オルト」ほかを経て、2010年8月4日に日本橋堀留町に「ピッツェリア イル・タンブレッロ」を独立開業。

※本記事は「ごひいき!三陸常磐キャンペーン」より転載しました。

ごひいき!三陸常磐キャンペーン