三陸常磐いいものうまいもの

“海のルビー”と呼ばれる常磐ものとは? つるの剛士さんと照英さんが旬を味わい尽くす

本格的な冬の寒さが到来した12月中旬の福島県。いわき市小名浜の漁港を訪れていたのは、魚釣り大好きタレントで知られるつるの剛士さんと照英さん。今回の釣行では“海のルビー”とも呼ばれるアカムツを狙い船に乗る。小名浜沖の水深150~200メートルに生息する魚種で、流通量が少なく北陸や山陰地方などではノドグロの通称で憧れの的とされる高級魚だ。

さて、釣りを前に2人が向かったのは小名浜魚市場。この日は近海の底引網漁船の水揚げがあり、常磐ものの代表格ヒラメやカナガシラ、カレイ、マダコ、カスペなど多種多様な魚種が並んでいた。

ここ小名浜魚市場は魚の搬入口、入札場、搬出口がそれぞれ部屋で区切られ、極力外気と交わることを避け鳥や虫などが入らないよう徹底した衛生管理が行われている。その一角にあるガラス張りの部屋の中で行われていたのが安全性の検査だ。

魚種ごとにサンプルをミンチ状に刻んで測定器にかけると数分で計測でき、結果は○か×で表示されるため一目瞭然。福島県で出荷される魚介類は、国の基準より厳しい自主規制のもとで管理されている。安全安心のためのたゆまぬ努力を目の当たりにした2人は、この豊かな海での釣りに期待に胸を膨らませていた。

翌早朝4時半。2人を乗せた船は、まだ真っ暗な小名浜港を出港した。水先案内人は丸三丸の馬目勝也船長で、親の代からウニ・アワビ漁などを営み、依頼があれば釣り船としての営業も行っている。長年の経験と知識で狙った魚がすむ真上まで釣り客を運んでくれる。1時間半ほど船を走らせて小名浜沖35キロのポイントに到着すると、既に5艘ほどの釣り船が高級魚アカムツを狙い釣りを始めていた。実はいわき市は今シーズン、釣り情報などで連日アカムツの大漁が報じられ、日本中の釣り場の中でも一級ポイントとなっている。

照英さんはホタルイカと鯖の切身を針に付けたエサ釣り。つるの剛士さんは小魚を模した金属製のルアーで魚を誘うジギングでアカムツを狙う。仕掛けを海中に投げ入れ、海面から約200メートルの海底に仕掛けが着くやいなや、2人ともに竿が引き込まれるような強い当たりを感じ取った。
「これは、重い!大きいかも!」
糸を巻き上げてくると水圧の変化に耐えている魚が時折激しく暴れるような動きが竿を通じて伝わってきた。これこそアカムツ釣りの特長だ。また、アカムツは口の周りが薄い膜のような構造をしているため、強く巻き上げると口元が切れて針が外れてしまう。2人は魚の引き込みを慎重にかわしながら少しずつ糸を巻き上げていく。そんなやり取りを繰り返して水面に姿を見せたのは紛れもなく赤い宝石だ。しかも、46センチ1.3キロの特大サイズ。この時期は小名浜港の卸売価格で1キロあたり約8000円、まさに高級魚だ。4時間ほど釣りをしたところで2人合わせた釣果は10匹を超え、資源保護のために早めに切り上げることとなった。

陸に上がった2人は小名浜港を見下ろす高台にある割烹旅館『天地閣』へ向かい、自分たちで釣ったアカムツの料理を依頼した。出てきたのは刺身、炙り刺、塩焼き、西京焼き、煮付け。アカムツは「白身魚のトロ」とも呼ばれ、脂が乗って甘みとほろほろと溶けるような舌ざわりに目尻が下がりっぱなしになっていた。この時期の小名浜沖のアカムツは脂の乗りだけが魅力ではない。型が大きく、身が締まっていて生でも焼いても煮ても臭みの無い上品な肉質を保つ逸品である。

今回は冬の常磐ものを代表するアンコウもいただくことに。いわき市では一年を通してアンコウの水揚げがあるが、肝に脂が乗る冬こそがまさに旬。東日本大震災の前までは、夏は海水浴、冬は旬の魚料理を求める観光客たちで賑わっていた。しかし、自ら板前も務める代表取締役の大平均さんによると、この旅館への宿泊客は震災前の半分も戻ってきていないと言う。そうした中で大平さんは「この常磐ものの味を再び多くの人に知ってもらいたい」と話す。そして、2人の前に出された料理はというと…

「こちらが“どぶ汁”です」

料理長から伝えられた料理名に耳を疑う2人。“どぶ汁”とは福島県に伝わる郷土料理のひとつで、アンコウ鍋の元ともなった漁師メシだ。肝をなべ底で煎って溶け出た脂でアンコウの身と白菜や大根、椎茸などを熱した濃厚鍋料理。スープはアンコウの身と野菜から出る水分のみで、まさに常磐ものアンコウの特長である深いコクを実感できる一品である。

この日のために仕入れてもらったのは、小名浜港に水揚げされた7キロの常磐もの。いわき市では1キロ前後から20キロを超える大物までとれるが、大平さんは7キロ前後のものが身の締まりや脂の乗りもいいという。その常磐ものアンコウは、肝を熱したときに溶け出る脂がまるでラー油や担々麺のスープのようなオレンジ色でねっとりとした深いコクがあるのが特徴で「日本一」と胸を張る。シメにはおじやにして最後のスープ1滴まで完食し大満足の2人であった。

いわき市小名浜の冬の味覚を味わい尽くした、つるの剛士さんと照英さん。福島の豊かな海での体験は2人にとって「これまでのどの釣り体験よりも貴重でかけがえのないもの」だったと口を揃えた。親潮と黒潮が交わり、魚が豊富な常磐の海。それを支える漁業者や観光に携わる人たちの情熱と安全安心への取り組みが進んでいる。

※ 本記事は福島中央テレビの番組制作とあわせて取材執筆しました。

番組名「つるの&照英 学んで釣って食べる!冬のふくしまキセキの海」
・福島中央テレビ 2024年2月17日(土)午後4時30分から
・BS日テレ 2024年2月22日(木)午後4時00分から