政策特集価値を創る製品安全 vol.4

担当者必読の「リコールハンドブック」を解説。回収率向上のポイントは?

どんなに万全を期した製品であっても、不具合や欠陥を完全に防ぐことはできない。万が一にも重大な事故を起こして消費者を傷つけないようにするためには、速やかなリコールの実施が不可欠である。

リコールには多額の費用がかかるうえに、ブランドイメージを傷つける可能性もあり、企業にとっては簡単な意思決定ではない。また、リコールを決めたとしても、消費者に十分に伝わらなければ、被害は広がってしまう。

リコールに関わる人たちの多くが目を通しているのが、経済産業省の「消費生活用製品のリコールハンドブック」である。企業の生き残りをも大きく左右しかねないリコールにどう対処していけばよいか、事例を交えてわかりやすく解説している。2007年に発行されて以来、改訂を重ね、2023年4月に「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」が公表された。

要点をQ&Aでまとめた。より詳しくは、本体を見ていただきたい。

▶消費生活用製品のリコールハンドブック(経済産業省)

経済産業省「リコールハンドブック」で示したリコールの管理体制

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

Q: 製品事故をどう防ぐ?

  A: カギを握るリスクアセスメント。兆候をつかむ可能性は誰にでも

事故を未然に防ぐためにとるべき具体的な措置として次の4点がある。

① 安全基準・安全規則等の遵守
② リスクアセスメントの実施
③ 製品事故等・クレーム情報等の収集体制の整備及び製品へのフィードバック
④ 安全な製品使用のための消費者啓発・情報提供

リスクアセスメントとは、誤使用も含めて製品が利用される状況を想定し、生じるリスクの種類や大きさを評価し、リスクへの対策が十分であるかを検証するプロセスを指す。製品の企画・設計段階、販売後の各段階で、リスクアセスメントを繰り返し実行していくことが求められる。

重大な事故を事後に振り返ってみると、兆候と受け止められる事象が生じていたことは少なくない。トラブルをギリギリで回避したような“ヒヤリハット”、欠陥か否かは判別できないが多発している同様の事故、他社の類似製品での事故、顧客からの苦情・相談・問い合わせなどが該当する。

こうした兆候は、経営者を含む全ての役員・従業員、企業のすべての部門がつかむ可能性があり、きちんと収集し、関係者間で共有しなければならない。ある企業では、全役員・従業員が常に名刺大の「重大製品事故に対する初期対応」というカードを携帯しているという。

経済産業省「リコールハンドブック」で示された製品事故等の情報発信主体と情報の受け手/情報収集の主体

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

Q: リコールにどう備える?

  A: 対応マニュアルを作成。費用確保ではリコール保険の検討を

事故が発生したり、欠陥の兆候を発見したりした場合、速やかに対応しなければならない。そのためには、日々の業務の中で、対応マニュアルを作成し、役員・従業員で共有しておくことが大切になる。

対応マニュアルでは基本方針を定めたうえで、情報伝達システムやリコール実施の判断基準などを策定し、報告すべき機関の確認などをしておく。基本方針として、「消費者の生命身体の安全確保を最優先とする」は当然であるが、「短期的かつ形骸的な費用対効果による判断はしない」との考えが例示されている。つまり、リコールの実施を費用の多寡で判断してはいけない。

リコールでは、製品の回収や交換、修理に要する費用だけでなく、原因究明でかかる費用、コールセンターの設置費用、販売停止期間中の経費なども発生する。そこで、生産物回収費用保険(リコール保険)への加入を検討しておくべきである。リコール保険には、主に中小企業向けに総合補償型保険商品の特約として提供されるタイプも存在する。

消費者との結びつきを維持しておくと、リコールは進めやすい。企業や製品に対するロイヤリティーの向上などを目指すCRM(=Customer Relationship Management、顧客関係管理)の一環にリコールを位置付け、ユーザー登録などによって顧客情報を取得しておくことが有効になる。

Q: いざ事故発生!何から始める?

  A: まずは情報の把握。確定を待たず、迅速に報告・共有

事故の発生が分かれば、どんな人がどの製品をどのような状況で使ったのかなど基礎的な情報を把握することが不可欠である。その際、すべての情報を確認するのを待つのではなく、判明している事実関係を整理し、社内の関連部門に伝達していかなければならない。ある住宅設備機器メーカーでは、顧客対応部門が、初報の内容でリスクを3段階に評価し、重大製品事故のおそれがある場合には社長を含む各関係部署と共有しているという。

重大製品事故に該当する場合、事故を知ったときから10 日以内に、消費者庁へ報告することが製造・輸入事業者に義務づけられている。

経済産業省「リコールハンドブック」で示されたリコールの開始及びその後のモニタリングの流れ(イメージ)

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

Q: リコールかどうか迷ったら?

  A: 安全最優先で判断。原因が製品自体に問題がある場合だけとは限らない

リコールの意思決定に関する判断要素をまとめたのが以下の表である。

経済産業省「リコールハンドブック」で示されたリコールの判断において考慮すべき要素

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

被害の重大さや、他でも起きる可能性があるかどうかは、きわめて重要である。一方で、事故原因との関係では注意が必要になる。リコールかどうかを判断する時点では、事故が製品の欠陥によるかどうかは明確にならなくても、消費者の安全確保を優先して、迅速な対応を検討しなくてはならない。消費者の誤使用や修理ミスなどでも考え方は同様である。

ベビーカーを取り扱っていたある総合商社では、ヒンジ部分に指をはさむ事故が起き、原因が製品の欠陥かどうかはメーカーと意見が異なった。しかし、安全を最優先し、メーカーの同意を得ないまま、独自の判断としてリコールを決定したという。また、電気ケトルを輸入・販売しているメーカーが、本体の中身がこぼれる恐れがあることから、原因は究明中だったが、万全を期すために商品の回収を決定したというケースもある。

Q: リコールはどうやってやる?

  A: 対策本部がリコールプランを作成。複数手段で消費者に伝える

リコールの実施は、品質部門だけでなく、製造、営業、経理など、全社的に各部門に巻き込む必要がある。対策本部のような組織が責任をもって、具体的なリコールプランを作る。

経済産業省「リコールハンドブック」で示された対策本部を設定する製造事業者の場合のイメージ

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

リコールプランの満たすべき基本原則としては、

① 確実に消費者に伝わる告知方法を捜す
② 死亡や、重篤な被害の危険がある場合は、徹底的に周知する方策をとる
③ 関係事業者、関係機関との連携や協力体制を考える
④ 効果が上がらなければ、繰り返すかまたは別の方法を探すタイミングと評価手法を定める
⑤ 費用対効果も考慮する
⑥ コンサルティングやコールセンターサービス等のアウトソーシングの活用を選択肢の1つとして考える

がある。

消費者への告知では、自社で顧客情報を保有していれば、ダイレクトメールや電話、電子メール、販売事業者からの連絡などを活用する。顧客情報を保有していなければ、ホームページでの公表や報道機関への発表、チラシ、SNSなど複数の手段を組み合わせて臨む。

Q: リコールはどう続ける?

  A: 回収数などを測定。効果に応じて方法を見直し

実際のリコールは、計画どおりには必ずしも進まない。消費者からの連絡がどれくらいあり、どの程度回収できているかを計測し、方法を随時見直していくことが求められる。

ある乳幼児用の乗り物では、座席部が傾く不良が発生するため、消費者に交換部品を送った。しかし、やり方がよくわからないとの声が寄せられ、専門家による点検、修理という方法を新たに加えたという。

温水洗浄便座を巡っては、メーカーを問わず、事故が度々発生している。「温水が出ない」「便座が暖かくならない」などの故障があっても、便座としては機能するため、電気を入れたまま使い続ける利用者がいるためだ。業界各社からなる「日本レストルーム工業会」は、注意喚起を促すチラシに改良を重ねている。2022年度版はイラストをふんだんに使い、読みやすさを高めている。

経済産業省「リコールハンドブック」で消費者への啓発での好事例として示された日本レストルーム工業会のチラシ

「消費生活用製品のリコールハンドブック2022」より

温水洗浄便座を正しく使うように呼びかけている日本レストルーム工業会のチラシ

【関連情報】

消費生活用製品のリコールハンドブック(経済産業省)