政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.9

「地方」「コロナ後」見据えて 新局面に入ったスタートアップ支援

関係府省が語る「これから」【前編】

スタートアップ支援に挑む各府省の面々(左から長谷川、齊賀、石井、神部、曽宮の5氏)

 革新的な技術やビジネスモデルを通じて、さまざまな課題に挑むスタートアップ。コロナ以降の社会を描くうえでも、その発想や機動力への期待は大きい。スタートアップの活力を日本全体のイノベーションにどうつなげるか。関係府省の担当者が、これからの支援策を語り合う。

いまこそ求められる力

【内閣府科学技術・イノベーション担当企画官 石井芳明氏(以下、石井)】
 僕は内閣府の立場で各省庁と連携して、スタートアップ・エコシステムの形成支援に携わっているのですが、いまほどスタートアップの力が求められている時代はないと思うんです。産業構造の変化や人々の価値観の多様化はもとより、頻発する自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大といった脅威を前に、これに立ち向かう最大の力はイノベーションであり、その担い手がスタートアップだからです。7月に開催された官邸の会議(総合科学技術・イノベーション会議)では、「起業家精神あふれる人材を次々と生み出していくエコシステムの実現」を目指して、スタートアップを集中支援する拠点都市構想や起業家教育へ向けた環境整備といった方針が示されました。

内閣府の石井氏


【文部科学省産学連携・地域支援課課長補佐 神部匡毅氏(以下、神部)】
 文部科学省では主に大学発ベンチャーの創出や、それにつながる起業家教育に関する施策を実施していますが、これらを進める上で「クリティカルマス」を意識することが必要だと考えています。例えば新たな商品やサービスが普及する過程では、一定量を超えることで爆発的に広まる分岐点があります。スタートアップ育成も同じように、日本の社会や経済の中で、その存在意義を大きく変化させるためには質・量ともに分岐点を超えることが必要です。だからこそ、施策の立案、実施においても規模感を意識しています。先ほど、石井企画官からご紹介のあった「スタートアップ・エコシステム拠点都市」は、大学や研究機関だけでなく、産業界や自治体など地域の力を結集してスタートアップを集中支援する枠組みです。クリティカルマスを超えるためには、産学官の連携が不可欠であり、拠点都市の取り組みには期待しています。

文科省の神部氏


【経済産業省新規事業創造推進室室長補佐 長谷川聡一郎氏(以下、長谷川)】
 集中支援といえば、経済産業省が展開する「Jスタートアッププログラム」は、これまで有望企業139社を選定し、海外展開支援や大企業との交流機会の提供などを進めてきました。これまで接点の少なかった官と民の距離が縮まった効果を実感する一方、選定企業の顔ぶれは首都圏中心。地方での起業増や事業環境の整備を通じた機運醸成はこれからの課題ですよね。

経産省の長谷川氏


【農林水産省産学連携室室長 齊賀大昌氏(以下、齊賀)】
 私は農林水産業や食品産業の産学連携を担当していますが、これら産業にこそスタートアップの力が求められていると認識しています。高齢化に伴う人手不足が進展する一次産業は効率化につながる技術や生産手法を取り入れる必要に迫られており、他方、食品産業は世界的なたんぱく質の需要増加に伴い、食に関する最新技術「フードテック」を導入することで、食料安全保障上のリスクを低減することが産業政策としても重要課題となっているからです。コロナ禍で、地方での就労に目が向けられていることも農林水産業にとってはチャンスです。移住者と農業をつなぐ新たな業態や兼業ニーズの受け皿となるようなビジネスの広がりも期待されます。

農水省の齊賀氏


【環境省環境研究技術室室長 曽宮和夫氏(以下、曽宮)】
 確かに、働き方に対する意識変化は大きいと考えます。私自身、先日、ある会議に帰省先の九州からオンラインで参加したことをきっかけに、地方の潜在力をあらためて実感しました。持続可能な社会の実現に取り組むことが環境省の役割ですが、さまざまな制約を乗り越える原動力としてスタートアップの存在を意識した施策を展開していきたいと考えています。一例ですが、環境分野のスタートアップによるピッチコンテストの実施を検討しています。(予算要求の時節柄)詳細はお話できないのですが。

環境省の曽宮氏

起業機運をどう醸成

【齊賀】
 新規事業という意味では我々は、経産省のJスタートアップのような仕組みを構築していきたいと考えています。新たな生産手法や仕組みが広がるなか、これをビジネス化し、社会に普及させるには変革を担うスタートアップを選抜して、集中支援することが効果的と考えるからです。一方で、「選抜」するからには、同時に起業予備軍を含め起業人材のすそ野の拡大も同時に進める必要があると感じています。

【神部】
 起業人材のすそ野拡大の必要性は日々、痛感しています。問題は、アントレプレナーシップ教育を教えられる人材が少ないことです。一方で、大学の教員のみならず、起業の実務や多様な経験を持つ人材を活用し、産学のリソースを結集することで、アントレプレナーシップ教育のすそ野拡大ができればと考えています。冒頭にお話のあった「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の取り組みを通じて、産学官のさまざまな機関や人材とつながることは大いに期待できます。

【石井】
 人材については、各地、各分野にキーパーソンがいますので、その人脈をたどって若手を中心に勢いのある人を見つけていく方法があるのではないでしょうか。農林水産でも環境分野でもとんがっている若手研究者や起業家を積極的に応援することが地域の活力にもつながると感じます。

【長谷川】
 ところで新型コロナ後の社会変容はスタートアップのビジネスに少なからず影響を与えているかと思います。次回は、コロナ後のスタートアップ支援について皆さんと考えていきたいと思います。

 ※ 後編に続く。