政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.10

出でよスタートアップ 社会変容乗り越える原動力

関係府省が語る「これからの支援策」【後編】




 スタートアップ支援策をめぐる関係省庁座談会。後編では、新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会変容が及ぼす影響や、これからの支援のあり方について意見が交わされた。

さまざまな制約 むしろ逆手に

【経済産業省新規事業創造推進室室長補佐 長谷川聡一郎氏(以下、長谷川)】
 新型コロナウイルスの問題はスタートアップのビジネスにもさまざまな影響を及ぼしているかと思いますが、現状をどう見ていますか。経産省としてはスタートアップの技術やサービスを、大企業との連携を通じて既存のプラットフォームも活用しながら早期に社会実装することや、これまで解決手段がなかった社会課題やコロナ問題で顕在化する新たな課題について、スタートアップの力を活用しながらいかに克服するかといった点に注目しているのですが。

【内閣府科学技術イノベーション担当企画官 石井芳明氏(以下、石井)】
 観光、イベントや飲食サービスなど人の移動やリアルでの集客を伴うビジネスは当然のことながら大打撃を受けており、それ以外の多くのスタートアップも経済の停滞で苦労しています。一方、ヘルスケア関連やDX(デジタルトランスフォーメーション)関連ビジネスや「新しい日常」の実現につながる技術、サービスにとっては追い風です。デジタル技術やロボットなどの遠隔操作を通じて地理的な条件がもはや制約とならなくなったことで、地方のスタートアップにはチャンスが広がっていると感じます。

経産省の長谷川氏


【環境省環境研究技術室室長 曽宮和夫氏(以下、曽宮)】
 一方で、これから資金調達を考えているスタートアップは先行きに不安を抱いている面もあるようですね。

環境省の曽宮氏

【石井】
 確かに資金調達を検討している企業への影響は懸念されます。ですので、日本政策金融公庫の資本性ローンや日本政策投資銀行、産業革新投資機構などの資金供給強化を実施しており、多くの企業にご活用頂ければと思っています。ところで、先日、小泉進次郎環境大臣が、スタートアップの経営者らと意見交換されたことが話題になっていましたね。

内閣府の石井氏

【曽宮】
 小泉環境大臣と加藤政務官にご出席頂いた新たな環境ビジネスに先駆的に取り組むスタートアップとのオンライン意見交換会のことですね。スタートアップの皆さんとの関係を構築しながら、環境省ならではの視点で、地域や社会が直面するさまざまな課題解決につなげていく狙いです。

8月6日に開催された環境スタートアップ支援に関する意見交換会に臨む小泉環境大臣と加藤鮎子政務官

社会実装のカギ握る

【農林水産省産学連携室室長 齊賀大昌氏(以下、齊賀)】
 農林水産関連では、コロナの影響で高級食材が売れない、家庭食需要の増加で特定の食材がスーパーから消えるといったニュースについ、目が向けられがちですが、食を取り巻く構造的な問題と、コロナ禍で顕在化した新たな課題の双方に直面しています。家庭食の需要はおそらくこれからも伸びていくことが予想されますし、外食産業においてもウーバーイーツのように従来とは異なるサービス提供スタイルの広がりが予想されます。高齢化に伴う人手不足に直面する一次産業は、生産や流通の変革につながる技術や新たな手法を、早期に社会実装するうえで、スタートアップとの連携は欠かせないのです。

農水省の齊賀氏


【文部科学省産学連携・地域支援課課長補佐 神部匡毅氏(以下、神部)】
 コロナ後は地方のスタートアップが今まで以上に注目されるという石井企画官のご指摘にはまさに同感です。社会のニーズに応えるビジネスを展開するスタートアップをより積極的に後押しすることは重要だと思います。他方、前編でも「クリティカルマス」の重要性を話しましたが、起業の機運醸成には、同類の仲間の存在が大きいと考えます。コロナ禍で、起業家予備軍や起業家同士あるいは支援者とのリアルな交流機会が困難になる中、オンラインの世界でどれだけつながりを広めていけるかは課題のひとつです。

文科省の神部氏


【長谷川】
 経産省としても今後、Jスタートアップの地域への展開を考える中で、神部さんには、大学の学生の心に響く情報発信面での工夫などアイデアがあれば伺いたいです。

【神部】
 個々の大学というよりむしろ地域一丸となって、起業機運を高める方策が有効ではないでしょうか。例えば単願特許あたりの大学発ベンチャー創出数は大学間で大きな違いがあります。その要因には資金や人材面など支援環境の違いが影響していることは否めませんが、一つの大学だけで充実した支援環境を整備することは現実的ではありません。だからこそ、大学間の連携や産業界や自治体とも協力し、地域がチームとして起業支援の環境を整えていく視点は必要だと考えます。

【石井】
 今日、皆さんとお話して、スタートアップ支援をめぐるこれまでなかった新たな動きが霞ヶ関の中で生まれつつあることを実感でき、僕自身にとっても大いに刺激を受けました。日本の活力の源はイノベーション。その担い手であるスタートアップを各省庁連携で盛り上げていきましょう。

 ※ 特集「ソーシャルユニコーン目指して」は今回で終了です。次回から「世界で輝くグローバルニッチトップ企業」がスタートします。