2代目、3代目よ、イノベーションを起こせ!
レオス・キャピタルワークス社長・藤野英人氏×野村総合研究所未来創発センター2030年研究室長・齊藤義明氏
どれだけ競争力を持ったリーダーを輩出できるかが、わが国の競争力を左右する。それは大企業であっても中小企業であっても、はたまた地方創生であっても変わりはない。著書『ヤンキーの虎』で地方経済の新たなリーダーらを描いたレオス・キャピタルワークス社長の藤野英人さんと、多方面の革新者たちと地方創生に取り組む、野村総合研究所未来創発センター2030年研究室長の齊藤義明さんが、明日を担う人材について語り合った。
―多くの中小企業が後継者に悩んでいます。どのような事業承継が良いと思われますか。
藤野 事業承継はなかなか大きなテーマですね。事業承継が上手くいったのかどうかは、短期的には判断できない。最初は失敗したように見えても、最終的にはうまくいっていたり、短期的に成功したように見えても結局は失敗したり。半年や1年では見極められない。事業承継には大きく二つあって、一つは親族が引き受ける場合、そしてもう一つは親族以外。どちらが良い、悪いでなく、その会社の規模や、どれだけ現在の事業から転換したいかにもよるし、引き継ぐ人の経営者としてのクオリティもある。自分自身、10年ぐらい前までは、親族の2代目、3代目に引き継ぐのではなく、実力者の番頭など社内から経営者を選んだ方が良いと思っていました。ただ10~20年のスパンで見ると、優秀なサラリーマンが必ずしもうまくいっているわけではない。2代目、3代目の親族が継いだ方が結果的には良くなっていたというのが多いと感じています。
―最近の成功事例はありますか?
藤野 上場企業なのですが、事業承継が上手くいった最近の例にセリアがあります。ここは創業者の甥御さんが継いだのですが、もともと彼は大垣共立銀行で働いていて、基幹系システムの開発を担当してました。その後、創業者に請われてセリアに入社し、ITシステムを中心に業務改革を実行。在庫管理が最適化し、取引先ともウィンウィンの関係を築くことができ、それがセリアの躍進した一因になりました。そのような功績もあり社長に就任したのですが、実力もありましたし、親族という正当性も経営者としてプラスになっている。いまや業界2位に躍進し、トップのダイソーに迫っている。
平凡でも長期主義の目線を
―親族が成功する理由は何でしょうか?
藤野 目線の違いではないでしょうか。最大の問題は経営の短期主義。上場企業であればなおさらですが、サラリーマン経営者は四半期や半期、1年という短期間で結果が出せることを目指しがちで、長期的な投資施策がどうしても手薄になる。しかし短期で見えていることは実のところ誰にでも見えていることでもあり、事業のユニークさ、斬新さがどうしても失われてしまい、顧客にとってもつまらないものになります。かたや一族の場合は家族のためにも長きにわたって会社を存続させるつもりだから目線が自然と長くなる。たとえ平凡な経営者であっても長期主義の方が、優秀な短期主義の経営者よりもうまくいくのです。もちろん、優秀なサラリーマン経営者であっても長期主義に考えられるような報酬体系などの仕組みがあれば良いのですが。これからはそういう制度改革も必要でしょう。
齊藤 確かに2代目、3代目の方が根っこから商売に対するセンス、責任感が育っている。オーディションのように幅広く(経営者に)選ばれた人とは覚悟が違う。ただし今は2代目、3代目でも、先代から同じ事業をそのまま引き継げば安泰というパターンは減っていて、何か変化させなければ生き残れないと危機感を感じている方が増えている。これについては、従来の自分の商売しか知らずに育ってきた人と、他の分野で経験を積んだ人との差が出ているように思う。異分野での経験が本業を変えていく力になっているようだ。
―齊藤さんは地方で新たな事業創造を目指すプロジェクトにも取り組んでいます。同じようなことは言えますか。
齊藤 よく、地域を変えるのはその地域に根を張る人間であると言われるが、実は生まれてからずっとその地域で住み続けている人よりも、一度は東京や海外などに出てから戻ってきた人たちの方が新しい活動の主体になっているケースが多いように思う。同じところに居続けると、地域への愛情は強くなるが、それ以上にしがらみも抱えてしまう。また人と違ったものの見方もできずに、どうしても頑固になってしまう傾向もある。
藤野 同族企業の経営者も同じようなことを考えていますね。後継者をあえて他社で修業させたり、海外の現地法人の経営を任せて修業させたりしているところが結構多い。それが意識的なのか、無意識なのか分かりませんが。
ちょっと背中を押してあげる
齊藤 最近の後継者を見ていると、放っておいても新しい事業をどんどん展開していくタイプがまずいる。藤野さんが著書でご指摘されているような、自ら果敢にリスクを取って地方経済を引っ張る若手経営者「ヤンキーの虎」です。他方で、後継ぎとして本業の枠から抜け出せない人がいる。本業は親から引き継いだ大事なものだし、稼ぎ頭です。しかし、それだけでは将来じり貧になることも本人はわかっている。わかってはいるけど、おとなしく挑戦できずにいる。こういう次世代経営者に対しては、誰かと組み合わせて新しいことを始めてみようと、ちょっと背中を押してあげると、もともと実力があり経営資源もあるから一歩踏み出す場合が多い。地方創生の現場では私たちはそんな支援をやっています。
藤野 そもそも典型的なドラ息子のような後継者は以前より減ったように感じる。地方には財力のある人もいて、子どもを良い学校に行かせたり、ハイグレードな生活をしていたりもしてますが、昔のような見せびらかしの消費は減っている。それだけの余裕がなくなったこともあるでしょうが、(後継者である)子どもをちゃんと育てないと会社がダメになってしまうという考えも強まっています。
齊藤 確かにおとなしい2代目、3代目が増えている。以前、沖縄で藤野さんにお話しいただいたとき、先代をおとなしく引き継ぐタイプと、事業をガラッと変えてしまうタイプがいると言われました。どうしたら後者のようになれるのですか、両者の差はなんですかと質問したら、藤野さんはつまるところ「親を追い出すぐらいの気持ち」(物理的にではなく、心理的に)があるかどうかだと答えた。それを聞いた会場の2代目、3代目の多くが、ウンウンとうなずいていたのがすごく印象的でした。
―多くの大企業で長期的視点を持てないのは、ガバナンスに問題があるのでしょうか?
藤野 多くの企業ではガバナンスが、経営者を守るような方向に向いている。大企業は真面目だから、ガバナンスを強化しようというと、ルールを守ろうということばかりにのめり込んでしまう。会社が本来存在する意味は、社会とともに価値を創造すること。そのような一大プロジェクト集団だったはずが、ただ存続することばかりを目指すようになってしまう。それが結果的に日本の競争力を削いでいるのではないでしょうか。
ガバナンスに持続的成長が不可欠
―そのようなガバナンスに変化の兆しはありますか?
藤野 (経済産業省が、伊藤邦雄一橋大学教授を座長としたプロジェクトで2014年にまとめた)伊藤レポートでは持続可能な成長を訴えていて、成長が大事である、それも短期的ではなく、今年も来年も10年後も成長を続けることにコミットメントするガバナンスが必要である、という方向に舵を切っている。これは大企業であっても、中堅、中小企業であっても変わりませんが、特にオーナーシップを持っている中堅、中小の経営者の心にはしっくり来る。実際、伊藤レポート以後のガバナンス改革の影響もあってか、中堅、中小企業の方が株価の上昇率は高い。ここでいうオーナーシップは株式保有だけを指していません。仕事への愛着や愛情も含まれる。最近は、それが乏しい人が多い。仕事とは、「顧客と自分の会社と自分自身の価値改善運動である」と認識している人こそ、オーナーシップがあるということだと思います。そういう社長、役員、社員をどう作っていくかが重要です。ストックオプションだけでは十分ではありません。
―地方創生でも人材不足がよく指摘されますが。
齊藤 僕らのチームは地方創生のためのイノベーション・プログラムに取り組んでいるのですが、今の日本の地方創生はドーナツみたいだとよく言っています。つまり、外側の支援制度や提言みたいなものは数多いけど、真ん中で自らリスクをとって小さくとも何かを始めてみる人が薄かったり空洞化していると。たとえば多くの地方銀行は地方創生のためのファンドを作りましたが、「金は用意したけど、(新しい事業の種となる)タマがない」と言われます。一緒にタマを作りこみにいく当事者意識はあまりない。
藤野 「タマ」。それ、嫌いな言葉だなあ。「自分が見る目ないだけだろう」と言いたくなる。
齊藤 創業支援制度も強化されてきていますが、これを利用して地方で起業している第一位は飲食業、第二位は美容室。これは単純新陳代謝であり、新しい業態や働き方が出てきているわけではない。行政は有識者を集めて地方創生プランを作りましたが、有識者というのはあくまでオピニオンリーダーであり、自らリスクを賭して何かをやってみる人たちではない。必要なのは、真ん中で自らリスクをとり、オーナーシップをとって何かをやろうという人たちです。この真ん中を作り込むために一緒に中に入ってプロデュースしていこうというのが、われわれが進めているイノベーション・プログラムです。イノベーションというのは尖っているし、新しいし、小さいし、得体が知れない。だから最初は無視され、そして鼻で笑われ、次に攻撃される。そういう宿命にある。だから、どんなに笑われても、叩かれても、なんとかして粘り強くやり抜くことが一番大事になります。プログラムの参加メンバーが途中で諦めたり、逃げたりしないように、深い対話やモチベーションを重視しています。時には、新事業や新会社を立ち上げるんだよね、そう言ったよねと追い込むことさえあります。ファシリテーションサイドも緊張感も持ちながらやっています。
成功するかどうかに十分条件はない
藤野 私自身の会社では運用部のメンバーに対してあまり追い込まないスタイルです。あまり仕込むと「ミニ藤野」ばかりができてしまう。だから何も教えない。相手が学ぶことができる環境をどれだけ提供できるのかを考える。齊藤さんと似ているのは、一緒になってウロウロするところ。こいつはダメだということはすぐ分かるが、良いところを理解するのは時間がかかる。ダメな奴というのは、いつも嘘をつく、努力しない、真面目じゃないとか。彼らは時間が敵になる。時間がたてばたつほど淘汰されていく。ところが成功するかどうかというと、必要条件はあるが十分条件がない。これをすれば成功という答えはない。そもそも大きな成功にはイノベーションが必要ですが、それは理解できないもの。言葉で説明されて一発で分かるようなものはイノベーションじゃない。
齊藤 ところで、リンダ・グラットンの『ライフ・シフト』という本が出ましたよね。先進国では今年生まれた子の半分以上が100歳以上生きるという。そうなると事業承継のあり方とか、企業の形とかも変わると思われますか?
藤野 上場企業の社長の年代別の株価のパフォーマンスを作ったことがあるんですよ。これが面白いんです。結果は若いほど良い。30代、40代が良くて、そして50代、60代、70代と下がっていく。ただ80代以上の大企業経営者を抽出してみるとパフォーマンスが良いというデータもあるんですよ。それだけすごい人だからこそ社長として生き残っているというサバイバーエフェクトがあるのではないかと思います。体力も運も、いろんなパワーがある人が生き残っている。これで思い出したのは、私にベンチャーキャピタルの基本を教え込んでくれた方の話。その方が40代、50代の時、そろそろ自分がリーダーシップをとらないといけないと考え前に出て行ったら、先輩に止められたそうなんです。先輩が先である、順番だから我慢しなさいと言われた。そして70歳になったら、やっぱり先輩は皆元気だったというんです。だからやりたいと思ったら奪取しろと。100年時代では、待つのではなく世代間で適切な競争をすればいい。80歳で上手くできるのであれば代わる必要はない。30代、40代、50代でも、俺の方ができるというのであれば、奪取すればいい。だから大塚家具の場合も、親子げんかが良くないという話ではなく、世代の違う経営者が株主を巻き込んでどちらがベターかを世に問うたわけで、あれがライフ・シフトの一つの形。
イノベーションに年齢は関係ない
齊藤 面白いですね。経営者の最適年齢の概念が変わってきているように思います。必ずしも20代、30代だけが若手ではない。よく7掛けと言いますが、今では60代でも若い。大企業で一律に役職定年とするのは結構な損失だと思う。先日、70代になってもイノベーティブな経営を続けている方とお話しする機会があったんですが、イノベーションと年齢は関係ないよと言われたんですよ。スケベはいつまでたってもスケベだよって。
藤野 確かに北斎の晩年の作品を見ても、瑞々しくて、まるで20代が描いたように見えます。老人が描いたとは思えない。
―藤野さんは、頭は良いけど勝負感が悪いという人が増えていると指摘されてますが。
藤野 大手スーパーやコンビニが増えて商店街が寂れたデメリットの一つに、商売の現場を知らない人が増えたことがあります。商売をしている家では、子どものころから景気の波で夕飯のおかずも変わってしまうというようなことを経験する。そんなところから商売の感覚が養われる。そして商店街の中から価格交渉も減ってしまった。「サザエさん」を、昔の漫画の方ですが、読むと、10回のうち1回は買い物で値引き交渉を間違えたなんていうネタですよ。それが売り手も買い手もすっかりサラリーマン化が進んでしまった。それが日本の根っこの経済力を削いでいるのではないでしょうか。
齊藤 沖縄のプロジェクトで参加メンバーに美容師が一人入っている。沖縄で初めてヘアカットで1万5000円(の料金)をとった男なんですよ。普通、沖縄では1万円も取れないのが常識でした。彼は、従業員たちに、美容しか知らない美容師になるなと教育しています。それだと1万5000円は取れない。もっと広い世界観、スキルを持っているからこそ、そのゾーンに入っていける。
“トラリーマン”がカギ
藤野 実は今、本を書いています。日本には三つの虎が必要だという話で、一つ目がベンチャーの虎、二つ目が地方におけるヤンキーの虎。そして三つ目がサラリーマンの虎。実はこの三つ目の虎、いわゆる“トラリーマン”をもっと増やさなければいけないという問題意識を持っている。サラリーマンという枠の中でも、社内の常識と違う形で挑戦している人がトラリーマンなんです。経験を積んでベンチャー企業を興すのも良いし、社内でやり切るのも良い。こういう人たちをどう活性化するかが今後の日本のカギかな。トラリーマンには条件がいくつかあって、今説明したトラリーマンとしての仕事をしていることに加え、かつてどこかで尊敬される結果を一度は出している。そして3番目が結構重要なことなのですが、常務、専務、社長クラスの中に庇護者がいる。
齊藤 わかる気がします。あとトラリーマンって、社内の常識とは違った新しいことを仕掛けているから、風当たりも強いので、そんな逆風が吹いたときでも何とかプロジェクトを潰されずに生き残るための技が必要ですよね。いわゆるリーダーシップよりもサバイバーシップが大事な気がしています。
【略歴】
●レオス・キャピタルワークス社長
藤野 英人(ふじの・ひでと)
野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ジャーディンフレミング(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業。CIO(最高投資責任者)に就任。2009年取締役就任後、2015年10月より現職。中小型・成長株の運用経験が長く、ファンドマネージャーとして豊富なキャリアを持つ。東証アカデミーフェロー。
●野村総合研究所未来創発センター2030年研究室長
齊藤 義明(さいとう・よしあき)
1988年野村総合研究所入社。NRIアメリカ ワシントン支店長、コンサルティング事業本部戦略企画部長などを経て、現職。政策や企業経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。近著に『日本の革新者たち』がある。