アニメ会社の実像とそのビジネス
制作本数は増加も単価は下落
夏は世界中で、日本のアニメに関連する大きなイベントが目白押し。7月には、ロサンゼルスでアニメエキスポ2017が、パリでジャパンエキスポが開催された。8月には、ワシントンでオタコン2017が開催されたばかりだ。
そこで、今回は、情報通信業基本調査(注)から、日本の代表的なコンテンツビジネスであるアニメ産業を支えるアニメ制作会社の実像に迫るデータを整理し、単価が低下する中での多作化の傾向や、事業展開として二次市場収益獲得志向があるものの、実現のためには、著作権の保持という、乗り越えなければならない課題があることを明らかにする。
国内市場規模は広義で1.24兆円に拡大
まずは、アニメ業界の特徴を見てみよう。左上のグラフは、アニメ会社の売上高で計測した狭義の国内市場規模だ。2015年で約1,700億円と、ゲームの約1.8兆円に比べるとかなり小さな規模である(日本の2大コンテンツ、ゲームとアニメの制作企業の実像を比較する)
。しかし、右上のグラフが示す、エンドユーザーの多様な支払いベースで計測した広義のアニメの国内市場規模は約1.24兆円に達し、ゲームの市場規模と遜色がなくなる。アニメ業界の最大の特徴は、この2次市場の大きさであると言えるだろう。
1社あたりのアニメ制作本数は増えているが・・
左上のグラフは、アニメーション制作会社(以下、アニメ会社)の1社平均自社開発コンテンツ数(棒グラフ)と1社平均売上高(折れ線グラフ)の推移だ。
自社開発コンテンツ数の推移を見ると、(2015年度はやや減少しているものの)2012年度以降増加傾向にあることがわかる。折れ線が示す売上高も上昇傾向だ。右上の折れ線グラフは、「1社平均売上高/1社平均自社開発コンテンツ数」で計算した単価の推移を示したもので、こちらは2011年度に急上昇したものの、その後は横ばいの後に下落している。
すなわち、単価が下落する中で、数多く作品を制作することで売上を伸ばしているという構造である。これは、ゲーム会社がこの5年で大作志向を明確にしていることと対照的だ(ゲーム制作ビジネスは、グローバル志向;情報通信業基本調査が明らかにする、ゲーム会社の実像とビジネス)
進まない権利保有
アニメビジネスは、無体財産権を生み出した対価として売上が生じるという意味で権利ビジネスであり、どのような権利をどれ位管理しているかが収益を左右する。上のグラフは、アニメ会社の自社開発コンテンツに関する1次利用及び2次利用の権利の保有割合を、保有割合のカテゴリー別構成比にしたものだ。
2015年度には、1次利用の権利(本来の制作目的<対象メディア>で利用する権利)を全く保有していないコンテンツが5割を超えており、保有割合が50%未満であるコンテンツを合わせると9割以上に達していることがわかる。右のグラフが示す二次利用の権利については、元々、保有割合が50%未満であるコンテンツが9割近くを占めており、2015年度もその状況が続いていることがわかる。
2次市場志向、過大は権利確保
では、アニメ会社が事業展開についてどのような構想を持っているのだろうか。
アニメ会社について特徴的なのは、「映画制作」、「ゲーム、パチンコ、カラオケなどとの連携」、「グッズなどの商品化」といった、二次創作にかかわる事業展開への関心の高さだ。
もちろん、「テレビ番組制作」や「CM制作、広告制作」といった、会社が保有する映像制作スキルという経営資源をマルチに活用することへの関心も高いのだが、アニメは作品制作の直接市場よりも、アニメ作品が二次利用された各種エンターテインメントの広義の市場が大きいことから、そこに進出することを、事業展開上の課題として認識している様子が窺える。
ただ、そのために必要となる二次利用の権利の確保は、必ずしも順調にいっていない点は先ほど確認したとおりだ。
アニメ業界における「制作委員会方式」の功罪については様々な議論があるところだが、直接アニメーション作品を作り出しているアニメ会社の事業展開において、二次市場と権利問題が重要であることは確かかと思われる。
(注)ゲーム会社とアニメ会社については、当該事業に属する事業所を有する企業のうち、資本金額又は出資金額3,000 万円以上の企業を調査対象としている。
関連情報
http://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20170818_2_hitokoto.html