実証相次ぐ自動運転 その先にある未来
東日本大震災被災地の生活再建にも貢献
深刻化するドライバー不足の解消策として、あるいは高齢者などの移動手段の確保、さらには交通安全をはじめ、自動走行技術に寄せられる期待は大きい。自動走行社会におけるモビリティーは「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」との融合によってさらに効果を発揮し、移動に新たな価値をもたらすと目される。そんな未来を見据え、「自動走行×MaaS」の実証が各地で繰り広げられている。
空港バスと自動運転タクシーつなぐ
空港リムジンバスと連動した自動運転タクシーの実証実験が近く都内で始まる。訪日外国人らにスマートフォンアプリをダウンロードしてもらい、リムジンバスからタクシーに乗り継ぎ都内へのスムーズな移動につなげる。まさに複数の交通手段を使いやすくするMaaSの発想で、次世代交通システムの開発を後押しする狙いで東京都が実施するプロジェクトだ。
主軸となるのがZMPの技術である。同社は2014年に、愛知県内の公道でドライバーが乗車した状態による自動運転の実証実験を開始したのを皮切りにその後、実証地域を拡大。17年末にはドライバーが運転席にいない状態での遠隔型自動運転システムの公道実験を実施。18年には世界初の自動運転タクシーによる営業運転を大手町ー六本木間で行うなどノウハウを蓄積してきた。昨年のタクシーによるサービス実証では9割以上の区間を自動運転で走破。利用者からも安心して乗車できたとの声を得たという。
成田空港や中部国際空港などでは空港内の作業車両の自動運転化をにらんだ実証も進めている。訪日外国人の急増などで繁忙を極める空港業務の効率化に期待がかかる。
ニーズにどう応える
谷口社長はこう語る。
「いまある車両の自動運転化だけが目的ではありません。既存の移動手段で満たせないニーズや社会が直面する課題に技術でどう応えるか。これが僕の考えるMaaSです」。そのために必要となるのは「新たなモビリティーかもしれないし、パーソナルロボットかもしれない」(同)。
MaaSは人の移動にとどまらず、モノの移動にも変革を及ぼそうとしている。ZMPが手がける宅配ロボットによるコンビニ無人配送サービスはそのひとつ。発注者のスマートフォンにはロッカーのカギとなるQRコードが送信され、ロボットのカメラにかざすと荷物を取り出せる。決済まで完結する無人配送は世界初という。
ロボット開発者ならではの独自の視点でMaaSを捉える谷口氏が次に打ち出す戦略は、利用者の自宅や勤務先から駅やバス停といった公共交通機関の利用拠点まで、すなわち「ラストワンマイル」をつなぐ、自動運転による新たな移動手段の提供だ。「モビリティーと称すると車両をイメージされるかもしれませんが、人間にとってパートナーのような存在」とか。7月下旬にはその全貌が明らかになる。
被災地の生活インフラ担う
「自動走行×MaaS」の本命と目されるいわゆる「ロボットタクシー」の実用化をにらんだ実証も進む。日産自動車とディー・エヌ・エー(DeNA)が2018年3月末および2019年2月から3月にかけて、横浜で実施した「Easy Ride」である。日産の電気自動車(EV)をベースに開発した自動運転車両に一般募集した参加者が乗車。観光施設や商業施設が集積するみなとみらい・関内地区に設けられた「乗降地」のうち、希望の「乗降地」まで自動運転車両での乗車体験が可能だ。
そしていま。この取り組みが、東日本大震災被災地の住民の足、生活インフラとして新たな意義を帯びつつある。
福島県の浪江町、南相馬市で近く始まるのは、自動運転タクシーや配送ロボットサービスの実用化へ向けた実証実験だ。被災地への住民の帰還を進めるには、買い物や医療、公共交通網の再構築が欠かせないが、自動運転タクシーや配送ロボットを活用することで、住民への移動手段を提供するとともに、物流サービスをはじめとする生活インフラを担う狙いだ。
同じく浪江町では、物流の無人化に向けた実証も進む。半年前にZMPが日本郵便と実施した実証実験では郵便局や住宅に見立てた拠点間をロボットが周辺環境を360度確認しながら最高時速6キロメートルで自動走行した。ここで活躍したのはZMPの宅配ロボットである。
また一連の実証事業が繰り広げられる浪江町、南相馬市は、経済産業省と国土交通省が進める新プロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」の支援対象地域として6月18日に選定された。日産、DeNAなど民間企業が地元自治体や研究機関など組んで、自動運転タクシーや自動運転代行、配送ロボットの営業開始を2028年度に目指す。これを弾みに先進的な取り組みがさらに加速することが期待される。
サービス実用化を見据え、躍動する自動走行技術のプレーヤーたち。その動向から目が離せない。
※ 次回は地域発の取り組みを紹介します。