イノベーションで世界に貢献
世耕弘成経済産業大臣に聞く【後編】
G20(主要20カ国・地域)会議で日本は地球規模の課題においても、議長国として主導力を発揮することが期待される。インタビュー後編では、日本の技術力や企業の取り組みで世界にどう貢献するのかを聞いた。
TCFDグローバルな議論を
ー環境と成長の好循環に向け、グリーンファイナンスの可能性をどう見ていますか。
「これからは企業にとって温暖化対策はコストがかかるネガティブな取り組みではなく、成長力の源泉になる。成長やイノベーションを環境分野でも起こしていかないといけない。そのためにはファイナンスも重要だ。資金がしっかり供給され、それを活用し、気候変動に関する取り組みのイノベーションを起こしていくことが非常に大切になる。その際、各企業には環境分野でのイノベーションに関して、どういう取り組みを行っているか、積極的な情報開示が求められる。また企業の動きに対して、金融機関が適切に評価し、ファイナンスをしていく資金循環メカニズムの構築が極めて重要になる」
-こうした機運を経済産業省としてどう後押ししますか。
「2018年12月に政府として世界で初めて、企業の気候変動に関する取り組みを開示する『TCFDガイダンス』を策定した。今後、2019年5月末には、TCFDに賛同した企業が集まり、産業界と金融界の対話の場として『TCFDコンソーシアム』を設立する。コンソーシアムではこのガイダンスについて業種や事例を追加して改訂したり、金融機関向けのグリーン投資ガイダンスを新たに策定していく。事業会社と金融機関向けの二つのガイダンスの策定や、コンソーシアムでの議論を通じて産業界と金融界のグリーンファイナンスに関する対話を促し、好循環を作っていきたい」
ー日本企業の貢献や強みが評価されるよう、国際的な議論の場において、どんな働きかけを行いますか。
「日本におけるTCFDの取り組みは若干遅れていたが、ここにきてその趣旨に賛同する企業が急増している。世界的にはTCFDに参画するのは金融機関が多いが、日本は製造業など産業側が多いのが特徴で、良い循環になっている。コンソーシアムの議論などを国内で閉じるのではなく、世界にも発信したい。世界の先進的な企業や投資家を一堂に集めた『TCFDサミット』を2019年秋に日本で開催したい。またG20の機会も生かしながら産業界と金融界の対話の重要性について議論し、関係閣僚会合の場でも積極的に発信する考えだ。産業界の声を踏まえた開示や評価のあり方について、国内の議論を世界と共有してグローバルな議論を日本がリードしたい」
水素の利活用 議論深めたい
-2018年に開催した『水素閣僚会議』を踏まえ、エネルギー転換や脱炭素化へ向けて今回のG20ではどのように議論を深めていきますか。
「エネルギー転換と脱炭素化を本当に進めていく意味では今のイノベーションの連続ではなく、一段飛びする、つまり非連続のイノベーションが必要だ。温暖化対策の国際ルール『パリ協定』に関する長期戦略の有識者懇談会では、水素を重要な要素に位置付けて頂いた。今後、策定する政府の長期戦略では水素のコストを2050年までに現在の10分の1以下、すなわち天然ガスよりも割安にする目標を盛り込むことを検討している。水素に関しては、日本は製造から貯蔵、輸送、利活用まで一貫した技術を完全に持っている唯一の国だ。この日本が世界を先導していくことが非常に重要であり、2018年10月に世界初の水素閣僚会議を開催し『東京宣言』を発表できた。東京宣言の実現に向けた取り組みが世界中で広がりつつある中、今年9月には2回目の水素閣僚会議を東京で開きたい」
「G20のエネルギー・環境閣僚会合の場でもエネルギー転換・脱炭素化のキーテクノロジーである水素の重要性、利活用の可能性について各国と議論したい。2年くらい前までは、水素は日本だけがやっていたという感覚であったが、日本が言い続けたことにより、今は大きく変わった。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でも水素に対する注目度は非常に高く、私は(水素に関する協議の場で)リードスピーカーの役割を割り当てられた。それだけ水素に注目が集まっているし、日本がリード役として認知されていると思う。G20は大きなチャンスであり、世界各国を巻き込むムーブメントを作り出したい。また化石燃料を産出している国も大きなチャンスであり、G20にはエネルギー産出国がたくさん参加するので水素の議論にしっかり巻き込んでいきたい」
ー今年3月には、燃料電池車(FCV)の大幅な値下げなど水素利用に関する目標を盛り込んだ「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を改定し、野心的な目標を設定しました。
「ロードマップについては(省内に対して)目標を達成できるという強い思いを持って取りまとめてもらいたいと指示し、世の中にしっかりしたメッセージを出した。また2019年度の水素関連予算については1.5倍程度に増額させた。水素の予算を大きく増やしたのは、政府の本気度を示すものとなった」
カーボンリサイクルで国際連携を
-二酸化炭素(CO2)の分離・回収や技術開発を促進するため「カーボンリサイクル」という新たな概念も打ち出しました。実現に向け、今後どのように国際的な取り組みを進めますか。
「現在、CO2削減については、発生源を抑制するというアプローチで対応している。だが、これから発展途上国もどんどんエネルギーへのアクセスを獲得する中、発生源を抑える発想だけでは対処できない。この点についても非連続のイノベーションが重要であり、発生したCO2を回収・貯蔵し、利活用する発想が必要になる。これまでCO2を悪者として発生を抑えることを考えてきたが、CO2を供給源として捉えることが非常に重要となる。発想を転換し、カーボンリサイクルの技術を重視したロードマップを策定している」
ー具体的には。
「例えばCO2と水素を原料にして太陽光エネルギーでプラスチック原料などを作る触媒技術や、藻にCO2を供給してバイオ燃料に変える技術など、いろんな技術がある。この中で具体的にどの程度、その製品がCO2を削減できるポテンシャルがあるのか、技術開発のスケジュール感も含めて打ち出したい。まだフィージビリティ(事業の可能性)という段階でもあるが、削減のポテンシャルやコストダウンの可能性を示していきたい。エネルギー・環境相会合でロードマップを示し、各国と共有できれば良い。この分野でも日本が先手を取って主導する考えであり、9月25日に東京で『カーボンリサイクル産学官国際会議』を開催する。主要国の産学官を巻き込み、最新の知見や国際連携の可能性を確認してイノベーション推進のための課題について議論を深めたい」