地域で輝く企業

【広島発】業務用洗濯機を中心に「MADE IN ONOMICHI」を世界へ

広島県尾道市 株式会社山本製作所

「瀬戸内の十字路」と呼ばれ、海運や造船で栄えた広島県尾道市。風光明媚な土地柄で、小津安二郎らの映画作品のロケ地にも度々なってきた。そこを拠点に「MADE IN ONOMICHI」を掲げ、世界展開を視野に入れたモノづくりを行っているのが山本製作所だ。業務用洗濯機やシーツの仕上げを行う機器などの製造販売を行い、業績を順調に伸ばしている。「モノづくりの究極を目指すことで、未来を創造していきたい」と山本尚平社長(68)が話すように、他社に依存しない生産体制を築き、「地域で輝く企業」としての存在感を増している。その根底には「社員は会社の大切な財産である」という人本経営があるという。

高台にある山本製作所の本社と工場。鉄道の最寄り駅は山陽新幹線の新尾道駅

山本製作所は、「山本鉄工所」として山本社長の父、山本卓二氏が1947年に尾道で創業した。「自宅近くにクリーニング店があり、手先の器用だった父が機械の修理などを行っているうちに、自分で洗濯機を作って売り出したそうです」と山本社長は話す。以来、クリーニング店向けの業務用洗濯機を中心とした製造販売を手がけてきた。

工場内には、組み立て途中の業務用洗濯機が整然と並ぶ

海外市場の開拓にも力を入れ、将来は売り上げの半分目指す

その後、1996年にはコインランドリー用の機械の製造販売に参入。2007年からはシーツや枕カバーなどのリネン類の仕上げを行うロールアイロナーやタオルフォルダーの製造販売も手がけている。2009年以降は海外市場の開拓にも力を入れ、現在売り上げの約35%を輸出が占めるという。昨年の売り上げ(12月期)は約614000万円と前年比約15%の伸び。それをここ数年で「100億円の売り上げにしたい」と山本社長は話す。「これまで海外の販路はアジアが中心でしたが、これからは欧米でも本格的に売り込みを行い、売り上げの半分を輸出が占めるようにしたいと思っています」。山本社長は地元の高校を卒業後、山本製作所に入社し、2002年に社長業を父親から引き継いだ。

レセプションルームには会社の歴史などを示すパネルを展示。「社内外の人に我が社の目指す経営を知ってもらう格好の場所になっています」と山本社長(写真右)

もっとも、中小企業が地方で輝き続けることは容易なことではない。1990年代には市場を見いだせず、低迷した時期もあったという。そこから立ち直り、業績を伸ばしてきたビジネスの強みとは何なのか? 「機械と設置費用を合わせたイニシャルコストで安さの競争するのではなく、機械を導入してから使い続けるトータルのライフタイムコストを見渡したモノづくりに力を入れていること」と山本社長が教えてくれた。どういうことか。製品の安売り競争に参入するのではなく、堅牢で優れた製品を作って、それを長く使ってもらうことでトータルのコストを抑える中長期的なビジネスの手法に力を入れてきた。

製品の部品は整理され、自動で取り寄せられるようになっている

中長期的なトータルのコストでの優位性を強調

「例えば、業務用洗濯機を売るとして、価格は弊社の製品より安くても、10年しかもたないとすれば、我が社では30年使い続けられる商品を作ることに力を入れています。もちろん、メンテナンスや部品の供給もそれに見合う体制を整えており、他社にはまねのできない、我が社の強みだと思っています」と山本社長。10年しか持たない洗濯機を3回取り換えるよりは、1台の洗濯機を30年使い続けた方がトータルのコストでみると、リーズナブルになるというわけだ。その機械のタフさとメンテナンスのきめ細やかさから、山本製作所の製品は海外で「Forever Machine」と評価されているという。

シーツなどのリネン類を仕上げる機器。近年はホテルなどが自前でこの機器をそろえるケースが出てきたという

それを可能にしているのが98%という内製率の高さ。中小メーカーの場合、内製率は2030%が一般的だという。「マーケティングから始まり、設計、溶接、部品づくり、機械加工、塗装、そして組み立てまでを一貫して手がけられる自社完結のモノづくりによって、妥協のない堅牢な製品を作ることができ、長期間、交換用の部品の供給も可能になります」。部品を外注しないため、輸送費などがかからず、それがCO2削減にも役立っているという。

「Made in Onomichi」が山本製作所のアイデンティティになっている

ビジネスの根底に「人本経営」を掲げ、「人財」を育てる

こうした独自の取り組みを可能にし、躍進の根底には、山本製作所の重んじてきた「人本経営」がある。要は会社で働く仲間と家族は貴重な財産として何よりも大切にすること。山本製作所では「人材」ではなく「人財」と呼び、全ての社員を正社員として採用。5年連続で年5%以上のベースアップを行い、残業も基本的にないという。そうすることで、リクルートもしやすくなるという。「人財のための投資は惜しみません。現在220人の従業員数を数年後には300人体制にして、グローバルなマーケットを開拓していくための環境を整えていきたいと思っています」と山本社長は話す。

女性社員も3割以上を占め、経営に欠かせない戦力になっている

2021年からは社外から講師を招き、生産性向上などに関する様々なプロジェクトを実施。これも「人本経営」の一環で、トヨタ自動車の関係者を招いて行っているトヨタ生産方式(TPS)を導入し、無駄の徹底的な排除と合理的なモノづくりの姿勢が根付いてきた。さらに効率化を進めるために最先端の機器の導入にも積極的だ。板金加工では世界初となる加工ラインの自動化を実現。ロボットなどを導入し、生産性向上や省人化にも取り組んでいる。

作業で気が付いた点などがボードにぎっしりと書き込まれ、社員で共有しながら効率化を図っている

尾道に拠点を集中させることで、製造に関わるコストを削減化し、製品の一元管理もしやすくなる。「もちろん、生まれ育ったふるさとに寄せる想いもあります。尾道と言えば、『洗濯のまち』と思ってもらえるようにグローバルな展開に力を入れていくつもりです」

板金加工にも最新のロボットなどを導入し、効率化と省人化に力を入れている

 

【企業情報】公式企業サイト=https://www.onomichi-yamamoto.co.jp/代表者=山本尚平社長社員数220資本金1億円創業=19474