
【大分発】電気通信工事軸に多彩な事業をDXの力を借りて展開
大分県大分市 株式会社ネオマルス
大分市内中心部の目抜き通り沿いに本社を構える「NEOMARS(ネオマルス)」。新聞などで業績が報じられる時には「電気通信工事業」と紹介されることが多いが、それだけにはとどまらない多彩な事業を展開する。地元の食堂を社員食堂として利用できるアプリを開発したり、ドローンサービスの受注サイトを運営したり。「生活とビジネスの両面で新たな価値を創造し、提供していきたいという想いで事業を展開しています」と甲斐武彦社長(58)は話す。現状に安住せず、ビジネスを通して新たな価値を生み出していくことが社会貢献にもつながるという。DXを駆使しながら、地方で輝き続ける秘訣とは?
オフィスは官公庁や繁華街にも近い大分市内の中心部に
JR大分駅から北へ真っ直ぐ延びる中央通りをゆっくり歩いて約10分。昭和通りにぶつかる交差点を左折して、2分ほど歩くとネオマルスに着く。シティーホテルと日本政策金融公庫大分支店の入居するビルに挟まれた細長い8階建ての自社ビルの5~8階部分に本社を構える。官公庁や盛り場も徒歩圏で、大分市の中心部に位置する。

自社ビルの上層階にオフィスを構える。大分県立美術館や大分城址公園にも歩いて行ける
古代神話の軍神にあやかり、ビジネスの世界で戦う
稼業を尋ねる前に「ネオマルス」という社名が気になった。「ネオ」とは「新しい」ということ。「マルス」はローマ神話に登場する軍神の名前だ。ウィキペディアによれば、ギリシャ神話の「アレース」と同一視され、勇敢な戦士や青年の理想像として慕われてきた。「創業当時は20代半ばで、『マルス』にあやかることで、ビジネスを一種の戦いに見立てて勝ち抜いていこうと意気込んでいました」と創業者でもある甲斐社長は話す。現代によみがえった戦いの神に仮託して、大分でビジネスを果敢に切り拓いてきたということなのだろう。

会議室ごとにインテリアが異なっている。「昔、内装工事の仕事をしていたので、その時の経験があるかも」と甲斐社長
甲斐社長は大分県別府市出身。大分市内の高校を卒業後、地元の内装工事会社などで働き、その後飲食業界に入って居酒屋などで雇われ店長を任された。そして独立。1991年に現在の会社につながるネオマルスコーポレーションを創業し、大分市内で飲食店と衣料品店を展開した。「音楽やファッションなどにも関心があったので、仕事を通して地元の文化を盛り上げていきたいという想いもありました」

「経営の中核に置くのは『人』。すべての事業が人が存在することで始まるわけですから」
創業の翌年には衣食住をテーマにした総合プロデュース業にも乗り出した。「衣食住は生活に欠かせないので、それを扱っていれば、仕事がなくなることはないだろうと考えました」。その過程でCSデジタル事業に参入。オフィスや個人宅などでCS放送用のパラボラアンテナの設置工事を行い、それが「電気通信工事業」につながっていく。その後、デジタル化の波に乗ってCATVの工事やIT関連のネットワークの敷設なども幅広く手がけるようになった。
作業員が本来の工事に集中できるようシステムを開発
現在は電気通信工事業、人材事業、そしてIT推進事業が大きな経営の柱になっている。それらのいずれもDXを駆使しながら成長を続けてきた。その多くで、仕事をしていて疑問に思ったり、業務を自らで改善したりした時の経験が生きているという。例えば、2005年から展開を始めた「uRAT(ユーラット)」という電気通信工事の全国ネットワークサービス。創業当時、電気通信工事を請け負っていた際、発注元から現場で施工をする会社の間に中間管理会社が複数存在して、受注や管理が複雑になり、本来の現場施工業務に集中しづらかったという。そこで、電気通信工事業者のために営業や支払い業務、クライアントに対する窓口業務など代行するサービスを展開。「零細な業者でも事務作業に煩わされず、本来の工事に集中できるようになりました」と甲斐社長。2011年には工事進捗システムの「stella(ステラ)」も自社開発して導入し、クライアントと施工現場の担当者が工事の進捗具合をリアルタイムで共有できるようになった。

uRATの発注・管理の模式図。発注会社とパートナーの間にネオマルスが入って、様々な事務作業や社員教育などを代行する

「地域未来牽引企業」など、これまでの業績が評価され、オフィスには様々な表彰状が並ぶ
uRATは現在、全国で約600社計約3000人の施工業者が登録し、ネオマルスの中核的な事業に成長。DXを活用する一方、研修センターを設け、未経験者を含め、現場作業員の技術教育にも力を入れているのも特長だ。「いくらDXと叫んでも、最後は人。教育というアナログな部分をフォローすることも大切なんです」と甲斐社長は強調する。「uRATはもちろんビジネスですが、現場で働く人たちが仕事に集中でき、さらに稼げる環境を築けないかと始めた事業でもあります」
街の飲食店を社員食堂として使えるアプリを公開
2024年3月からスタートした「まちなか社員食堂 Go Smart」というサービスも、社内の福利厚生改善の取り組みが、新しいサービスに発展した。社員が行きつけの飲食店などをアプリに登録し、そのランチ代などの一部を勤めている会社が補助する。街中の飲食店を社員食堂にしようという取り組み。2015年12月に社内のプロジェクトとして始まり、2017年に専用のアプリを開発。2021~2022年の新型コロナウイルスの感染拡大期にはアプリに勤怠管理や緊急連絡のできる社内通知機能も盛り込んだ。さらにテイクアウトメニューなどの機能を盛り込んで、2024年に社外の人も利用できるアプリを公開した。

2024年に刷新したネオマルスのロゴマーク。「人」と「Value」の頭文字がモチーフになっている
価値を創造し、それを届けることが社会貢献にもつながる
他にもドローンの社会実装を目指すプラットフォームの運営やスマートフォンで鍵の開け閉めのできるスマートロック開発・販売、そして電気通信業界を中心とした人材派遣など幅広く手がける。2024年度9月期の売り上げは26億8900万円。5年後にはグループ会社も含めて42億円超の売り上げを目指す。そうした目標に向けて、社員が同じ方向を向いて事業を進められるよう、昨年、ロゴマークを刷新した。菱形の上半分が「人」。そして下半分が「Value」の「V」を象っている。「どんな事業でも人が介在しないと進みません。だから何よりも人を大切にしたいという想いを込めました」。同時に「be Value」という経営理念も掲げ、「価値あるモノを、価値あるコトへ」と甲斐社長は唱える。「価値のあるものを商品化し、それを求めるお客様に提供することは、新たな社会貢献につながっていくと確信しています」

大分は文化的なレベルが高いことで知られる。2022年に亡くなった磯崎新さんは世界的な建築家として知られ、初期の傑作とされるアートプラザも大分市内に残る(写真上)。JR大分駅前にはフランシスコ・ザビエル像(写真下・手前)とキリシタン大名として知られる大友宗麟像(写真下・奥)も
【企業情報】▽公式企業サイト=https://www.neomars.co.jp/▽代表者=甲斐武彦社長▽社員数282人(2024年1月現在、契約社員なども含む)▽資本金4000万円▽創業=1991年10月5日