政策特集身近になる宇宙 vol.5

データビジネスを支える衛星・ロケット開発最前線

一体運用の「コンステレーション」から小型化・低コスト化まで

人工衛星のデータを利用した宇宙ビジネスが活況を帯びてきている。衛星を利用した地球観測技術「衛星リモートセンシング」(衛星リモセン)で得たデータを利用した産業が生まれている。中でも多くの衛星を宇宙に打ち上げ一体的に運用する「衛星コンステレーション」によって大量のデータが集まり、応用の幅が広がっている。さらに大量の衛星を宇宙に運ぶための低価格の小型ロケットの開発も進み、民間の宇宙への期待は膨らんでいる。

新法施行、民間参入を後押し

衛星画像の取り扱いなどに関する「衛星リモートセンシング記録に関する法律」(衛星リモセン法)が2016年11月に成立、17年11月に施行となった。政府は民間の宇宙ビジネスの参入を後押しする。
NECは1月、経済産業省の助成事業で開発した高性能小型レーダー衛星「ASNARO―2」(アスナロ2)を打ち上げた。地表を1メートルの空間解像度で撮影する「合成開口レーダー」(SAR)を搭載し、災害状況把握や国土管理などに利用する。
同社は4月から東京都内に設置した専用施設から衛星の運用を開始。9月末までに衛星画像の販売を始める。衛星の製造や運用、画像販売などを手がけ、宇宙サービス事業で20年までの累計で50億円を目指すという。
また、衛星からの電波によって位置情報を計算するシステムとして、米国の全地球測位システム(GPS)は有名だが、現在、内閣府が国家インフラとして日本版GPSと呼ばれる準天頂衛星システム「みちびき」を整備中であり、現在4機の打ち上げが完了し、11月からサービスを始める。センチメートル級の測位サービスが可能となり、自動車やトラクターの自動運転や無人航空機(ドローン)の自律飛行など産業への応用が期待されている。
一方、民間では100キログラム以下の超小型衛星を大量に宇宙に打ち上げ、地球全域をカバーする通信網や、衛星リモセンでの地球の観測頻度を大幅に増やした画像の撮像などを目指している。後者のシステムを利用した地球表面の同時観測は防災や農業への利用が考えられている。従来の衛星利用の地球観測手法では、同一地点を撮像するまでに数日間の空白が生じるなどの課題があった。短い間隔で定点観測できる方法が求められている。
海外では米グーグルの衛星画像事業を買収した米プラネット・ラボが17年7月時点で180機の衛星による地球観測体制を確立。日本ではスカパーJSATの子会社である衛星ネットワーク(東京都港区)がプラネットの衛星画像の販売を手がける。
一方、日本では宇宙ベンチャーのアクセルスペース(東京都中央区)が、22年までに100キログラム程度の超小型衛星「グルース」50機を地球周回軌道上に配置する計画だ。その最初の3機を18年に打ち上げる。

複数の超小型衛星が地球を周回し情報を集める(アクセルスペース提供)

50機の衛星の打ち上げが実現すれば地球の陸地の約半分を毎日撮影できる。空間解像度は2・5メートル。地表画像を基にデータを分析し、顧客に提供する。アクセルスペースの中村友哉代表取締役は、「農業や都市計画などに利用できるプラットフォーム作りに役立てたい」と期待する。

打ち上げニーズに応える

超小型衛星を打ち上げたい大学やベンチャーなどは多い。だがそのニーズに応えるには「運び屋」となる低価格のロケットが必要になる。現状で基幹ロケット「H2A」の打ち上げ費用は100億円程度とみられる。アスナロ2を載せた小型固体燃料ロケット「イプシロン」3号機の打ち上げ費用はその半額となる約45億円だが、手軽に打ち上げられる状況ではない。
近年需要が増す超小型衛星の打ち上げニーズに応えるため、民間でのロケット開発が進んでいる。堀江貴文氏らが出資するロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)は、長さ10メートルの観測ロケット「MOMO」(モモ)3号機を北海道大樹町から打ち上げるため、クラウドファンディングで開発や打ち上げの費用を募っている。
同社はモモ初号機を17年7月、同2号機を18年6月に打ち上げたがどちらも目標の高度100キロメートルには到達しなかった。だが結果をバネに改良を重ね、三度目の正直で宇宙空間への打ち上げを目指す。打ち上げ成功後には今後の小型ロケットの量産化を見据える。
さらにキヤノン電子やIHIの100%子会社であるIHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行は7月、小型ロケットの打ち上げサービスを提供する事業会社としてスペースワンを設立。21年度に事業化、さらに20年代半ばに年間20機のロケットの打ち上げを目指している。
低価格のロケット開発は超小型衛星の打ち上げ機会の増加につながる。それに伴い、衛星データを利用したビジネス機会が増えていくと期待される。今後、国産の民間ロケットが宇宙に旅立つ日も近いかもしれない。