日本から世界へ~スタートアップ新潮流 vol.2

スタートアップエコシステムで日本は変わる 

日本ベンチャーキャピタル協会・仮屋薗聡一会長vs内閣府・石井芳明企画官(後編)

日本ベンチャーキャピタル協会の仮屋薗聡一会長(右)と内閣府の石井芳明政策企画官

変わる経営者像

 巨大ITプラットフォーマーが世界を席巻し、米国や中国のベンチャー企業が巨額の資金を調達して研究開発や事業展開を進めるいま-。日本の起業家や投資家には、これまで以上にグローバルで高い視座が求められるとの指摘もある。

 内閣府・石井芳明企画官(以下、石井) 「J-Startup」プログラムは、世界で戦い、勝てる企業を生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供することを目指しています。日本で活躍する約1万社のスタートアップの中から、第一線の民間の目利きのご推薦をもとに、第一弾として92社が認定されました。この中には、グローバル展開中のメルカリやロボットスーツのCYBERDYNE、創薬プラットフォームのペプチドリームなどメディアなどで目にする機会の多い企業も含まれていますし、まだ名前が知られていない新進気鋭の企業もあります。これら企業にみられるように、高い志を抱き、しっかりした成長モデルを描ける経営者が増えてきたように感じます。

 日本ベンチャーキャピタル協会・仮屋薗聡一会長(以下、仮屋薗) 2000年代初めのベンャーブームとの大きな違いは、社会課題解決型の技術利用を事業に据える企業が増えるなか、広く社会からの共感を得る上で、求められるリーダー像が変わってきている点ではないでしょうか。一見すると、おとなしくて、冷静沈着な印象を与える人が少なくないように感じますが、事業への情熱を内に秘め、時に大胆な経営判断を下しています。経営共創基盤CEO(最高経営責任者)の冨山和彦さんが経営に必要な資質として常々おっしゃっておられる「合理」と「情理」ですね。

 石井 僕も長くベンチャー支援に携わってきた中で、ここ数年でベンチャーをめぐる人材は確かに変わり、その加速度は増しているという印象があります。

 仮屋薗 シリコンバレーの経営スタイルって、米フェイスブックCOO(最高執行責任者)のシェリル・サンドバーグもそうですが、サービスやプロダクトを生み出す若手経営者と、経験豊富なプロ経営者という組み合わせなんですよ。日本はまだ一人が事業と経営の双方をみていますが、いずれ明確に役割分担されながら、より大きなビジネスに取り組んでいくことになるのではないでしょうか。

起業マインド、社会で醸成

 「J-Startup」にも名を連ねる、スマートフォン決済サービスを提供するorigamiの康井義貴社長は、挑戦を恐れず「スタートアップが格好いいと思われるような日本にしたい」と、起業マインドが社会全体で醸成されることへの期待感を示す。

 石井 康井さんの言うような社会に変わりつつあると思いますよ。東大を卒業しても、大企業や官庁を目指すばかりでなく、起業する人は増えています。実際、優秀な同僚が経産省を辞めて、ベンチャーの世界に飛び込んでいくケースも増えてきました(笑)。

 仮屋薗 起業のハードルが以前に比べ、下がりつつあることも一因ではないでしょうか。スタートアップの資金調達環境が改善していることで、大企業との給与格差は縮小しつつある。とはいいながら、リスクはあるわけです。しかし、スタートアップエコシステムが機能すれば、事業上の失敗の経験が生かせる社会が到来します。シリコンバレーでは、「残念ながら市場は立ち上がらなかったけれど、あの挑戦はナイストライだった」と、評価してくれる人がいて、経験を生かす機会があるんですよね。自身が置かれた状況下でベストを尽くした人であればあるほど、次のキャリアで新たな可能性が拓ける-。日本でもそんな社会が実現することを願ってやみません。

海外投資はもっと呼び込める

 こうしたスタートアップエコシステムが回り始めている日本の姿を世界にどう発信するか。

 石井 日本のスタートアップの独創的な技術やビジネスが、そもそも世界に十分知れ渡っていない。こうした現状を打開するため、政府として広く世界に発信するお手伝いをしたいと考えています。知ってもらえば、海外からもっと投資を呼び込めると思うんです。

 仮屋薗 スタートアップが海外展開でまず直面するのは、人的ネットワークやセールスマーケティングのチャンネルがないことなんですよ。「J-Startup」プログラムでは、ここを政府が補完してくれるということですが、経営資源が限られるスタートアップにとって有用なサポートになると思います。一方で、海外投資家に対する施策の発信には課題はありますね。

 石井 ベンチャー支援に関しては、諸外国と遜色ない形で制度やルールを整えてきました。安倍政権の発足以降、さらにギアをシフトして環境整備を進めています。世界に向けて日本に投資機会があることをアピールし、世界とのつながりでスタートアップエコシステムが発展する過程で、支援をさらに強化することも必要だと認識しています。

 仮屋薗 投資家が気にするのは、スタートアップ支援策の継続性に不透明があるかどうかです。

 石井 確かに日本の規制の透明性を向上すること、施策を安定的に継続することは重要ですね。日本のスタートアップエコシステムの整備を、引き続き強力に進めていきたいと思います。そして、世界に羽ばたくスタートアップは、政府の支援策を使い倒すぐらいの気持ちを持っていただきつつ、グローバルな競合としたたかに戦ってくれることを期待しています。