政策特集日本から世界へ~スタートアップ新潮流 vol.4

僕らはなぜ世界を目指すのか

経営者が語る挑戦の軌跡と未来(前編)

右からテラモーターズ徳重社長、Fringe81田中CEO、ABEJA長谷取締役

 「世界で戦い、勝てるスタートアップ」の輩出を目指す経済産業省の支援プログラムJ-Startupでは、日本で活躍する約1万社の中から、とりわけ将来有望な92社を認定している。今回は、事業領域も経営者としての背景も全く異なる3氏が初顔合わせながら対談。そこから浮き彫りになる日本のスタートアップエコシステムの現状や課題とは-。

成長過程で直面する課題

 テラモーターズ・徳重徹社長(以下、徳重) 田中さんとは先日もお会いしましたね。

  Fringe81・田中弦CEO(最高経営責任者) そうでしたね。スタートアップ関連のイベントでご一緒しました。

 徳重 長谷さんとは初めてかな。(ABEJA社長の)岡田(陽介)さんにもお会いしたことはないですね。

 ABEJA・長谷直達取締役 僕は「テラドローン」の方と別のイベントでご一緒しました。

 徳重 ああ、そうでしたか。僕は2010年の創業時よりグローバルメガベンチャーを目指し、ベトナムやインド、バングラデシュなどでEV(電気自動車・バイク)を展開し、2016年にはドローン分野にも参入しました。世界を目指す手法は二つあると思っています。ひとつは、アナログがデジタルに、あるいはガソリン車がEVに置き換わるような破壊的な技術革新を捉えること。もうひとつは、黎明(れいめい)期のインターネットのように新産業創出の波に乗ることです。EVの事業は前者、ドローンは後者にあたります。

徳重氏

 田中 僕はまさにインターネット黎明期にソフトバンクに入社。動画配信事業の立ち上げなどに携わってきました。当時、渋谷にIT起業家らを集めてビットバレーを作ろうという動きがあり、事務局の手伝いのようなことをしていた縁で、ネットイヤーグループの創業に参画する経緯を経て、インターネット広告技術開発のFringe81を創業。2013年にMBO(マネジメントバイアウト=経営陣による買収)によって独立しました。徳重さんのような生粋の起業家ではないかもしれませんが、90年代後半から2000年初めにかけてのベンチャーブームのど真ん中にいました。いま、Fringeの経営者として直面する課題のひとつは、収益構造が全く異なる既存事業と新規事業をどうバランスさせていくか。特にインターネット経由でサービスを提供するSaaSのビジネスは投資回収が難しいんですよ。

田中氏

「非連続」に舵を切る

 徳重 「連続的な」事業から「非連続な」イノベーションに舵を切るということですね。

 長谷 僕はSNSの魅力に導かれるように新卒でミクシィに入社しました。SNSのプロダクト開発やM&A(企業の合併・買収)関連業務やグループ会社のハンズオン支援などに携わった後、AI(人工知能)プラットフォームを提供するABEJAに転職しました。いまのお二人のお話には全く同感です。当社は、AIの本格運用に不可欠なプラットフォームを製造業や小売・流通をはじめ、製造、物流、ヘルスケアといったさまざまな業界に提供していますが、次なる技術開発やその融合には、「非連続なイノベーション」として、既存事業とは組織も完全に切り離す形で進めています。とりわけ、腐心するのは新たに採用した人材のモチベーションです。新たな技術やサービスが軌道に乗るまでには、必ず踊り場がある。そういう時には隣の芝生がめちゃくちゃ青く見えるんですよ。 長谷氏

「支援」より「パートナー」を

 徳重 僕はほぼ同い年ということもあり、米テスラCEOのイーロン・マスクと(中国を代表するユニコーン企業である)小米(シャオミ)創業者の雷軍(レイジュン)を目標にしているのですが、彼らを見ていて思うのは、市場を獲得することの重要性です。市場を捉えていれば、たとえ無能な経営者でも売り上げを伸ばすことができますが、逆に市場がないと、どんな優秀な経営者でもうまくいかない。ドローンの事業は株主の反対を押し切って始めましたが、黎明期である市場参入へ思い切った決断でした。スタートアップに活躍の場を見いだす人材は、事業を通じて自身の成長を強く志向しているので、経営判断を誤ると社員は耐えられません。3年を越えても事業が軌道に乗らないようでは厳しいですね。

 田中 事業の成長はすべてを癒やす-。その通りだと思います。しかし、調子が悪い時に限ってさまざまな問題が噴出するんですよ。事業が一本足打法でなくなってきている以上、僕は一見、面白みのない開発案件でも社員に対し、そのプロジェクトが現在の自社にとってなぜ必要なのか、あなたにとってどれほど貴重な経験なのか、対話を重ねることに心を砕いています。腑(ふ)に落ちないと、自分だけつまらない仕事をやらされているという不満につながりがちです。ジョブディスクリプションには気を配っています。

 徳重 若い人たちが、ますますスタートアップを目指す上で、社会の受け止めは大きな要素だと思います。そういう意味で国を挙げてスタートアップを後押しする機運が盛り上がることは、率直に有り難い。

 田中 この10年あまり、ベンチャーを取り巻く環境は様変わりしました。幸い、資金調達環境にも恵まれています。こうした中、僕が期待するのは「支援」より「パートナー」です。

※後編は20日に公開します。

【テラモーターズ】
2010年設立。EV(電動自動車)の製造販売を手がける。アジア3カ国に支社、5カ国に販売代理店を構え2016年からはドローン事業に乗り出すなどグローバルな事業な事業展開を加速中。
【Fringe81】
2012年設立。インターネット広告技術開発やHRテック領域でのウェッブサービスを展開。社名には「限界を超えた(fringe)」と日本の国番号「81」の組み合わせで「最先端の集団」との思いが。2017年東証マザーズ上場。
【ABEJA】
2012年設立。ディープラーニング技術を活用した大量データの取得や蓄積、学習などを行うPaaS技術と同技術を用いた店舗解析サービスを提供。米グーグルが直接出資した日本企業としても話題を呼んだ。