政策特集伝統的工芸品の灯を絶やさない vol.3

京友禅がサリーに挑む!伝統的工芸品に今、世界が注目

日本の文物が外国人の目を通して逆輸入され、日本で再評価される例は珍しくない。

19世紀末に漆器や陶磁器の包み紙として海外に流出し、欧州でジャポニズムというムーブメントを巻き起こした浮世絵しかり。ファッション、音楽など、様々な事例を挙げることができる。

日本の伝統的工芸品が今、海外から注目されている。丁寧なつくり、斬新なデザイン、日用品としての性能の高さと言った点が、にわかに評価され始めたのだ。生産者や産地の側からは、これを好機ととらえ、国内外で新しい需要の創出や販路の開拓・拡大を図ろうという取り組みが始まっている。

国内、インド各地で展示会。「アメージング」と賛辞

2024年1月29日、東京・千代田区のインド大使館で京友禅の技法で制作されたサリーのファッションショーが開催された。サリーはインドを中心とした南西アジア地域の民族衣装。会場となった大使館内のホールには多くの関係者がつめかけてほぼ満員。あでやかな色彩のサリーが次々と登場し、来場者の目を楽しませた。

京友禅は白い絹織物に手描きや型紙で模様を染める伝統的工芸品だ。サリーづくりを進めている京都工芸染匠協同組合は、手描き友禅の制作に取り組む40事業所で組織されている。コロナ禍を契機に、2020年からサリーづくりを始め、ムンバイやニューデリーなどインドの主要都市や国内で展示会を開催してきた。竹鼻進理事長は手応えを感じている。

「サリーは縦糸横糸で織り上げていくテキスタイルですが、京友禅は染めものです。京友禅の技術、ノウハウをそのままサリーに応用したことで、高く評価されました。反応はすごかった。『ビューティフル』とか『ワンダフル』ではなく、『アメージング』と最大級の賛辞をいただきました」

在日インド大使館で開催された京友禅サリーのファッションショー。関係者から絶大な評価を得た

生産量激減、職人の高齢化も深刻。無限大の需要に活路

他の多くの伝統的工芸品と同様、京友禅の置かれている状況は厳しい。京友禅協同組合連合会の調べによると、手描きの京友禅の生産量は現在、1970年当時の0.6%。実に約50年で生産が99.4%落ち込んだことになる。従事する職人も7割は70歳を超えている。竹鼻氏は「驚くべき数字ですが、これが京友禅の現状です」と話す。

こうした厳しい状況にコロナが追い打ちをかける中で、打って出たのがサリー制作だった。

「着物もサリーも同じ民族衣装です。しかも、インドは多くの人口を抱え、需要は無限大。今も高度成長の途上にあるインドをターゲットにして、サリーに挑戦しようとなったのです」

試行錯誤で技術的問題をクリア。日本での再評価にも期待

クリアすべき課題は少なくなかった。着物の場合、45㎝幅の生地を染めていくが、サリーには3倍にあたる115㎝の幅が必要になる。これに対応できる織機を保有しているメーカーを探しだし、試行錯誤しながら制作を進めたという。

インドでの展示会では、作品自体の評価は高かった。ただ、「ネックもあると実感した」(竹鼻氏)という。それが価格だ。

「インドでサリーは最高級品で30万円未満。我々の制作したものは70、80万円と、これを超えてしまっています。ただ、そこをクリアできればマーケットとして十分狙えます」

竹鼻氏は海外展開を模索する姿勢を強調する一方で、「決して大きな数字の回復を狙っているのではない」と語る。

「京友禅が海外で認知され、それが日本にフィードバックされることで、国内での再評価につながる可能性もある。まずは京友禅の存在、素晴らしさを知ってもらうのが今の目標です」

京友禅サリーの制作に挑戦する京都工芸染匠協同組合の竹鼻進理事長(左から2人目)。中央はシビ・ジョージ駐日インド大使=在日インド大使館で=

斬新なアレンジ、昔ながらの逸品。一様ではない海外のニーズ

伝統的工芸品の魅力を海外へ――。その発信基地となっているのが東京・赤坂の青山通り沿いにあるギャラリー&ショップ「伝統工芸 青山スクエア」だ。運営する伝統的工芸品産業振興協会の佐藤卓専務理事は、「訪れる人の4割、売り上げの5割は外国からのお客様です」と語る。売上単価は1人当たり1万8000円を超えることが多くなり、日本人の約2倍に上る。

訪日外国人客の求める商品は一様ではない。

「伝統的工芸品に大胆なアレンジを加えて、人気となったものもあれば、昔ながらの逸品の価値が認められたものもあります」

イタリアの高級車フェラーリのデザインで知られる、工業デザイナーの奥山清行氏が職人たちと手がけた山形鋳物は、海外で高い評価を受けた。南部鉄器は赤、青、ピンクといったカラフルな製品を開発して売り上げを伸ばした。グッチ、ディオールといった有名ブランドが西陣織をバッグや内装の素材に使った例もある。

外国人にも人気の南部鉄器。近年はカラフルに色づけされたものもある

一方で、地域で愛用されてきた昔ながらの品々も外国人の心をつかんでいる。

「青山スクエアで一番売れているのは意外にも『箱根寄木細工』です。マジックボックスとして有名で、最初からこれを買うのを目的に来店される方も多くいます。『樺細工』も人気です。昔はどの家にもあったタイプの茶筒ですが、そこに日本らしさを見いだしてお求めになっているのだと思います」

パリ、重慶で情報発信。まずは、自分たちの工芸品を使おう

伝統的工芸品の魅力を海外にどう伝えていくか。伝統的工芸品産業振興協会では、フランスのパリ、中国の重慶でアンテナショップを展開してきた。直売のほか展示会の開催などを通して、情報の発信と収集を続けている。

佐藤氏は「海外では日本食の人気は高く、日本酒の売り上げも伸びています。こうした動きとどうコラボできるか、検討を進めています。海外の拠点についても、パリ、重慶の状況を分析して戦略・戦術を組み立てていこうと思っています」と力を込める。「海外での評価が、日本国内での再評価につながる可能性もある」との期待があるからだ。

ただ、海外展開していくには、その前提があるという。

「まずは産地が自分たちの伝統的工芸品を大事にしてほしい。自分たちが日常生活の中で使って、その良さを再認識しなければならないと思います。自分たちでは使っていないのに、海外の人に買ってくださいと言っても、説得力がありませんから」

「まずは産地が自分たちの伝統的工芸品を大事にしてほしい」。伝統的工芸品産業振興協会の佐藤卓専務理事はそう強調する(東京・赤坂の「伝統工芸 青山スクエア」で)