政策特集航空産業 飛躍の時 vol.2

躍進めざましい日本勢 最新機種に部材供給

国際共同開発の軌跡と将来展望


自動車の100倍にあたる約300万点もの部品から構成される航空機は、耐久性や軽量化といった最先端技術の結晶。世界的に市場拡大が見込まれる中、日本勢の活躍の場が広がっている。

異なるメーカーが部位ごとに

2018年2月―。日本の航空機大手メーカー各社の工場から米ボーイング「777X」初号機向けの機体部品の出荷が始まった。「777」の後継機で、日本企業が機体部品の開発・製造に21%の割合で参画している最新鋭機だ。
川崎重工業は名古屋第一工場(愛知県弥富市)から前部・中部胴体パネルを、三菱重工業は広島製作所江波工場(広島市中区)から後部胴体パネルを、SUBARUは航空宇宙カンパニー半田工場(愛知県半田市)から中央翼をそれぞれ出荷し、米国シアトル近郊にあるボーイング社の組立工場に輸送されたのち、機体として組み上がる。完成機は2020年からエアラインへの引き渡しが始まる予定だ。

国際共同開発はこのように、異なるメーカーが責任を持って担当部位を開発、製造して納入する分業体制である。日本の航空機産業の発展の歴史の中で、米ボーイングとの機体構造に関する国際共同開発が果たしてきた役割は非常に大きい。
日本が初めて国際共同開発に参画したのは1982年に型式証明を取得した中型旅客機「767」。1960-70年代にかけて、日本は初の国産旅客機「YS-11」を開発するものの、商業ベースに乗らずに頓挫。ボーイングとの取引は瀬戸際に立たされていたわが国航空機産業の新たな幕開けとなった。
それから30年あまり―。国際共同開発への参画比率は、「767」では16%だったが、1995年からの「777」では21%に上昇。2011年には主翼に複合材を用いるなど画期的な中型機として注目を集めた「787」で35%に達した。
「787」では主翼をはじめとする機体の35%を三菱重工、川崎重工、SUBARUの3社が開発・製造しているほか、東レが主要構造部分の炭素繊維複合材料(CFRP)をボーイングと共同開発した。また、ブリヂストンがタイヤを、ジャムコがラバトリーやギャレーなどを提供する。今やボーイングにとって日本は、共同開発・製造分野での米国外最大級の拠点だ。

礎築いた「V2500」

航空機で重視される性能の一つ、燃費性能に直結する航空機エンジン分野でも日本勢は存在感を発揮している。例えば「787」には2種類のエンジンが設定されており、英ロールス・ロイスの「トレント1000」には三菱重工航空エンジンと川崎重工が、米ゼネラル・エレクトリックの「GEnx」にはIHIがそれぞれ参画。
日本の航空機エンジン産業は戦後7年間の空白を経て、米軍機・防衛機用のオーバーホールで再開。IHI、三菱重工業、川崎重工業が中心となり、防衛省の主契約者として、防衛省向けエンジンの米国からのライセンス生産や開発などが進められ、段階的に技術力を高めてきた歴史がある。
そんな航空機エンジンの分野で国際共同開発の礎を築いたのが欧エアバスの「A320」に搭載され、世界的ヒットとなった「V2500」だ。1983年、日本、英国、米国、ドイツ、イタリアの5カ国による共同開発契約が締結され、その後の開発体制の変更はあるものの、190社以上の航空会社から累計7500台を超える確定受注を獲得。その信頼性と経済性は高く評価された。
V2500プログラムでは、IHI、川崎重工、三菱重工が合計で23%、米国・プラット&ホイットニー(P&W)が66%、ドイツ・MTUが11%の比率で参画。IHI、川崎重工、三菱重工がファン部や低圧圧縮機部、シャフトなどの開発、量産を担当する。
日本勢は1996年には、70~100席級のリージョナルジェットに搭載される米ゼネラル・エレクトリック(GE)製「CF34」エンジンの国際共同プログラムに約30%の比率で参画。IHI、川崎重工が低圧タービンモジュールや高圧圧縮機(後段翼)、アクセサリーギアボックスなどを供給する。
その後も共同開発プログラムは増え続ける。米ボーイング「787」に搭載される2種類のエンジン「GEnx(GE製)」、「トレント1000(英ロールス・ロイス製)」をはじめ、2011年9月には「V2500」の後継となる「PW1100G-JM」の共同開発に合意。
2019年からはボーイング「777X」に搭載される「GE9X」の製造が本格化する見通し。同エンジンには、IHIが低圧タービン回転部品などを供給し、プログラムシェアは約11%に及ぶ。

高圧タービンへの進出なるか

今後の課題は参画実績のない高圧タービン部への進出だ。付加価値が極めて高い高温部品で、GEやロールス・ロイス、P&Wが握っている。
だが、日本のチャンスは大きい。その理由はニッケル合金より軽量で耐熱性が約2割優れるCMC(セラミック基複合材料)の技術力にある。CMCは繊維状の炭化ケイ素(SiC)をセラミックスで挟む構造で、実用化のカギを握るSiC繊維を手がけられるのは宇部興産と日本カーボンだけだ。
日本カーボンはGE、仏サフランと製造合弁会社、NGSアドバンストファイバー(富山市)を立ち上げた。一方、経済産業省が進めている「次世代構造部材・システム技術に関する開発事業」の一環として、IHIや宇部興産、シキボウなどはCMC高圧タービン翼の開発を加速している。
IHIが6月、防衛装備庁航空装備研究所に納入した将来戦闘機用を目指したジェットエンジンのプロトタイプ(XF9ー1)にはCMCが高圧タービンに使用された。こうした世界最先端技術をテコに、日本のエンジン産業は一段の飛躍期を迎えるだろう。

次回はボーイングジャパンのブレット ゲリー社長に日本に寄せる思いを聞きます。