サービスの統一規格や標準化を推進
さらなる普及へ「機は熟した」
10月15日―。キャッシュレス決済に関わる企業関係者らが一堂に都内のホテルに会した。「キャッシュレス推進協議会」の創立大会。「いよいよ機は熟した」。会長を務める鵜浦博夫NTT相談役は冒頭あいさつで、こう述べキャスレス決済の利便性や信頼性を高めるための取り組みを通じ「消費者に安心して使って頂ける環境を早期に立ち上げたい」と意欲を示した。
同日の大会では、2018年7月の発足以降、これまでに同協議会が実施してきたプロジェクトの進捗状況や今後の事業概要が紹介された。
10月時点で250を超える企業や団体などが参加する産官学の連携組織「キャッシュレス推進協議会」の役割は大きく二つある。クレジットカードや電子マネー、スマートフォン決済といった現金に代わる決済手段の一層の普及へ向けた環境整備と今後の施策立案に欠かせない知見の収集。とりわけ参入企業が相次ぎサービスが急拡大するスマートフォンによるQRコード(バーコードを含む)決済にまつわる技術的・業務的な仕様の標準化は喫緊の課題だ。
「競争」と「協調」の発想で
現状のQRコード決済は、①顧客がスマホでQRコードを提示し店側が読み込む②店が画面でQRコードを提示し、客がスマホのカメラで読み込む③客が店頭で印刷されたコードを読み込む-の3方式に大別される。決済手法が広がる一方で、店舗側のシステムはそれぞれの規格に対応しなければならず、レジ担当者にとっても新たな業務負担の一因となっている。各企業が独自に設けてきたQRコードが標準化され、簡単な端末操作で決済できるようになれば、店舗側の負担軽減につながり、日本におけるキャッシュレス決済が一歩前進する可能性がある。協議会の副会長を務めるみずほ銀行の藤原弘治頭取は「サービスでは(各社が)競争し、決済インフラは協調すべき領域」との見解を示し、標準化へ向け参加企業の協力を呼びかける。
年度内にガイドライン案
協議会が2018年度内の策定を目指すガイドライン案では、QRコードのうち顧客提示型(CPM)バーコードの先頭8ケタで決済事業者を識別する仕組みについて、ほぼ固まった。これにより、店舗側はQRコード決済事業者が増える度にシステム対応を迫られる事態は回避できそうだ。一方ですでにQRコード決済サービスを提供している企業にとっては、新たな8ケタの事業者識別コードを自社のシステムにどう取り込むかが今後の課題となる。
災害時におけるキャッシュレス決済のあり方も重要課題だ。9月の北海道地震による停電時には、クレジットカードや電子マネー決済時の情報処理ができなくなったことからキャッシュレス決済の脆弱性を指摘する声が上がる。他方、災害時には現金決済においてもつり銭不足や、そもそも現金が持ち出せなくなくなる恐れもある。同協議会では、こうした点を踏まえ、携帯電話などの通信回線を利用することで、停電時でも利用可能なキャッシュレス決済の可能性など「災害に強いキャッシュレス」のあり方も検討する方針だ。
利用者目線で普及促進
福田好郎事務局長に聞く
QRコード決済について事業者識別コードの技術的な仕組みについてはほぼ固まりつつありますが、標準化のテーマはそれだけではありません。店舗側にとってQRコード決済導入を機に、これまでの業務オペレーションをどう見直すのかも課題です。
一例を挙げれば、「残額」または「残高」、いずれでの表記を採用するのか。あるいは利用明細をダウンロードする際の表示形式はどうするか。企業にとってはこれまでの商慣習に直結する問題ですが、それぞれのやり方で競い合うよりも、企業横断的に足並みを揃えることで効率化を追求する「協調領域」の発想で進めることが必要だと考えています。
QRコード決済が注目を集めていますが、そもそもキャッシュレス決済の普及には、根本的な課題もあります。お客さんが支払いを「Edy(エディ)」と言ったのを「iD」と聞き間違えたという話もあります。日本を訪れる、あるいは日本で働く外国人が急増する中、分かりやすい呼称の統一や決済メニューの表示など利用者目線で取り組むべき課題は山積しています。他にもキャッシュレス支払時におけるペーパーレス化の推進や飲料などの自動販売機や駐車場の精算機といった自動サービス機におけるキャッシュレスの普及にも取り組んでいく方針です。
一連の取り組みの先に日本にどのようなキャッシュレス社会が到来するのか-。これは個人的な見解ですが、日本人はTPOや生活スタイルに応じて決済手段を細かく使い分けていくと予想します。高額消費はクレジットカード、スピードが求められる決済は非接触の電子マネー、割り勘など個人間の取引やサービスや特典利用を狙ったスマホ決済といった具合です。
大切なことは消費者に選択肢を示すことです。支払い手段を自由に選ぶことができ、かつ利用できる場所が充実していること。その上で、今後の協議会活動においては、もっと店舗側の声を反映させていきたいと考えています。金融機関やネット関連企業だけでなく、スーパーや外食、宿泊サービスといった業種の方々にも積極的に参加頂き、現場の声を届けて頂きたいと期待しています。(談)