統計は語る

牛乳・乳製品の生産動向 -不足から過剰に揺れる不思議な食品-

「十年一昔」と言うが、9年前の2014年頃からたびたび話題になったバター不足。その話題を聞かなくなって久しいと思ったら、2021年には生乳の供給過剰で年末年始に大量廃棄される懸念が出ていることを受け、首相が国民に牛乳の消費拡大への協力を呼びかけるといった話題があった。2022年末にも引き続き供給過剰があったようだが、最近でも度々ニュースに取り上げられている牛乳・乳製品の状況について統計からみていく。

牛乳・乳製品で構成比が最も低いバター

まず、牛乳・乳製品の製品別構造を見るため、2022年の12月26日に公表された「令和3年経済センサス‐活動調査」の製造業集計結果から2020年の品目別製造品出荷額を見てみる。ヨーグルトなどの発酵乳、脱脂乳、カゼイン、乳糖等を含む「その他の乳製品」が23.5%と、最大の構成比となっている。次いで、「処理牛乳」と「乳飲料、乳酸菌飲料」が続き、この2品目での「飲料用」が全体の4割弱を占めている。加工品では、アイスクリーム、チーズ、練乳等(練乳、粉乳、脱脂粉乳)、クリーム、バターの順となっている。このように2014年に不足したバターは、2020年の牛乳・乳製品の中で最も構成比が低いことが分かる。

なぜ、不足が問題となった商品が未だに構成比が低いのだろうか。それは、牛乳・乳製品の特殊な製造過程にある。牛乳・乳製品は製品の種類が多いだけでは無く、牛乳から生クリームと脱脂乳が分離され、生クリームをかくはんするとバターに、脱脂乳を乾燥させると脱脂粉乳になり、そのバター、脱脂粉乳に水を加えると元の牛乳(加工乳又は還元乳)に戻るといった可塑性がある。この可塑性があらゆる場面で問題となり、国内の酪農を守るために保存が利くバターには高率の関税をかけ、輸入品からの還元乳生産を制限しているなど、加工品は生乳の供給と密接な関係がある。

好調が続く生産状況

次に、牛乳・乳製品の生産状況を鉱工業生産指数で四半期別にみると、バター不足が言われた2014年第Ⅲ期をボトムに回復していることが分かる。

最近の状況は、2020年は第Ⅰ期に大幅な生産増となった。これは、新型コロナウイルス感染症が蔓延し、主力の学校給食が休校の影響で停止され、処理牛乳からより付加価値の高い乳製品に生産がシフトしていることが影響していると思われる。その結果、乳製品の在庫が過剰となり、年末大幅に生産調整したものの牛乳が余り、冒頭に記した首相発言に発展したと思われる。翌年の2021年もコロナ禍における飲食店などの需要減から加工品製造向けが好調で、通年で指数水準が100を超えているため、2年連続で年末の生乳が余り、牛乳消費の促進が呼び掛けられた。

2022年は21年の余剰をうけ、第Ⅱ期に在庫調整が行われ、大幅に生産が低下し、足下では新型コロナウイルス感染症拡大前の生産水準まで低下した。

次に農林水産省が実施している牛乳乳製品統計で個別商品ごとに数量ベースの生産量の前年比増減率推移を見ると、牛乳の余剰をうけ、保存の利く乳製品へ生産がシフトしている動きが見られる。

特に粉乳類、バターの生産の伸びが大きくなっているが、これは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う学校の休校による給食の中止で牛乳等の需要が減少したことや、緊急事態宣言以降の外食産業などで使用される業務用需要の減少等により、2020年以降、保存の利く乳製品の生産はフル稼働していても生乳が余る状況になっていたことが分かる。

家計での需要はそれほど落ち込んではいない

供給面の次は、需要面から家計での支出額を家計調査で見てみる。新型コロナウイルス感染症で需要が減少すると思われる2020年~2022年の3年間を比較してみると、感染症拡大期の2020年で家計での牛乳、乳製品支出額はむしろ増加しており、コロナ禍でも家計での消費は落ち込んでいないことが分かる。

今後は保存性の高い乳製品の国内生産を増やすことがカギ

牛乳・乳製品の安定供給の面からも、バターなどの保存が可能な乳製品に一定割合を仕向ける流通は維持しつつ、牛乳の消費拡大と畜産農家の経営安定のための価格引き上げが求められる。

しかし、バターなどの保存可能な乳製品需要と加工設備の生産能力の限界、貿易協定による輸入枠の維持等、生乳の供給を削減する圧力は引き続き強く、「生き物」の生産調整は命を絶つという苦しさがある問題である。一旦生産調整が進んだら、再びバター不足になっても、牛が育つ必要があるので、直ぐには増産出来ない難しさもあり、困難な課題だ。

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