懸賞金1000万円!衛星データコンテスト1位の画期的な新サービスとは
衛星データビジネスをいっそう盛り上げていくために欠かせないのが、様々な人材や企業による業界への参入である。
経済産業省と国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は衛星データを使ったサプライチェーンの高度化を題材に、懸賞金付きのピッチコンテスト「NEDO Supply Chain Data Challenge」を初めて開いた。1位は1000万円など、懸賞金総額は3780万円になる。
実用段階に近い「システム開発部門」の「港湾」「災害」の2テーマと、構想段階の「アイデア部門」に、計84件の応募があった。宇宙関連だけでなく食品関連、建設コンサルなど幅広い業種の企業、さらには、会社員や大学教員、学生など立場の異なる個人が集まった。米国や中国、インド、タイなど海外勢も4分の1を占めた。
1次審査を通過したチームは、プランを磨き上げる時間として半年間が与えられた。衛星データやシステムの開発環境が提供されたほか、専門家から助言を受ける機会も設けられた。
2022年12月に東京・日本橋で開催された最終審査には、オンラインも含めて20チームが登場した。それぞれの特長を生かした問題解決のアプローチを披露し、衛星データのポテンシャルの高さを感じさせた。
船便の遅れを予測し、メーカーの調達を支援…富士通の4人組
国際的な物流網は、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略などを受け、混乱が続いた。
「自分たちがほしいものを作り、価値を肉付けしていきました」。「港湾」のテーマで1位になったら富士通に在籍する土井悠哉さんら4人組は訴えた。
部品や原材料の調達などで船便を利用するメーカーにとって、船舶の遅れは死活問題になりかねない。海運会社から情報は随時もたらされるが、当てにならないことが珍しくないという。
4人が考案したシステムでは、衛星データを使って運航情報を取得するとともに、過去のデータなどと合わせて、到着の遅れを早期に検出。そのうえで、何日遅れたら生産ができなくなるかなど納品計画への影響をシミュレーション結果として示し、代替の調達が実行できるようにするところまでを作り込んだ。
実は1次審査を通過してから、専門家の講演に感銘を受け、内容を大幅に入れ替えた。しかし、システムの完成度は高く、すでに複数社から引き合いが来ているという。
東京大学・神戸大学発のスタートアップ「Function」のシステムは、衛星画像と船舶の移動軌跡などから、世界の港湾の混雑度や取引量を比較可能な形で予測。それをもとに、海運業者が最適なルートを選べるようにした。これ以外にも、港湾の混雑度の指数化や、コンテナ渋滞による経済への影響度の速報値算出などの提案が出た。
大雨の浸水域をリアルタイムで高精度に特定…スタートアップ「スペースシフト」
「災害」のテーマで1位になったのが、2009年に設立されたスタートアップ「スペースシフト」(東京)である。SAR衛星データを使い、大雨時の浸水域を自動的に解析するシステムを構築した。2時点の画像を単純に比べるだけでなく、波の干渉する性質を利用して分析したり、地上での車両の走行情報を活用したりして、精度を格段に高めている。
企業は自社が関連する道路や工場、住宅、商業施設などの情報を重ねることで、サプライチェーンの状況をリアルタイムで把握できる。スムーズな避難や復旧につながることが期待できる。自治体やメーカー、小売チェーン、電力会社、損害保険会社などでの利用を見込んでいる。2023年度中にPoC(概念実証)を実施し、2024年には商用化に道筋を立てる計画という。
スペースシフトの川上勇治さんは、「洪水被害が大きいアジアなど世界中で適用できる。災害だけでなく、ダムなどのインフラをモニタリングするサービスの展開も考えられる」と説明した。
同じ浸水域の予測でも全く別の方法をとったのが、スタートアップ3社の合同チーム「Resi-Tech Innovators」である。衛星データなどを用いて事前に構築したAIに、大雨が来たときは、降水量のデータのみを入力することで浸水域を予測するという。様々な自然災害に対する建物の耐久性の可視化や、車両台数や車両速度などの情報による交通調査や道路維持管理への活用といったシステムも発表された。
アイデア部門はさらにバラエティーが豊か。「カキの養殖のイカダに船がぶつからないようする」「地域ごとで木材の伐採量を最適化する」「違法な残土を発見する」「野菜の出荷量を予測する」。登壇者たちが自らのプランを懸命にアピールしていた。
懸賞金コンテストの狙いは?企業の創意工夫を引き出す
そもそも一見お堅そうに見える経済産業省とNEDOが、なぜ懸賞金コンテストなのか。
国が企業や大学の研究開発を支援する場合は通常、国が目的を示したうえで、最もふさわしいと思われる計画をまとめて応募した企業などを選び、補助金を出したり、業務委託したりする。企業側からすると成果が出なくても支援を受けられる一方、計画を途中で変更しにくい。
日進月歩で発展している衛星データの世界は、アイデア次第で新たなビジネスチャンスが創出されやすい領域である。コンテスト方式であれば、企業側がそれぞれの完成形を目指すので、創意工夫が生まれやすい。実際に懸賞金も何に使うかは自由になっている。米国では、有人宇宙飛行やロボットの開発などでコンテストが利用された実績がある。
経済産業省宇宙産業室の伊奈康二室長は「元々衛星開発は国主導だったが、近年ベンチャー企業・中小企業などによる小型衛星を活用したビジネスが進んでいる。宇宙産業のビジネスポテンシャルは高く、様々な分野で衛星データの利用を試していくことが重要になっている。今回の懸賞金制度のように衛星データを様々な産業分野で社会課題解決のために使ってもらう機会を今後も提供していく」と述べた。
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