政策特集今、福島は vol.6

地域のなりわい再生

官民合同チームの挑戦


 被災12市町村では、もといた故郷に戻っての再開(帰還再開)を志向する事業者の比率は44%。町によっては、50%以上の事業者が休業中という地域もある。そのような厳しい環境に置かれた中小・小規模事業者や農業者の再開や販路の開拓といった取り組みを積極的に後押ししているのが、2015年8月に設立された「福島相双復興官民合同チーム」だ。

町に恩返しを

 「自分の家は、明治時代から5代に亘って、町の住民や企業に燃料を供給する仕事をやってきた。町に対して、何か恩返ししなければいけないという思いで再開を決めた」。帰還困難区域の立ち入り制限の厳しさ等を乗り越え、2017年6月に双葉町でガソリンスタンドの再開を果たした伊達屋・吉田代表取締役の言葉だ。伊達屋が事業再開を果たせた背景には、官民合同チームによる支援が欠かせなかったと吉田氏は語る。「再開を考え始めた頃、ガソリンスタンドを復旧するのにどのような支援制度があるのか、人をどうやって集めるべきか、具体的なやり方がまったくわからなかった。そのような中、官民合同チームには設備投資補助金の申請手続きを詳しく丁寧に説明してもらい、また人材確保も手伝ってもらい、再開予定の1か月前になっても人がまったく集まらなかったところからオープン当日までに3名の従業員を採用できた」。
 国(経済産業省、農林水産省)、福島県、そしてメーカー、商社、銀行、電力会社といった民間企業から参画した計270名の職員で成り立っている官民合同チームは、これまで5000の事業者(3月15日現在)を個別に訪問してきた。そうした多様なバックグラウンドを持った官民合同チーム員には、被災事業者の方々の思い、地域の復興はどのように見えているのだろうか。

パネルディスカッションで議論する地元事業者(3月3日開催の福島相双復興シンポジウム)

アドバイスを送り続ける

 「事業者に寄り添う、伴走して支援すると言うのは簡単。でも、実際に伴走するというのは、事業者それぞれの内情を把握したうえで、『ここはペースを上げて走り切って』とか、『今はまだスパートするには早い』とか、的確なアドバイスを送り続けること。これは本当に難しい」。これまで、スーパーマーケット、旅館、飲食店といった多様な業態の地元事業者の再開や経営改善を後押ししてきた、藤原慎二氏(復興コンサルタント)は言う。地元の事業者の方々とは、まずはひざを突き合わせて、仕入れ原価や商品の売れ行きを徹底的に分析することから始める。そうすると、最も売れ筋と思っていた商品やサービスが実は5番手にも入らないものだったり、コスト管理が杜撰だったり・・・といった問題点が見えてくると言う。問題発見と解決策の提示には、出向元のアサヒビールでサプライチェーンマネジメントや事業再生等を担当していた頃に、多くの取引先と接したり、不採算事業の扱いに悩んだりしてきた経験が生きている。「しっかり自己診断を行い、自分の実力を知ることがすべての始まり。事業者自身が、課題を認識したうえでしっかりした事業計画を作り、体質改善を図らなければ、いくら補助金をもらっても無駄になってしまう」。
 藤原氏は、支援事業者を繰り返し訪れる。20回、25回と訪問を重ねる中で、父と子、夫と妻の間の「帰還するか、避難先で商売を続けるか」といった意見の違いに挟まれ、家族会議に司会役として参加しながら方向性を見出す手伝いをしたこともある。支援中の事業者からは、休日も夜間も電話があり、気が落ち着く間もない。それでも手を抜かないのは、地元事業者の自立こそ、地域の将来の礎となるという強い思いがあるからだ。「福島イノベーション・コースト構想に関心を持つ企業も、地元に美味しい魚料理屋があればこそ、安心して定着できるでしょう。そのためにも、『ゼロからのスタートではない。あと30%がんばればいいんですよ。そのためには、これとこれをやってください』と自信をもって背中を押してあげられないと」。

先例のない現場

 「今でこそ軌道に乗ってきたが、最初は大変でした」チーム創成期の2015年9月に福島県庁から出向してきた鈴木正人氏(企画グループ副グループ長)は語る。国、県、民間企業からの出向者140名(当時)が1つのチームとして行動する先例のない現場で、それぞれの派遣元の仕事のやり方の違いから、情報共有や意識の統一に苦労することばかりだった。そんな中でも、避難指示解除前の浪江町に通いつめ、事業者の要望1つ1つに全力で応え信頼を得ながら、事業者とタッグを組んで仮設商業施設(まち・なみ・まるしぇ)の開設にこぎつけたのは初期の成功体験として深く印象に残っている。「一昨年の10月27日、施設のオープニングイベントで見上げた秋晴れの空は一生忘れない」。
 鈴木氏が所属する企画グループの目下の課題は、新たに進出してくる企業と地元事業者のマッチングを通じたビジネスチャンスの拡大や、相双地域への進出や創業に関心を持つ人々が定着できるような環境整備だ。官民合同チームの支援で、県外の企業と地元農業法人の提携が成立し、先進的なICT農業にチャレンジしている事例等、新たな取組が生まれつつある。「官民合同チームの人材確保支援事業を通じて地元企業に就職した400名近い方々のうち、約2割は福島県外から来られた方。この地域に関心を持っていただいている県外の方は少なくないので、そうした関心を復興の力にしていきたい」

官民合同チームで事業者を支援する藤原さん(左)と鈴木さん(右)

 官民合同チームの270名、それぞれの現場で多様なドラマを織りなしながら、「官民合同チーム5か条」を胸に、復興に向けてひた走っていく。

 官民合同チーム5か条(抄)
― 被災者の立場に立って取り組む
― とことん支援する
― 聞き役に徹する
― チームワークを大切にする
― 地域の復興への高い志を持つ