統計は語る

「新しい生活様式」の定着が石けん類に与えた影響(コロナ禍の清潔に関する財の動向)

 2020年以降、新型コロナウイルス感染症下で、日常生活における「新しい生活様式」が定着し、人々の意識や行動に変化が生じている。

 消費者庁が2020年11月に行った「消費者意識基本調査」では、日常生活における「新しい生活様式」の実践頻度について調べており、「常に行っている」と「ある程度行っている」を合計した、「行っている」をみると、「マスクの着用」が97.4%と最も高く、次いで、「石けんで丁寧に手洗い・アルコールなどで手指消毒」が94.4%と実践頻度が高くなっている。マスク・手洗いは、コロナ禍ではより重視されるようになった。

2020年の石けん類生産は過去最高の水準に

 今回は、手洗いなどの清潔や衛生に関する行動と関連性が高い、石けん等の製品についてみていく。

 経済産業省では生産動態統計調査で、毎月、工業製品の生産、出荷、在庫動向を調査しており、この結果から鉱工業指数を作成し、石けん類や洗顔クリーム等の動向を公表している。

 「石けん類」の生産動向を見ると、感染症が本格化した2020年2月ごろより上昇し、2020年9月のピーク時は、季節調整済指数の水準が154.7と、現在の基準で最高値になっている。

 また、石けん類の在庫水準は消費税率引き上げ前には駆け込み需要を期待して積み上がっていたが、駆け込み需要に加え、新型コロナウイルス感染症の拡大による需要急増で在庫調整が進んだ。そして、2020年3月を底に2020年末に向けて再び積み増し、足下では緩やかな在庫調整が続いている。

 一方、洗顔クリーム類をみると、石けん類と対照的に石けんが大幅に生産を上昇させた2020年は大きく生産が低下し、在庫は逆に積み上がっている。化粧をする機会の減少がクレンジングなどの減少につながっていると思われる。

 なお、後述の家計調査における支出額と比較するため、家計調査の品目概念に合わせ、石けん類と洗顔クリーム類の指数を統合してみると、2020年は低下傾向だったが、2021年以降は緩やかな上昇に転じている。また、在庫については、2020年後半以降、感染症拡大の影響による衛生意識の高まりなどから、強い需要があったと推測され、在庫調整が進み、足下では適正な水準に落ち着いていると考えられる。

単価の上昇がみられる手洗い用石けん

 次に、石けん類の出荷単価の動きを生産動態統計から見ていく。

 まず、単価の水準をみると、石けん類の構成品目のうち、「浴用・固形石けん」が最もトン当たりの販売額が高く、油脂に苛性ソーダを加えた固形石けんは価格が高いことが分かる。一方、油脂に塩化カリウムを加えて製造する液体石けんは、水分含有量が多いため、トン当たりの価格が低くなっている。

 最近の変動をみると、共に液体石けんである「手洗用液体石けん」と「洗顔・ボディ用身体洗浄剤」は、感染症拡大前の2019年は、単価は低下傾向となっているが、2020年に入り、感染症拡大の影響が強まると、特に手洗い用の単価が上昇しており、2021年に入ってもその傾向はさらに強まっている。

 感染症拡大による手洗いに対する意識の高まりにより、手洗い用石けんに殺菌作用、抗菌作用、抗酸化作用などに効果がある有効成分を配合した薬用石けんが多く販売されており、これに加え、保湿成分含有等の高機能化が単価の上昇に繋がっている可能性もある。

コロナ禍で大幅に増加した石けん類の支出額

 生産側から石けん類の動向を見てきたが、ここからは家計の支出側から動向を見ていく。家計調査では、ハンドソープ、ボディソープ、洗顔クリーム等をひとまとめにした「浴用・洗顔石けん」という品目があり、この品目から石けん類の支出動向を見ることができる。

 総務省統計局が指数化し、季節調整を行って公表している家計全体の消費支出(除く住居等)は、2019年10月の消費税引き上げ以降、低下傾向で推移しており、直近の2022年3月では上昇しているものの、消費税引き上げ前の水準には戻っていない。

 一方、浴用・洗顔石けんの支出を同様に指数化し、季節調整を行ってみると、家計支出全体と同様に、消費税率引き上げ以降、駆け込み需要の家庭におけるストックが無くなるまで支出が低下したが、感染症拡大が本格化した2020年2月から4月にかけて支出が大幅に上昇している。特に2020年2月は、118.8と、2019年9月の消費税率引き上げ直前の駆け込み需要(120.0)に匹敵する水準になっている。

 その後は、支出額の動きは落ち着きを見せるが、消費税率引き上げ前よりも高い水準のまま推移しており、コロナ禍による「新しい生活様式」の定着により、石けん類の家計支出は増加したと言える。

 これまでみてきた石けん類の動向から、感染症拡大以降、人々の意識や行動に変化が起きていることが推測されるが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、清潔や衛生への関心が高まり、このような「新しい生活様式」を定着させる意識の変化が、今後、国内の他の商品にもどのような影響を与えるか、注目される。

 なお、石けんや洗剤、柔軟仕上げ剤の生産は、過去20年近く、概ね右肩上がりの上昇が続いている。多種多様な製品を開発する企業の様々な新製品開発努力や、消費者の清潔志向の高まりの背景を解説した石けんの動向も解説している。併せてご覧いただきたい。

※ 本記事は、経済産業省調査統計G経済解析室が作成した統計分析記事を一部修正して転載したものです。記事中のデータの取り扱い等については、出典元の記事の注意事項等をご参照ください。

出典元 【ひと言解説】

「新しい生活様式」の定着が石けん類に与えた影響(コロナ禍の清潔に関する財の動向)