政策特集ポイント解説!経済・産業政策の重点 vol.2

新しい産業政策への転換

飯田祐二官房長インタビュー

飯田祐二官房長


 経済産業省はコロナ後を見据えた成長戦略を軸とする「経済産業政策の重点」を8月に示した。経済成長と社会課題解決を同時に確保・実現する産業政策の実行を本格化し、日本の国際競争力を底上げする。経済産業省として今後特に重視する分野やその狙いを、飯田祐二官房長に聞いた。

社会課題の解決も、経済成長も

 -経済産業政策の主題に経済成長と社会課題の解決を同時に確保・実現する産業政策への転換を掲げています。一つ目の柱として足元のコロナ対策をあげました。

 「世界情勢が大きく変化し、経済成長と社会課題を共に解決する産業政策に転換しなければならないタイミングを迎えました。グリーン、デジタルなど各国も取り組むべきテーマは共通しており、競争に勝てるかが問われています。緊張感をもって進めなければなりません。まずは足元のコロナ対策にしっかり取り組み、コロナ禍の長期化で、飲食や観光業など人流抑制で経営が厳しい状況にある事業者に対し、事業継続に向けた支援を着実に実行していきます。コロナを契機に新分野進出、業態転換に挑戦する企業を後押しする事業再構築支援や事業承継支援、下請けへのしわ寄せを防止する取引適正化にも積極的に取り組んでいきます」

 -二つ目の大きな柱として『アフターコロナ』を見据えた成長戦略を掲げています。

  「コロナ禍を経て、ミッション志向で新たな付加価値を中長期的に獲得し、成長を続けられる産業構造の構築を目指します。主要テーマに環境、経済安全保障、分配、健康、デジタルをあげました。環境については、『エネルギー基本計画』や2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向けた『グリーン成長戦略』の具体化に必要な予算、税制、規制づくりを進めます。炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる経済的手法である『カーボンプライシング』のうち、成長に資するものには取り組んでいきます。」

 「また、カーボンニュートラルは先進国だけではなく、途上国も巻き込んでいかなければ達成できません。カーボンニュートラルに貢献する環境技術のコストを低減し、途上国への社会実装を広げていけるかがカギになると考えています。日本は水素やアンモニアによる発電技術などに優位性があり、技術を世界に普及させる重要な役割が求められています。環境技術の社会実装に向けた取り組みが産業政策であり、環境政策であり、成長戦略です。カーボンニュートラルの達成は決して簡単な道のりではありませんが、経済と環境の好循環につなげていきます」

世界の新型コロナ前トレンドと各種シナリオ。世界全体のCO2排出量は、経済活動が停滞した2020年で、前年比▲7%となる見込み。経済が復興すれば、CO2排出量は増加する可能性もある

誰もが成長を実感できる社会へ

 -経済安全保障にはどう向き合っていきますか。

 「日本は貿易立国であり、自由貿易こそが経済成長につながるという認識を世界と共有してきましたが、米中対立などを背景に近年状況が変わりました。特にコロナを契機に半導体や医薬、医療機器など重要物資の安定調達をめぐる課題が如実に顕在化したと思います。特定の国に重要物資の調達を過度に依存せず、国内あるいは信頼できる複数の国から調達できる体制作りを進めていくことがカギになります。サプライチェーン強靱化に向けて2022年度は半導体、データセンター、バイオ、医薬が重要分野になるとみています。また、自由貿易に関しては、地球温暖化や人権問題など社会課題解決を組み込んだ新たな国際ルール作りが始まっています。日本も遅れることなくルールメイクに積極的に関与し、提案していきます」

「新たな国際ルール作りに積極的に関与・提案する」と飯田官房長。

 -コロナを契機に『分配』や『健康』の重要性が高まっています。

 「コロナからの企業業績の回復が2極化しているなど、格差拡大が懸念されています。時代の変化に応じたスキルチェンジに対する支援やイノベーション創出を目指すスタートアップへの支援強化を通じて、誰もが成長を実感できる社会の実現を目指していきます。また、コロナを契機に健康であることの価値が再認識されているとともに、高齢化が進む中で高齢者が長く元気に働ける社会がより一層求められています。企業に健康経営を促す施策を展開するほか、ヘルスケア産業の質の確保に向けたガイドライン、評価づくりを進めていきます」

 -デジタルを前提とした経済・社会運営が急がれています。日本はデジタル化への遅れが指摘されていますが、どう対処しますか。

 「ここ数年でデータの活用が世の常識になりました。デジタル庁と連携しながら、デジタルガバメントを強力に進め、民間のデジタル化にもつなげていきたいと考えています。民間のデジタル化については、企業投資を支援していくことももちろん大切ですが、デジタル人材の育成・確保も重要な課題だと考えています。デジタル人材不足を解消する施策を実行し、デジタル化の推進基盤を築いていきます。デジタル化と並行し、中小企業を含めたサプライチェーン全体でのサイバーセキュリティ対策も推進していきます」
 

※カーボンニュートラル達成を目指す中、エネルギーの安定供給を確保しつつ、経済と環境の好循環をどう実現していくのか。次回は、環境・エネルギー政策について取り上げる。