政策特集改正産業競争力強化法で果敢な未来投資を後押し vol.1

危機をチャンスに

 「改正産業競争力強化法」が6月16日に公布された。「ポストコロナ」の世界を見据え、脱炭素化、デジタル化、事業再構築のための事業者の果敢な未来投資を税制や金融面で後押しするとともに、規制改革の推進、ベンチャー企業の成長支援、事業再編の推進、事業再生の円滑化といった事業者の持続的な成長のために必要な措置を講じた。

 本法律は、8月2日に施行された(一部は6月16日に施行)が、様々な支援制度が盛り込まれており、事業者におかれては、各制度の内容を十分に理解し、効果的に活用することで、自身の成長のきっかけとしてほしい。本連載では全6回で要点を紹介する。初回は改正に至るまでの経緯や法律の全体像について経済産業省の担当者に聞いた。

コロナで変わる競争環境

 コロナ禍は、日常生活や企業活動を大きく変えた。国内外で人の移動が大幅に減少したことが個人消費を直撃し、輸出や設備投資も落ち込んだ。経済活動は停滞し、2020年度の日本の実質国内総生産(GDP)は、前年度に比べて4.6%減った。

 単年度ではリーマン・ショックを超え、戦後最悪の下げ幅となったが、経済産業政策局産業創造課の平松淳課長補佐は「危機時こそ社会や企業が変わるチャンスでもある」と指摘する。「コロナ禍で危機感のある事業者に対し、これまで成しえなかった企業変革の断行をどうしたら促し、後押しすることができるのかを考えた」とも語る。

 今回の改正について整理する前に、産業競争力強化法をおさらいしよう。

 同法はアベノミクスの「第3の矢」である成長戦略を実行するための仕組みを構築するため、2013年12月4日に成立した。

 日本経済が抱える課題であった「過剰設備」、「過小投資」、「過当競争」の是正に主眼を置き、規制緩和で事業者の新たな事業活動を促すための措置、ベンチャー投資や事業再編の円滑化等の産業の新陳代謝を活性化させるための措置、中小企業の創業・事業再生を支援するための措置が盛り込まれた。

 今回の改正は、コロナ禍以前から検討されていたが、平松課長補佐は「新型コロナウイルス感染症の影響で、検討当初に想定していた経済・社会情勢の前提が変わってしまった」と振り返る。

 事業者の置かれている環境も人々の行動も大きく変わる経済情勢の中で、1年後、2年後、更にその後に何が求められているか議論を重ねた。「コロナ禍前から検討してきたものと、コロナ禍を踏まえ必要性が高まった『メニュー』を盛り込んだ」と語る。

 廣山奨平課長補佐は改正のポイントを「経済情勢が激変する中で企業の前向きな取り組みを促進する支援が最大の狙い。事業者の一部門、一部署ではなく全社での取り組みを後押ししたい」と強調する。

 中でも①「グリーン社会」への転換②「デジタル化」への対応③「新たな日常」に向けた事業再構築の支援に力を入れる。

 各国の政策を眺めても脱炭素、デジタル化の推進は不可逆だ。コロナの影響がいつおさまるかも業種によっては見極めにくい。事業者は、これらの領域での計画を立て、認定されると、税制措置をはじめとする政策支援を受けられる(詳細は表1)。

表1:産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の概要

使ってもらえる「商品」を

「時間との闘いだった」と振り返るのは、野瀬光太郎係長。取りまとめに現場で汗をかいた。

 2月に閣議決定しなければ国会には提出できない。デッドラインは決まっていたが、コロナ禍の影響や経済情勢の見通しは予断を許さない状況の中、直前まで情勢を見極める必要があるが、時間は限られていた。関係者も多い。

 野瀬係長が奔走する中で見えてきたのは政策担当者ひとりひとりの思いだ。省内では、時には立場を超え、議論する職員の姿もあった。

 法案に関わった職員の気持ちはひとつだった。世の中の商品やサービスがどんなに素晴らしくても使ってもらえなければその価値は伝わらない。「私たちにとっての『商品』は政策。一社でも多くの事業者に活用いただいて、日本における未来投資、企業変革の一助になってもらいたい」(平松課長補佐)。

 平松課長補佐は「産業政策が転換点を迎えている中での立法だった」とも語る。

 産業政策は戦後、特定産業の支援が主流だった。石油危機後に構造不況産業の構造転換支援にシフトし、その後、特定の産業に限らず業種横断的に事業環境整備などを進めてきた。

 今回の法律は、前述したようにグリーンとデジタルという成長特定の領域に対する政策を前面に押し出している。

 野瀬係長も「産業政策がどうあるべきかが問われる中で、一職員としてこの法律に関われたことは貴重な経験だった。この法律をぜひ多くの事業者の皆様に使っていただきたい」と熱を込める。

(右から)経済産業政策局産業創造課の平松淳課長補佐、廣山奨平課長補佐、野瀬光太郎係長

 世界が、日本が新しいステージを見据える今、三人の担当者は、制度の利便性(使いやすさ)と制度の要件(企業に取り組んでほしいこと)のバランスを取りながら制度設計を行い、多くの事業者が未来の成長を描ける政策ができたのではと声をそろえる。それでは、実際、どのような「メニュー」が用意されているのか。次回以降で詳しく見ていきたい。

 ※第2回は「グリーン社会」への転換に向けた措置を取り上げる。

【関連情報】
改正産業競争力強化法の詳細について