あるべきエネルギーの姿とは?
「3E+S」から考える、多様性と選択
わが国のエネルギーの姿は将来、どのようにものになるのだろうか。パリ協定に代表されるように、温室効果ガスの排出削減への動きは加速。電気自動車(EV)が台頭し、脱内燃機関の動きをみせる国も出始めた。一方で国際情勢は不透明さを増し、エネルギー資源の安定確保に向けて厳しさが増す可能性も捨てきれない。今、エネルギーを取り巻く環境が大きく変わろうとしている。
十年一日ではない
技術進歩が激しいIT業界と違って、エネルギーの世界は十年一日のように見えるかもしれない。しかし、それは誤解だ。たとえば電力の世界を見てみよう。その歴史は、明治15(1882)年、東京・銀座でわが国初の電灯が灯されてからの135年。そこで長らく主役を張っていたのは、実は水力発電である。水主火従から火主水従へと転換し、火力発電が主役に躍り出たのは、わずか半世紀あまり前のこと。高度経済成長で電力需要が大きく伸び、水力だけでは賄えなくなったからだ。
その火力も、1960年代に国内石炭から石油に移り変わると、1970年代には二度にわたる石油危機で石油一本足からの脱却を迫られる。そこで天然ガスや原子力などエネルギー源の多様化が進められた。加えて1990年代からは地球温暖化への対応も課題として浮上。京都議定書が採択されたのは1997年のことだ。発電時にCO2を排出しない原子力はベースロード電源として存在感を高め、火力燃料の中ではCO2排出が少ないLNG(液化天然ガス)も伸びることになる。
そして現在。東日本大震災と、それによる福島第一原子力発電所の事故によって、原発の安全対策が見直されることとなり、全国の原発が停止。そのため電力危機に陥ったのは記憶に新しい。再生可能エネルギーが実用的な電源として選択肢にのぼってきた。その一方で電力や都市ガスの小売り自由化や、省エネ、負荷平準化などの需要の制御技術の開発なども大きく進歩している。この50年、エネルギーの姿は変わり続けた。
2050年見据えるパリ協定
そして、この先の50年も時代の変化に合わせて変化し続けるだろう。パリ協定によって世界は2050年に向けて温室効果ガスの排出を劇的に削減する目標を設定。わが国でも、政府は中長期(今後20年程度)を見据えたエネルギー政策として2014年にエネルギー基本計画をまとめ、大きな環境変化に対応するための方向性を打ち出した。現在も総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で基本計画の見直しの検討を進めるとともに、エネルギー情勢懇談会で2050年という長期を見据えた方向性を議論しているところだ。
エネルギーは国民生活や産業活動を支える欠かせないもの。そしてわが国は、エネルギー源の中心である化石燃料に乏しい資源小国である。多くを輸入に頼らざるを得ず、外的な要因の影響を受けやすい脆弱性を忘れてはならない。だからこそ時代に応じて、あるべきエネルギーの姿を追求し続けなければならない。
3E+Sを前提に
あるべきエネルギーの姿を追求する羅針盤となるのが、「3E+S」の考え方だ。安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)の3項目を同時に実現することの重要性をあげている。
火力、原子力、水力、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどエネルギー源は多種多様だが、それぞれ強みもあれば弱みもある。たとえば化石燃料は供給量は安定しているものの、国際情勢によっては石油危機のような事態も起こりうるし、コストも市場環境で大きく動く。その上、発電時の燃焼によってCO2の排出を伴わざるを得ない。
原子力は、圧倒的にエネルギー密度の高い燃料(100万キロワットの発電所を1年間運転するのに必要なウラン燃料は21トン。これが天然ガスだと95万トン、石油は155万トン、石炭は235万トン。つまり1万分の1以下)を使うため備蓄が効き、安定供給では優れているが、万全の安全対策を追求しなければならない。水力はコスト、環境性に優れるが、巨大な発電所の適地は限られる。太陽光や風力はエネルギー安全保障や環境性では有望だが、発電量が自然条件によって変動し、エネルギー密度が低いのが難点だ。
奇手奇策はない
残念ながら完璧なエネルギー源は存在しない。だからこそ常に時代の状況を見据えながら、これらのエネルギー源を組み合わせる。そして個々の弱点をカバーできるだけの研究開発を地道に続けていくことが必要となる。エネルギー問題に奇手奇策はない。
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