さまざまなシーンでのロボット活用で、人手不足の解消へ
ロボティクス分野の先進事例
物流分野でのトラックドライバーをはじめとする人手不足が深刻な状況の中、省人化、機械化の動きが加速している。救世主となりそうなのが、買い物などの日常生活、倉庫での作業などさまざまなシーンでのロボットの活用だ。第3回は、先進事例として、ラピュタロボティクス、楽天、パナソニックの3社の取り組みの背景や課題について、舞台裏に迫った。
ロボットをつなげて、人々の生活を豊かにしていく
ラピュタロボティクスのモーハナラージャ・ガジャン最高経営責任者(CEO)は、「ロボットをつなげて、もっと人々の生活を豊かにしていく」とし、会社の存在意義を強調する。ロボット制御によって省人化をはかり、ロボットと人とが融合化して、人と協調していくことを目指す。
物流の現場は、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)とされ、敬遠されている。こうした仕事は、できるだけロボットによる自動化・省人化によって、代替していく。これによって、時間と心身に余裕ができれば、人はよりクリエイティブな仕事により専念することができるといった思いがある。
作業員の歩行負担を軽減する
では、実際にラピュタロボティクスのロボットは、物流現場である倉庫でどう活用されているのだろうか。
現在、日本通運の平和島ロジスティクスセンター(東京都大田区)など物流倉庫3拠点で同社製のロボット(ラピュタAMR)が行き交う。AMRは、倉庫内でのピッキング作業支援から、保管棚から荷卸し場所までの運搬作業などを担う。倉庫内で稼働する十数台のAMRは同一基盤で制御され、人工知能(AI)により常に最も効率的なルートで移動・作業する。これにより、通路の狭い場所や、搬出経路が複雑な現場に柔軟に対応している。作業者は、ロボットの指示に従ってピッキングを行うことで、安定かつ効率的に業務を継続的にできる。倉庫内作業は、「運搬などで1日に現場を10キロメートル歩行することもある。これが半減できた」(森亮執行役員)という。AMRとの協働は省人化に加え、作業員の歩行負担も軽減できる。
強みは、クラウドロボティクスと群制御
ラピュタロボティクスの強みはどこにあるのだろうか。
まず、一つは、クラウド上で複数のロボットを制御する「クラウドロボティクス」の技術が強みだ。独自のプラットフォーム「rapyuta.io」を開発した。ロボットは相互に通信して、連携しながら作業し、プラットフォームを構成するAIがこれらを制御する。トラブルが起きた際はロボットが相互に仕事を代替し合うなど、時々の状況に応じて稼働し、現場を円滑に運営できる。
もう一つは、クラウドロボティクスを支える群制御技術だ。異なるユーザーの多種多様な複数のロボットを連携させることは容易ではない。物流の増加や技術の進歩に応じてロボットの構成を変更する際にも、ソフトウエアの修正が不要だ。拡張性やレイアウトの変更に対応する柔軟性を持つ。
ガジャンCEOは「クラウドロボティクスは国内で未開拓の領域だ」と語り、実際に技術への理解を得るのに苦労したと振り返る。ただ、実証を通じて物流現場に足を運び、導入企業も4社に上った現在、「コストメリットやシステム構築・運用のしやすさなどの利点が理解されつつある」と、その将来性に期待をかける。
ロボット活用を側面支援する戦略
同社は、スイス・チューリッヒ工科大学(ETHZ)発のベンチャー企業だ。東京工業大学でもロボット工学を学び、ETHZでも博士号を取得した、スリランカ出身のガジャンCEOらによって2017年に設立され、国内外の多様な人材が活躍している。
今後はメーカーやSIerなど新たなパートナー会社を募り、技術提供を進める。プラットフォームを提供することで、ロボット活用を側面支援しながら、ソリューション提供企業がその開発に集中できる環境を作りたいという思いだ。「あくまで人が主役で、人を助けるため、人のために、自動化に向けてさまざまな種類のロボットを使っていきたい」(森執行役員)とし、理想の実現に向けた基盤づくりに着手する。
楽天、ロボットによる無人配送サービスで生活の利便性を向上させる
倉庫でのロボットの活用事例をみてきたが、生活シーンでの活用はどうなっているのだろうか。
楽天コマースカンパニードローン・UGV事業部UGV事業課の牛嶋裕之シニアマネージャーは、「(このままの状況が続けば)宅配需要の拡大に対応できず、様々な配送サービスがもたらす生活の利便性の向上が頭打ちになり、それを維持することも難しくなるおそれがある」と警鐘を鳴らす。
消費者ニーズの多様化によって、宅配は拡大し、宅配便の取扱個数は年々増加の一途をたどっている。一方で、物流を支えるトラックドライバーの人手不足などによって、これまでの物流が維持できなくなる懸念が高まってきている。こうした課題を解消する対応策の一つとして、楽天は自動配送ロボットやドローン(飛行ロボット)などを活用した物流の無人化・省人化サービスで活路を切り拓こうとしている。
人や物をよけながら、楽天サービスの自動配送ロボットが公道を走行
2021年3-4月、神奈川県横須賀市の公道を、最高速度時速4キロメートルの1台の小型の自動配送ロボットが動きまわった。これは、楽天と西友、横須賀市が期間限定で提供した自動配送ロボットの公道走行による商品配送サービスの様子だ。この自動配送ロボットはパナソニック製で、人や物をよけながら自動で走行するのが特徴だ。牛嶋シニアマネージャーは、「パナソニックは病院や空港に自動走行するロボットや電動車椅子を導入してきた実績がある。公道も安全に走行し、とても安心して利用できている」と説明する。
今回のサービスは、横須賀市馬堀海岸の住宅地が舞台となっている。スーパーから個人宅まで、低速・小型の自動配送ロボットが米や飲料、菓子、調味料、日用品など400点以上の商品を運ぶ。遠隔監視しながら、ロボットの近くに1人の保安要員が随行し、安全を確保した。利用者は専用サイトから商品を注文し、当該商品を積んだ自動配送ロボットがスーパーを出発、公道を自動走行して、自宅前で商品を受け取る仕組みだ。馬堀海岸地域は高齢者が多いため、重い商品やかさばる商品などをスーパー内のサービスカウンターに預ければ、自動配送ロボットが自宅まで届けてくれるというサービスも用意した。
商品の受け取りに工夫を凝らす
今回のサービス面で苦心したのは、どういった点なのだろうか。牛嶋シニアマネージャーは、「スマホを利用されないご高齢の方々に、ロボットが自宅前に到着したことをどうやって知らせるかという点です」と振り返る。
これまではスマホのアプリで通知していたが、今回新たに自動音声による電話で到着を知らせる機能を、自動配送ロボットに搭載した。ロボットが自宅前に到着すると、「到着しました。商品をお受け取り下さい」という電話がかかってくるため、利用者はスマホがなくても、ロボットの到着を知ることができる。今回のサービスについて、牛嶋シニアマネージャーは、「住民の方々に好意的に受け容れていただくことができた」と見る。今後のサービスの展開は、エリアやサービス内容、対象商品などを含めて検討中だ。
無人化、省人化へのシフトが課題
ロボットによる自動配送サービスについて、継続的なサービスとしていくには、いくつかの課題も浮かび上がった。
自動配送ロボットの運行にあたり、今回のサービスでは、現地から約5キロメートル離れた横須賀リサーチパークで1人が遠隔監視し、加えて、安全対策としてロボットの近くに1人の保安要員を配置するという体制を整えた。これを、保安要員をなくし、遠隔監視者1人が複数のロボットを監視することによって、サービスを実施できる体制へとシフトしていく。いかに無人化・省人化を実現していくかは大きな課題だ。サービス面では、配送商品のラインアップの充実、時間帯や曜日など配送枠の拡大、注文サイトの使いやすさ向上などが課題として挙げられる。
楽天は、国内の配送について、それぞれの地域の環境に応じて、適材適所でさまざまな自動配送ロボットやドローンを活用し無人配送サービスを提供していく戦略だ。
パナソニック、ラストテン(10)マイルで進化するまちづくりを演出
パナソニックは、まちづくり支援という大きな視点から、ロボットを活用した取り組みを展開している。パナソニックモビリティ事業戦略室コミュニティMaaS事業推進部の東島勝義部長は、「「ラストテン(10)マイル」を目指している」とし、ロボットなどによるまちづくり支援サービスのコンセプトを提唱する。
人の生活圏は、住宅、スーパーなど商業施設、病院、薬局、健康・福祉・教育施設など、ワンマイルの範囲ではとても収まらない。人々はこの圏内を自由に行き来し、物の移動も円滑にいかないと、人々の生活に支障をきたす。EC(電子商取引)やフードデリバリーによって宅配便需要が増えるのに加えて、テレワーク、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、「巣ごもり消費」が増え、さらに需要は高まっていくことが予想される。一方、宅配事業を担う配達員の人手不足がさらに加速する。コロナの拡大は非接触・非対面という新たな需要への対応も求められてきている。こうした状況に対し、パナソニックは、効率化した省人化・無人化によるサービスとして、ロボットなどモビリティーソリューションを使って支援していく戦略を描いている。
いくつもの暮らしのシーンを、利用者と一緒につくっていく
神奈川県藤沢市内では、2020年11月-12月、パナソニックの小型自動配送ロボットによる公道走行の実証実験が実施された。自動配送ロボットとしては、日本で初めての住宅街の走行として注目された(2020年11月25時点)。さらに、2021年3月には、同地域で、自動配送ロボットによる配送サービスの実証実験を行った。国内で初めて、1人のオペレーターによる遠隔監視で、複数台のロボットが同時に公道を走行した(2021年3月4日時点)。
これらの実証実験は、「まちの住民の方々に大人気で受け入れてもらった」(東島部長)と振り返る。藤沢地域は、若い世代の住民が多い。幼い子どもを持つ母親は、買い物に出かける時間がないうえ、ベビーカーを押しながらの買い物は、手間取る。母親に代わり、小型配送ロボットが買い回りを代行する。
東島部長は、「いくつもの暮らしのシーンを想定して、利用者と一緒になって時代をつくっていく」とし、快適な暮らしを支えるサービスの在り方を訴える。
また、神奈川県横須賀市内でも、2021年3月23日ー4月22日、楽天、横須賀市などと共同で、公道によるパナソニック製の自動配送ロボットを使った商品配送サービスの実証実験を行った。高齢者の多い住宅街での実験を通じて、東島部長は、「ロボットが荷物を運んでいるところで立ち止まって話をされる姿も見られて、(ロボットサービスへの)期待を感じた」と振り返る。また、楽天との協業について、「もともと楽天さんとは官民協議会などで一緒に参加させていただいていた。バーチャルでの顧客をもたれている楽天さんと遠隔型ロボットソリューションで信頼をもっていただいている弊社と双方の強みを生かすという利害が一致した」と舞台裏を明かす。
自動配送ロボットによる走行を実現するには、大きく分けて2つの要素が必要だ。
1つは、高い技術力だ。安全・安心を得るため、パナソニックが培ってきた3つの技術が支える。安全認証を取得したロボット、遠隔監視・操作のための安定した映像・音声が伝送可能なAV通信技術、車載レベルの高信頼セキュリティーシステムだ。
2つ目は、ロボット技術・サービスだけでは成り立たない。サービス展開をしていく上で、親しみのある(ユーザーフレンドリーな)ロボットの在り方にも注目し、デザインや眉毛の動き、おしゃべりなどのインタラクション機能にも工夫をしている。さらに、まちの住民の受け入れ、サービスを提供したい企業、それを支援していく自治体と密接に連携していくことが不可欠だ。
複数台のロボットを使ったサービスをいかに提供していくか
社会実装していくうえでの課題は何だろうか。
東島部長は、「実用化のカギは、複数台のロボットを使ったサービスをいかに提供していくかだ」と語る。
制度面では、現在、遠隔での公道走行実証には、そのつど申請して認定や許可を受け、運用する手続きが必要だ。公道走行実証の結果を踏まえた制度見直しについても検討されているが、社会実装に当たっては、自動配送ロボットが動けなくなってしまった場合にどうするかなど、安全面と効率面の両立の検討が必要になる。ただし、あまりに厳格過ぎるとサービス提供が難しくなる。こうした点は関係省庁とも検討していくことになる。社会実装には、安全面と使いやすさのバランスをどうとっていくのかが重要だ。
今後、パナソニックはさまざまなエリアでサービスの運用を試していく方針だ。エリアごとに、運ぶ対象、環境、目的は違うため、それに対応したサービス内容は異なってくる。当面は、エリアを特定するか、あるいは特区のようなことをイメージしている。住民がしっかり理解し、住民自身がまちづくりに力を入れている下地がないとサービスは成り立たない。サービスを提供する事業者も同様だ。自治体もサービスを取り入れ、活性化し、産業創出につなげる前向きな姿勢が欠かせない。モデルケースをいくつかつくっていって、共創によるまちづくりの未来図を描いている。
少子高齢化や少量多品種に伴う宅配需要の拡大などを背景として、さまざまなシーンでのロボットの活用は、今後一段と進んでいく。社会実装するには、ハード面の技術だけでなく、運用面などのソフトウエア、さらに道路規制などの緩和などの法制面もあり、多くのハードルが待ち受ける。3社は、培った技術とノウハウでこうした課題に挑もうとしている。
※次回は、三菱商事の物流変革の取り組みを取り上げる。