江島副大臣が語る産業復興と廃炉の「いま」
「戻りたいと思えるふるさとに」
東日本大震災から10年を迎えた。復興へ向けた福島のこれまでの歩みをどう捉え、福島第一原発事故からの収束にどう向き合うのか。経済産業副大臣で原子力災害現地対策本部長も務める江島潔氏に聞く。
雇用の場を生み出さねば
-震災当時は山口県におられたとか。下関市長時代ですか。
「いえ、市長はすでに退任し、大学の客員教授の職にありました。下関市なので揺れはさほどではありませんでしたが、次第にテレビ報道で東北が大変なことになっていることを知りました。その際に映像で見た津波やその後の惨状は目を疑うほどでした。初めて被災地に足を踏み入れたのは、震災からおよそ3か月後。市長時代から懇意にしていた前岩手県宮古市長で内科医の熊坂義裕さんを訪ねたことがきっかけです。被害の爪痕が残る東北自動車道をひた走り、眼前に広がる光景に衝撃を受けたことを記憶しています」
-国政に転じてからは国土交通行政や水産行政の立場から復興政策に携わってこられました。福島の実情をどう受け止めていますか。
「国土交通大臣政務官、自民党水産部会長、そして2018年1月には参議院復興特別委員会委員長となりました。期せずして福島にご縁があり、今や福島復興は私の政治活動の柱の一つとなっています。何度も被災地に足を運び、復興政策に取り組んできましたが、道路や鉄道といったハード面の復興は着実に進む一方で、立ち入りが制限される帰還困難区域は、いまなお双葉町、浪江町、大熊町など7市町村で残ります。これら地域では帰還へ向けた環境整備が進められていますが、それには医療・福祉や教育といったソフトインフラの整備も欠かせません。もとより地域に雇用の場が確保されなければ、ふるさとに戻って頂くことは難しい。そのため経産省としては、企業誘致をはじめ産業再生に一層力を注ぐ構えです」
「例えば『福島イノベーション・コースト構想(注)』は、原子力産業が主要産業だった浜通り地域に国内外の英知を結集し、廃炉産業を一つの柱とする姿を描いているほか、クリーンエネルギーにも注力しています。このように浜通りの産業は生まれ変わるタイミングにあるのです」
新産業がもたらす波及効果
-原発事故によって失われた福島の産業基盤を再構築する取り組みは国家プロジェクトとして進められてきました。南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」や浪江町に立地する「福島水素エネルギー研究フィールド」は地域経済にどんな変化を生み出していますか。
「ダイナミックな実証の場を提供する『福島ロボットテストフィールド』では、約300件の実証実験が繰り広げられており、うち40件がすでに事業化されています。ちょうど先日、立ち寄った福島県内のホテルでは、研究開発を重ねてきたプロジェクトが製品化されたロボットとして結実して、実際にサービス提供するさまを垣間見ることができました。地域に生まれつつある産業集積が、地域の日常そのものを変える原動力となる姿に深い感慨を覚えました」
「さらに『福島ロボットテストフィールド』は、企業や近隣の高専にとっても魅力的な存在となりつつあるようです。『ロボテス』を銘打ったお弁当やおまんじゅうなどの名物が誕生していることが象徴するように市民の皆さんから期待され、誇るべき施設になっていることを嬉しく思います」
「『福島水素エネルギー研究フィールド』は、再生可能エネルギーの導入拡大を見据え、電力系統の需給バランスを調整する機能としての水素事業モデルと販売事業モデルの確立を目指し技術開発を行う拠点です。水素の利用拡大に向けた課題のひとつには製造コストがあります。しかし、民間だけの取り組みには限界があるのもまた事実です。そこで、新エネルギーの先進地であるこのフィールドで、民間企業や関係機関と連携しながら課題を克服していきたいと考えています」
-先端産業の集積地としての輪郭が浮き彫りになる一方、福島第一原発の廃炉に向けた現状をどう受け止めていますか。
「東京電力福島第一原子力発電所には2015年以来、複数回、足を運んでいますが、その都度、労働環境の改善を実感しています。今では構内の約96%で防護服なしの作業が可能です。廃炉作業も着実に進展していると受け止めています。使用済み燃料プールからの燃料取り出しは、ほぼ予定通り進んでおり、現時点で1号機から4号機の約7割で搬出を完了しました」
いまできることに全力注ぐ
-一方、原子炉格納容器内で溶けて固まった「燃料デブリ」の取り出しは、世界的にも前例のない困難な取り組みとなります。作業はどんな段階にあるのですか。
「これまでの調査から格納容器内の分布状況などが判明し、遠隔操作の装置を通じてデブリと思われる堆積物を持ち上げることができました。英国で進めているロボットアーム開発は新型コロナウイルスの影響でスケジュール変更を余儀なくされたものの、技術開発や取り出し環境の整備など並行して進められる作業はこれにとどまりません。現時点では燃料デブリの取り出し工程を見通すことは困難ですが、いまできることに全力を注ぐということです」
-燃料デブリを冷却するために用いられた水から放射性物質を取り除いた「処理水」は現在、タンクに保管されていますが、2022年夏以降には用意された1000基が満杯になるとの見通しです。
「処理水の取り扱い方針については、いつまでも方針を決めずに先送りすることができない課題であることは事実です。処理水をためているタンクが物理的に廃炉作業の妨げになることもそうですが、そもそもタンクが林立するふるさとに戻って再び住みたいと思ってもらえるでしょうか。国の委員会では、科学的な観点だけでなく、風評被害など社会的な観点も含め、議論を重ねてきました。今後、政府として責任を持って方針を決定することになります」
「福島の水産物は、料理人などプロから高い評価を受けています。科学的根拠に基づいた情報発信はもちろん重要ですが、これからの情報発信のあり方として、安全なのは言わずもがなで、『これは美味しいよ!』とさらにPRすることに注力していきたいと思っています」
(注)「福島イノベーション・コースト構想」とは、東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域などの産業を回復するため、この地域に新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト。重点分野として「廃炉」「ロボット・ドローン」「エネルギー・環境・リサイクル」「農林水産業」「医療関連」「航空宇宙」の6分野を掲げている。
※ 次回は福島第一原発の最新情報をルポします。