自動車工業の産業波及効果 あらためて浮き彫りに
鉱工業生産へのインパクトにみるその実情
鉱工業指数においては、2015年基準から自動車工業が単独での公表業種となっている。また、今年に入ってから、9か月連続で、鉱工業生産前月比(季節調整済)の寄与度1位となっているなど、近年、自動車工業は鉱工業生産の動向を大きくけん引している。
今回、その自動車工業に焦点をあてて、産業の中での位置付けや最近の動向などを紹介する。
突出する「生産波及力」
自動車工業の付加価値や最終需要の状況をみると、付加価値額は11兆円で、全産業に対する構成比は2.1%となっている。また、最終需要では、民間消費支出は2.0%、固定資本形成は3.6%といった位置付けだが、輸出においては19.1%とほぼ2割を占め、財貨(モノ)の輸出に限れば、24.7%と約4分1という大きな位置付けとなっている。
自動車工業単独では、付加価値額の構成比もさほど大きくないようにも見えるものの、各産業への波及度合いである生産波及力(注)をみると、96業種中上位5業種に自動車工業の3業種が入っており、自動車工業がもたらすわが国の生産全体への波及効果は乗用車で2.7倍と、全産業の中で最も大きいことがわかる。
(注) 生産波及力とは、当該産業の需要が自産業含む全産業に及ぼす波及効果を指し、これが2.7であれば、当該部門に1単位の国産品需要があれば、全産業では2.7倍の生産誘発をもたらされることを意味する。
「指数」に与えるインパクト
最近の鉱工業生産指数の動きをみると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、本年2月から低下に転じ、3月から5月まで大幅低下、6月以降は連続上昇という動きをしているが、いずれの月も自動車工業の影響が最も大きく、自動車工業は3月、4月、5月と大幅にマイナスに寄与し、その後の回復過程では逆に自動車工業が4か月連続で大幅にプラスに寄与している。
鉱工業出荷内訳表でみると
近年の自動車工業の生産の変動要因を探るため、鉱工業出荷内訳表で自動車工業を含む輸送機械工業の内外需別の動向をみてみる。鉱工業出荷指数は2018年終盤以降、低下傾向で推移したが、自動車工業の国内向け出荷が上支えしたことで、鉱工業出荷の低下は緩やかなものにとどまった。
一方、輸出向け出荷は、2019年に入ると低下傾向で推移しており、新型コロナウイルス感染症拡大による経済ショックの影響も輸出向けの方が大きくなっている。
回復傾向にある国内販売
自動車の国内販売の状況について、商業動態統計で自動車小売販売指数(季節調整済)をみると、2019年に入ると減少傾向となり、5月以降上昇傾向に転じたが、10月の消費税率引上げの前後で、台風19号の影響も重なり、大幅な増減がみられた。その後、消費税率引上げ前の水準まで戻したものの、本年3月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、再び大幅減少となった。ただ5月を底に、6月以降は回復傾向にある。
リーマンショック時より早い在庫調整
今回の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う内外の需要の大幅減で、自動車工業は大幅な生産調整を強いられた。
リーマンショック時と比較すると、今回は、短期の大幅な減産により、在庫率をみても短期間で在庫の調整を終了しており、6月以降、需要回復に伴い生産を順調に回復させている。
(注)リーマンショック時の「自動車工業」の各指数値は、2010年基準の「(特掲:乗用車・バス・トラック)」の指数値を用いており、新型コロナウイルス感染症拡大時の「自動車工業」の各指数値は、2015年基準の「乗用車・バス・トラック(22年基準)」の指数値を用いている。
日本の自動車工業の生産は、6月以降回復過程にあり、9月時点ですでに感染症拡大前に近い水準まで生産は戻ってきている。ただ最近、内外において新型コロナウイルス感染症が再拡大しており、需要面での先行きには注意が必要だ。
一方、電気自動車化や自動運転等の動きが世界的に加速しており、自動車をめぐる産業構造は急速に変わりつつある。冒頭みたように、自動車工業の日本における生産波及効果は現在大きなものとなっているが、今後も、日本の自動車工業や関連産業は、国内生産に競争優位性を確保していくことが期待される。
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