「DX銘柄」企業担当者が語る戦略実現の原動力
ブリヂストン・ GAテクノロジーズ対談【前編】
6年連続で銘柄選定の実績を持つブリヂストンと、今回、初の選定となったGAテクノロジーズ。ビジネスモデルも企業風土も異なる両社は、それぞれどんな理念に基づいてDXと向き合ってきたのか。担当者が語り合う。
目指す経営支えるDX
経済産業省情報技術利用促進課 宮本祐輔課長補佐(以下、宮本)
経済産業省は民間企業のDX推進を後押しする施策を展開しています。DXは既存業務の単なるデジタル化ではなく、デジタル技術の利活用を前提に、企業の経営そのものを変革する取り組みであると考えています。そこでまずはDXが経営ビジョンの中でどう位置づけられているのか伺えますか。
ブリヂストン デジタルソリューション企画本部 花塚泰史デジタルAI企画部長(以下、花塚)
当社は中長期事業計画で、高い競争力を有する「断トツ商品」とこれに関連するサービスを、サービスネットワークを通じ「断トツソリューション」として提供することで社会やお客さま、パートナーに新たな価値を提供していく「ソリューションカンパニー」となることをビジョンとして打ち出しています。デジタルと組み合わせてタイヤの最適な交換時期やオペレーションを提案することにより、例えば法人のお客さまはタイヤがどこまですり減ったかなど気にすることなく本業に集中できます。あるいは販売店などから得られるさまざまな情報を新たな商品開発に生かす。こうしたビジネスモデルを支える根幹となるのがDXです。
GAテクノロジーズ 稲本浩久 Chief AI Officer=最高AI責任者(以下、稲本)
当社はアナログ的な商慣習が色濃い不動産業界をテクノロジーの力で変革すること目的に、2013年創業のスタートアップ企業です。皆さんも経験がおありかと思いますが、物件探しをはじめ不動産取引は紙の資料や契約書、電話やFAXがいまなお主流で、こうした現状を変革し、当社はもとより業界全体の成長に貢献したいと考えています。主力事業は不動産テック総合サービス「RENOSY(リノシー)」で、投資用中古マンションの売買では、仕入れる物件の選定に人工知能(AI)を活用したり、相談の場で、資産形成をシミュレーションしたりできるシステムなど、不動産取引にまつわるさまざまなニーズに応える仕組みを構築してきました。当社にとっては、DXという言葉が一般化する以前からビジネスがDXそのものなのです。
宮本 DXはどうやら新たな価値創造や構造的な課題解決につながるらしいー。こうした認識が企業の間で広がりつつありますが、こと自社のこととなると、手がかりがつかめない難しさがあるように感じます。皆さんの場合は、DXで解決可能なビジネス課題や、取り組みの優先順位をどう設定してきたのですか。
稲本 我々の場合は非常にシンプルです。お客さまと日々接する現場のすぐ横にエンジニアがいますので、業務プロセスのどの部分を変革すれば、効率化や顧客満足度の向上につながるのか明白なのです。私自身が大きく関わったのは、さきほどお話した資産形成シミュレーションなど接客ツールの電子化ですが、会社としてはほかにも住宅ローンの申し込みがオンラインで完結し、日々の利回りや返済額をアプリで把握できる仕組みなども構築しています。いずれも営業現場および顧客の利便性向上につながる変革です。
既存の手法、組織風土 どう乗り越える
宮本 DX推進側と現場の距離が近いのは大きいですよね。しかし、機動力が武器のスタートアップと異なり、ブリヂストンの場合、大企業ならではのご苦労もあったのでは。いわゆるレガシーシステムも抱えていますよね。
花塚 確かにこれまでの組織構造は、商品単体の力を前提とした従来型のビジネスでは競争力を発揮しました。しかし、IoTを軸にしたソリューションビジネスに舵を切る上で、事業部門と技術開発センター、つまりビジネスとテクノロジー部門の連携が不可欠です。ビジネス側はテクノロジーでどんな課題が解けるか分からない。一方、テクノロジー側は、そもそも課題が設定されなければ力量を発揮しようがない。実際、過去には両者の間にこぼれ落ちてしまったボールは少なくありませんでした。そこで事業部門の壁を越えDX推進の先兵となる役割として、CEO(最高経営責任者)直轄の部門にDX推進を担うデジタルソリューション企画本部を設置しています。いまでは「こういうデータがあるのだが、次の戦略に生かせないか」といったフランクな議論が日常的に繰り広げられる組織風土が醸成されていると感じています。
稲本 組織に横串を刺す役割が求められる立場におられると、自身の成果だけを狙っているかのように見られる心配はありませんか。
花塚 そうかもしれませんね(苦笑)。要は日頃から緊密なコミュニケーションや誠実な対応を心がけることに尽きるのではないでしょうか。基本的な人間力が問われるのかなと。
稲本 とかく人間社会は難しい。アルゴリズムのようにはいかないですね(笑)。
カギは現場との距離感 連携促す組織風土
宮本 現場との距離の近さ、あるいは、緊密な連携を促す組織風土改革、DX推進にはこのあたりがカギとなりそうですが、実際、スムーズに進んできたのですか。お話しにくいかもしれませんが、変革に対する抵抗や軋轢もあってのではと推察するのですが。
稲本 当社は比較的恵まれている方だと思います。第一に社名にテクノロジーと冠するほど、まず技術に対する経営トップの理解がある。第二に平均年齢30歳ほどの若い会社なので、デジタルへの親和性が高く、古い基幹システムも保有していません。半面、新たなシステムやツールは一朝一夕に導入できたわけではありません。営業現場としては今までのやり方を、おいそれとは変えられないのは当然ですし、これによって売り上げが減少することは容認できないわけです。よって、私たちは、まず現場に寄り添う、現場をリスペクトする姿勢を何より大切にしてきました。
花塚 既存のITシステムの複雑化がDX推進を阻む「2025年の崖」問題は、当社も例外ではありません。製造業の中でも基幹システムの導入は早期だったと聞いておりますし、新しい製品やシステムができる度に、機能を追加していったので、それなりに長大なレガシーシステムができあがっているからです。この問題については別途、専門組織が編成され、対応にあたっていますが、さらにDXを進化させるうえで、ほかにもさまざまな課題があると認識しています。
宮本 非常に興味がありますね。次回、詳しくお聞かせください。(後編に続く)