政策特集ソーシャルユニコーン目指して vol.7

大企業とスタートアップ ビジネスの「あるべき姿」とは

日本ユニシス・齊藤昇代表取締役専務執行役員(経団連スタートアップ委員会企画部会長)に聞く【後編】

スタートアップとの連携を強化する経団連(東京・大手町)


 スタートアップの技術や着想力には、社会が直面する課題解決やデジタル技術を活用した新たな事業モデルを創造するうえで、大企業も注目する。協業機会を探る一方、今後のビジネスにつなげていくうえで必要な視点とはー。前編に続き、経団連スタートアップ委員会企画部会長を務める日本ユニシスの齊藤昇代表取締役専務執行役員の話に耳を傾けてみよう。

互いに求められる姿勢

 ー大企業とスタートアップの接点は広がりつつあるようですが、実際のビジネスにつなげていく局面で、まず大企業側にどのような姿勢が求められますか。

 「まずは自社に集積している人財、資金、技術、知識・データといったアセット(資産)を解放して日本のスタートアップの成長を促進し、産業界全体でイノベーションを加速することが必要です。そのためには、経営層がイノベーションに対する理解を深め、『既存事業の継続・成長』と『新規事業の探索・投資・開発』を区別した経営判断を行うなど、実行面での取り組みが求められます。これを大前提として、いわゆる『出島』のようなスタートアップ連携の専門組織の設置、さらにスタートアップなどへのレンタル移籍や出向を通じた多様な人財の育成、外部人財の積極登用などの取り組みが重要です。加えて、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)設立やM&A(企業の合併・買収)による積極投資、また、オフィスや実験設備などのインフラの提供さらには経理・財務・法務などのゼネラル機能の提供を通してオープンイノベーションを促進する『場』をつくるという役割も求められています」

「橋渡し役」を担う

 ー例えば日本ユニシスではどのように取り組んでいるのですか。
 「日本ユニシスグループは、長年にわたり大手企業の基幹系システムの開発・保守・運用に携わっていますが、2017年にCVCとしてキャナルベンチャーズ(CVL)を設置しました。CVLではファイナンシャルリターンを追求するよりむしろ、日本ユニシスを含む、既存企業とスタートアップのマッチングによるイノベーション創出を促進することを重視しています。具体的には例えば企業サイドより預かったデータをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由でセキュアに開放してスタートアップ事業との連携を進めるといった『橋渡し役』を担っています」

スタートアップとのネットワーキングイベント「KIX」のオンライン開催に臨む齊藤氏

 -人財面ではどのようなことを重視していますか。

 「私が3月まで担っていたCVLの社長にはこれからを担う40代の若者を登用し、第2号ファンドをスタートさせました。私自身がCVLの取締役および日本ユニシス側管掌役員として、スタートアップと日本ユニシスグループの協業を加速するとともに、本体の企業風土改革にもつなげています」

ガイドライン案にも意見反映

 -このほどまとまった政府の成長戦略では、大企業とスタートアップが共同研究する際、特許権の独占など偏った契約にならないよう年内をめどにガイドライン案を策定することが盛り込まれました。こうした実情をどう受け止めていますか。

 「大企業とスタートアップとの連携に際しては、法務慣習や意識に関するギャップや両者が抱えるさまざまな課題に由来して、契約に関するトラブルが頻繁に発生してきたことは事実です。大企業は、法務部門および知財部門に経営資源を投じ、多くの実務経験やノウハウを蓄積するほか、専門性の高い外部の弁護士や弁理士への委託も一般的に行われています」
 「他方、スタートアップは、一般的にビジネスモデルの構築や技術開発、資金調達などに優先的にリソースが配分され、法務・知財に充分なリソースを割く余裕がない企業が多く存在します。そのため、経済産業省が公開した標準的なモデル契約書(Ver1.0)とともに、ガイドライン案が策定されることは、そうしたスタートアップにとって有益なものになると期待しています。策定にあたっては、スタートアップ委員会の下に設置されているスタートアップ政策タスクフォースで意見を取りまとめ、提出したところです」

 ーその中でも主張されているかもしれませんが、大企業とスタートアップの双方が協業の恩恵を受けるために、あるべき姿とは。

 「大企業側は、経営層のコミットのもとでスタートアップを協創に向けたパートナーとして位置付け、法務・知財部門を含めて、スタートアップという企業体の特性に応じた柔軟・迅速な対応・判断ができる社内体制を構築することが重要です。他方、スタートアップ側もモデル契約書や今後策定されるガイドラインを活用しながら、法務・知財に関わるリソースを強化していくことが必要になります。こうした取り組みも弾みに、大企業とスタートアップが一層連携を深めることで、より良いスタートアップエコシステムを創り上げることができるのではないでしょうか」