地域で輝く企業

自然の恵みにあらためて感謝 ESG重視の経営目指す横関油脂工業

油脂製品の小ロット生産通じ社会を支える

油脂製品の充填作業

 横関油脂工業(茨城県北茨城市)は、食用、化粧用、工業用の油脂や天然ワックスなどの製造を手がける。小ロットからの生産に対応し、多品種の油脂製品を顧客の要求に応じて生産する技術力に強みを持つ。最近では事業の持続可能な成長を意識してESG(環境・社会・企業統治)を重視する経営方針を打ち出すなど、地域をけん引する企業として存在感を発揮している。

数百種類に及ぶ製品群

 同社は、常磐自動車道の高萩インターチェンジ付近に本社と製造拠点を置く。常磐道の東側の中郷工業団地に食用油を製造する本社工場、西側の南中郷工業団地に非食用を主力とする南中郷工場がある。茨城県に工場進出して2020年でちょうど30年目を迎えた。
 同社のような業態は加工油脂メーカーと呼ばれ、動物由来や植物由来の油を原料として調達し、精製や水素添加による硬化などの加工を施して供給する。製品の約8割は食用だ。日本人が普段口にするラーメンスープやカレールーなどにも同社の油が使われている。
 「業界内の立ち位置としては、大手が手がけないニッチな分野を得意とする」と横関長太郎社長は自社の特徴を説明する。生産する油脂製品は数百種類に及び、小ロットからの生産にも対応。海外から独自に原料調達し、国内では同社でしか製造していないような油脂製品もある。

安全・衛生管理を徹底した製造プラント

 「油の個性を生かす、貴社の専用工場」として、ケミカル製品を中心に受託製造も数多く手がける。顧客の要望に応じて、原料仕込み量360キログラムから製造。2015年に新設した南中郷工場には研究開発室を備え、さらに少量な実験レベルの油脂加工を顧客から請け負う事業も進めている。
 長年蓄積した油脂加工の知見が同社を支えている。動物由来でも植物由来でも、油を精製して不純物を取り除けば、究極的にはトリグリセリド(中性脂肪)と呼ぶ物質になる。一方、実際に製品となる油の風味や色合いはさまざまで、そこには各原料固有の微量成分が関与する。微量成分を制御し、顧客の要望に合った製品を作り分ける技術力が同社の根幹にあり、「香りや色合いなど顧客の要望は本当に多種多様。そうした相談に一生懸命に真面目に応える国内唯一のメーカーではないか」と横関社長は話す。

横関長太郎社長

安全・衛生管理を徹底

 創業は1948年。東京都新宿区西落合の地で、当初は鯨油や豚脂(ラード)などを製造する町工場としてスタートした。同社のラードを気に入った都内のとんかつ屋には、特別に直販するようなこともあったという。顧客へのきめ細かい対応は、当時からの伝統と言えそうだ。
 工場が手狭となり、周辺地域の宅地化も進展した1990年、広い土地を求めて本社工場を北茨城市に移転した。以降は業容を広げ、油脂製品の生産量は移転前の年5000トンから、現在は年1万5000トンまで拡大。従業員数も約5倍の100人規模に増えた。
 2002年には国際的な食品衛生管理基準「HACCP(ハサップ)」を本社工場で取得している。油脂メーカーの同基準の取得は当時珍しく、安全・衛生管理の徹底を早期から取り組むことで顧客の信頼を獲得してきた。

気候変動の脅威を実感

 「油はお前たちがつくっているんじゃない。ラードは豚がつくり、植物油は大豆がつくっているんだ」―。横関社長の父で、創業者の横関銀市郎氏は、従業員に常々こうした言葉をかけていたという。簡単に解釈すれば、自然の恵みに感謝せよという教えだが、横関社長は最近、この言葉の意味をひしひしと実感するという。地球規模の気候変動で原料調達に支障を来すことが増えてきたためだ。
 例えば、メキシコの乾燥地帯に生えるキャンデリラ草から採取される天然ワックスがある。キャンデリラ草は乾燥から身を守るためにワックスを生成するが、エルニーニョ現象で乾燥期間が少なくなると、そのワックスは採取できなくなる。「当社は加工油脂メーカーであり、原料がなければなにもできない」(横関社長)。同社にとって気候変動は目の前に差し迫った脅威として映る。
 こうしたことから、環境保全をはじめ持続可能な社会の構築に寄与するため、事業活動にESGを重視する姿勢を数年前から打ち出している。環境保全の観点からは、本社工場のエネルギー源に天然ガス(LNG)を導入して二酸化炭素(CO2)排出量削減と省エネ化を推進。地球温暖化や海洋プラスチックなど環境問題に配慮した原料調達方針も制定した。
 また、社会貢献として、地元の北茨城市内の保育園や幼稚園への遊具の寄贈、海外の原料調達先地域の学校への教材の寄付などの活動を行っている。そのほか、従業員の健康管理に配慮するなど健康経営にも積極的だ。
 今後の方針について横関社長は、「もっと総合的に、原料調達から製品出荷、消費までを見据え、取り組むべきことを洗い出していきたい」と、ESGへの対応をさらに深化させる計画だ。

【企業情報】
▽所在地=茨城県北茨城市中郷町日棚字宝壺644-49▽社長=横関長太郎氏▽創業=1948年3月▽売上高=約42億円(2019年3月期)