政策特集デジタルが拓くプラントの未来 vol.7

「競争力強化の切り札に」幹部が語る先進技術活用の意義

技術総括・保安審議官の小澤氏

 プラントのデジタル化を通じて、日本の産業競争力をいかに向上させるのかー。産業保安を担う小澤典明技術総括・保安審議官(保安グループ長)、化学産業を所管する製造産業局の上田洋二大臣官房審議官、資源エネルギー庁の南亮資源・燃料部長の三氏が、それぞれの想いを語る。

「安全担保を前提に不断の見直しを」 小澤氏

 日本の石油化学プラントの多くが直面する、設備の高経年化やベテラン従業員の引退といった構造的な問題に対応するには、IoTやAI(人工知能)といった新たな技術の積極活用を促すと同時に、保安規制も柔軟に見直す必要があります。より合理的で高度な設備保全を実現する「スマート保安」は、安全性の確保はもとより、稼働停止に伴う損失や修繕費用の増大を抑制し、産業競争力の強化につながる意義があります。
 経産省としては、プラント内のビッグデータを収集、活用を促すためのドローン運用や防爆区域の見直し、開放検査の周期延長といった新たなルール整備を進めてきましたが、技術進展の度合いやこれら技術の活用ニーズに応じ、さらなる見直しが必要とあれば、安全性の担保を前提に、不断の見直しを進める構えです。
 プラントのデジタル化やデータ活用を進める上で、いわゆる保安4法(消防法、高圧ガス保安法、労働安全衛生法、石油コンビナート等災害防止法)で異なる規制基準が足かせとなるとの声があることも承知しています。もちろん、それぞれの法律に目的があるわけですが、技術や保全手法の変化も踏まえ、この先も合理的なのかどうかは関係省庁と連携しながら考えていきたいと思っています。
 だからこそ、企業の皆さんには現場で直面する課題や技術活用ニーズを、ぜひ率直に伝えて頂きたい。そこで、スマート保安の推進に向けた官民協議会を近く発足し、合理的な制度見直しや官民のビジョン策定、これらに向けた基本方針やアクションプランの検討に着手することにしました。行政の側からお願いすることもありますが、民間の皆さんから技術活用に対する提案があれば、参考にしながら制度づくりに反映させる方針です。
 産業保安を取り巻く環境はめまぐるしく変化していますが、日本の強みは安全第一の意識が企業風土として定着している点にあると考えます。その本質を見失うことなく、一方で時代の潮流に対応した技術や手法を取り入れる姿勢が重要になると感じています。(談)

産業横断的な取り組みに期待 上田氏

大臣官房審議官の上田氏


 化学産業は日本経済を支える基盤産業であるだけに、付加価値の源泉である石油化学コンビナートの安全かつ安定的な操業は極めて大きな意味を持ちます。その化学産業にIoTやAIをはじめとする先進技術の導入によるスマート保安を推進することは、安全性向上はもとより、生産性を高め熾烈な国際競争を勝ち抜く上でも重要と認識しています。
 新たな技術を活用しながら現場の自主保安力を高める原動力のひとつと受け止めているのは、企業や業界の枠を超えた産業横断的な取り組みです。プラントのオペレーションは各社のノウハウの塊である「競争領域」ですが、設備保全や技能伝承といった各社が一様に直面する課題は「協調領域」としてデータ連携や知見の共有が進みやすいと考えています。
 例えば労働安全にかかわる取り組みや最新事例を共有する官民連携の枠組みとして「製造業安全対策官民協議会」が3年ほど前に発足しましたが、こうした議論の場においても、ドローンやAIを活用した高所点検や異常検知の分析の取り組みなどが共有され、個別具体的な取り組みに発展することが期待されます。
 同時に、スマート保安の実現においては、個社の取り組みも非常に重要になってきます。化学企業はプラント配管の保温材下腐食の発生具合の検出プログラムの開発やドローンの活用などを積極的に進めています。また、プラントの設計・建設を行うエンジニアリング企業においても、これまで培ってきたエンジニアリング力を生かしながら、新しい技術を活用した保守・点検の研究開発が行われています。経済産業省としても産業安全の高度化につながる取り組みを支援していきたいと思います。(談)

世界と戦える製油所に 南氏

資源エネルギー庁資源・燃料部長の南氏

 石油需要が減少する日本ですが、世界に目を転じれば需要増に伴って、アジアなどを中心に世界各地で製油所の建設が進んでおり、今後、国際競争の激化が予想されています。一方で、日本の製油所の多くは稼働が50年を超えるものが少なくなく、また海外と比べ定期修理やトラブルなどによる停止期間が長いのが実情です。保守や安全管理の実務を担ってきたベテラン従業員が引退の時期を迎えつつあり、労働力人口の減少に伴う人手不足にも直面しています。製油所では51歳以上の従業員が全体の35%を占めるなど、技能伝承や安全教育をどう実施していくかも喫緊の課題です。
 輸出業での競合がさらに増えることによる国際競争の激化と、国内の構造的な問題ー。双方を克服し、国内製油所の競争力強化の切り札となるのが新たな技術の導入と考えています。プラントにおけるIoTやドローン活用を通じたデジタル実装を促すのはこうした狙いがあります。
 石油コンビナートでは、複数の事業者間での連携を促す取り組みや、世界最先端の精製プロセスの導入や輸出能力の強化などを進めています。こうした取り組みに加え、IoTやドローンなどのデジタル技術を活用することで、日本の製油所の競争力強化へ向けた取り組みを、引き続き業界と連携しながら進めていく方針です。(談)