広がる代替素材開発「海洋生分解性」に挑む
ロードマップ策定 国も後押し
3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進や適正処理の徹底によりプラスチックごみの海洋流出が世界的にも少ないと評価されてきた日本。これに対し世界では、海洋プラスチックごみ問題を背景に、ワンウェイプラスチックの使用削減へ向けた機運が高まっている。こうした社会のニーズに応える環境配慮設計や代替素材の開発は企業にとって新たなイノベーションの原動力となるはずだ。
新たな商品開発
プラスチック製レジ袋の有料化を見据え、ここへきて加速するのが、生分解性機能を持つレジ袋の開発。従来のプラスチックは自然界では分解しないため、適正な処理が行われなければ環境中に残ってしまうが、生分解性プラスチックは微生物の働きで水と二酸化炭素に分解する特性があるため、もし環境中に放出されてしまった場合でも土壌など自然環境下で生分解される。さらに海中で分解する「海洋生分解性」機能を備えていれば、もし海洋に流出しても環境への負荷を低減できる。
凸版印刷と合成繊維製造大手のGSIクレオスが開発したのは生分解性プラスチック製のレジ袋やゴミ袋、カトラリーといったアイテム。コスト面などの課題を克服した上で、将来的にはコンビニエンスストアなどでの採用を見込んでいる。さらに両社は、今回の共同開発で得られた製造技術をさまざまなフィルム製品や成形品に生かし用途拡大を目指すことにしている。
国内トップ企業も乗り出す
レジ袋生産量で国内トップの福助工業(愛媛県四国中央市)にとっては、有料化に伴うプラスチック製レジ袋の需要減は死活問題である。そんな同社が開発したのは、海中で生分解される特性を持つレジ袋。トウモロコシなどを原料にした生分解性の樹脂を素材に使用。レジ袋の出荷基準である8キログラムの荷物を運べる強度を持ち、かつ量産が可能な商品は世界初という。
合成樹脂製品やラミネート製品、食品容器など多彩な資材を展開する同社だが、バイオに関するノウハウは決して十分とはいえなかった。そこで、海洋生分解に詳しい群馬大学の粕谷健一教授の協力の下、研究を進めてきた。福助工業の大野輝幸取締役はこう振り返る。「生分解する魚網を研究していた粕谷先生の知見は、まさに当社が求めていたものでした」。
共同研究は2年あまりで急展開。海洋生分解性に関わる認証機関の中で、最も要求水準が厳格な民間団体「TÜV(テュフ)オーストリア」による認証も申請済み。「30度の海水中で6ヶ月以内に90%以上が生分解されること」との要件はクリアしているという。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で審査スケジュールの遅れが懸念されるものの、認証取得が実現次第、販売を検討する予定だ。
国際規格づくり目指して
こうした研究開発や製品の普及を後押しするため、経済産業省は2019年、海洋生分解性プラスチックの開発や導入普及を促進するためのロードマップを策定。新たな海洋生分解性を持つ樹脂の開発や需要開拓、新たな微生物の発見や海洋生分解性のコントロール機能など革新的な素材の研究開発を後押しする方針を打ち出している。
なかでも海洋生分解性プラスチックに関わる企業関係者がとりわけ大きな期待を寄せるのが、品質や性能を担保し、健全な市場形成につなげることができる日本発の国際規格の策定だ。日本では産業技術総合研究所や日本バイオプラスチック協会が中心となってISO(国際標準化機構)への提案を目指している。
性能を裏付ける評価体制が確立されれば、企業の国際競争力が強化されることとなり、さらなるイノベーションや市場拡大に弾みがつくことが期待される。