最先端プロジェクト支える開発力
中性子・放射光からナノテクまで 関連装置手がける明昌機工
大納言小豆や地酒といった特産品、明智光秀ゆかりの城跡などで知られる兵庫県丹波市。大阪からJR福知山線沿いに北上すると、世界最先端の研究機関や開発現場が求める装置や機器を開発・生産することで、日本の科学技術振興を下支えする企業に出会うことができる。
独自のビジネスモデル
来年で創業80年を迎える明昌機工。国内の研究機関や大手電機メーカー向けに、放射光やレーザー関連機器やナノテクノロジー装置などを供給している。神戸市で船舶無線用機器や電子管部品の製造を始めたことをきっかけに創業し、現在は中性子・放射光・レーザー関連装置や超高真空装置、ナノテクノロジー関連装置、省力化などを目的とした自動機械などを主な事業とする。いずれも設計から製造、ならびにシステム制御に至るまで完全一貫で受注生産できることを強みとしている。
世界的にも注目を集める最先端プロジェクトに本格参画することになったきっかけは、1975年に大阪大学向けにガラスレーザー装置の建設を手がけたことにさかのぼる。以来、同学レーザー科学研究所をはじめ、国公立の研究機関やメーカーの研究開発との連携体制が構築され、実際にこれまで同社が共同開発してきた装置や機器は枚挙にいとまがない。
例えば兵庫県南西部に立地する播磨科学公園都市の基幹施設である大型放射光施設(SPring-8)向けにはビームラインや各種モニターを設計・製作。大阪大学との間では、レーザー核融合研究に使用されている超高強度レーザー「LFEX(エルフェックス)レーザー」の開発にも参画した。
宇宙の成り立ちの解明に挑む最先端設備建設にも携わった。茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)向けには、中性子ビームラインを設計・製作。内部のスーパーミラーは真空で全長35メートルに及ぶ規模である。これら公的、あるいは民間の研究施設向け大型装置の需要増に対応するため、2012年には組み立て工場を従来の3倍に拡張するといった大型投資にも踏み切った。
東日本大震災後には、福島県で使用される放射能汚染計測システムの開発にも参画した。これらの一部はいまなお、中間貯蔵施設において大型車両の放射線量を測定する装置として稼働している。
構想を具現化する力
同社のビジネスモデルの最大の特徴は、産官学の研究機関における初期の構想やアイディアを製品や試作機開発を通じて具現化できることにある。研究機関との初期段階からの共同開発によって独自製品を生み出し、ユーザーニーズに合わせて改良を重ねながら市場を創造できるところにも強みがある。
基礎研究の実用化を下支えしてきた数々の実績は、人的交流のたまものでもある。同社は長年にわたり、大学の研究室や大手企業に技術者を出向、あるいは人材を受け入れてきた。この6月に4代目社長に就任した足立真士社長自身も設計を専門としており、大手電機メーカーへの出向を経て、大阪大学との共同研究に長らく携わってきた経歴の持ち主だ。だからこそ、「開発に着手してから世の中の役に立つのは10年、20年先になることも少なくない。中長期的視点で技術の潮流を見越した開発が大切」と語る。
さらなる成長の糧求めて
そんな同社が近年、力を入れるのが、兵庫県立大学の高度産業科学技術研究所と共同開発した「ナノインプリント装置」。ナノインプリントとは、電子線などで描画した微細な型を基板上に転写する技術で、半導体集積回路で扱われる線幅30ナノ(ナノは10億分の1)-50ナノレベルを実現する。自動車の電動化への応用など、新しいパワーデバイスの開発にも、この技術が応用される。
こうした技術開発を支える生産現場では、各種工作機械を駆使して1000分の1ミリメートル単位の加工精度を実現。いずれも綿密な性能試験や品質チェックを経て製品化に至る。これら工程で得られたデータは大切な財産である。開発部隊にフィードバックし、潜在的な技術課題を掘り起こすとともに、技術革新のヒントを見いだす。医療や宇宙分野といった成長産業に関連した装置開発にも取り組んでいる。技術先行による市場開発や製品開発を強みとしつつ、さらなる生産性向上も進める構えだ。
「日本の科学技術の発展のために働き、新しいことにチャレンジし、そして喜びを分かち合える人材が集まる会社を目指す」と経営の舵取りにあたり抱負を語る足立社長。日本がこれからも科学技術立国を堅持できるか否かは、同社のような企業の活力によるところが大きい。
【企業概要】
▽所在地=兵庫県丹波市氷上町沼148▽社長=足立真士氏▽設立=1952年▽売上高=13億円(2019年3月期)