米ボーイングも注目 夢の技術「超電導」
航空機の電動化に挑む開発者たち【前編】
自動車と同様、航空機も二酸化炭素(CO2)削減の流れとは無縁ではない。燃料を燃やして推力を得るジェットエンジンの世界市場は年間約135兆円で、うち6分の1ずつを北米と欧州が占める。CO2削減のため燃費を向上させるには、航空機エンジンに風を送り込むファンの直径を大きくすることが有効だが、大型化によって重くなれば逆に燃費は下がってしまう。
一方、航空機の需要は今後右肩上がりと予想され、日本航空機開発協会(JADC)によると、航空旅客機の需要はアジアを中心に堅調に伸長し、2037年までに現在の2.4倍に増える見通しだ。国際民間航空機関(ICAO)では航空機から排出されるCO2を削減しながら成長を目指す施策を打ち出しており、2050年にはCO2排出量を2005年比半減という野心的な目標を掲げている。
ジェットエンジンをモーターに
このジェットエンジンを電気で動くモーターに置き換える、いわゆる「航空機の電動化」が米国を中心に世界中で検討されている。例えば米航空宇宙局(NASA)が提唱する軽飛行機程度の大きさの電動航空機はジェットエンジンの5倍の効率が得られるという。
これまでの航空機用ターボファンエンジンは、ガスタービンでファンを回し推進力を得ていた。ガスタービンではなく、小型モーターでファンを回す推進装置を機体に分散配置した「電動推進系」が実現すれば、推進効率が大幅に向上する。二つの大きなファンを回すよりも多くの小型モーターでファンを回し、広い範囲で機体上部の気流を速くする方が、機体を上空に押し上げる揚力を効率良く生み出せるというわけだ。
こうした中、米ボーイングも着目する夢の技術がある。超電導技術を電動推進系に用いることで、軽量で高効率の電力推進システムを実現する動きである。
効率と軽量化どう両立
電動化航空機は燃料を燃やして発電機で発電し、ケーブルを経由して電力をモーターに送りファンを回して航空機の推力とするのが主な方法とされている。だがここで大きな問題が発生する。九州大学大学院システム情報科学研究院の岩熊成卓(まさたか)教授は「従来の鉄心と銅線で構成した発電機とモータを利用した電気推進システムを積むと現行エンジンの7倍の重量になると計算されている。CO2削減のための電動化であるが、機体が重くなって燃費が悪くなっては意味がない」と指摘する。
モーターを例にとると、電磁気学の法則からモーターの推力は磁場や電流、装置の体格などに比例することが分かっている。モーターの重要部品となるのがコイルだ。モーターは鉄心に銅製のコイルを巻き付けた回転子と固定子を持っている。内部に鉄心を入れるのは、コイルに電流を流した時にコイル付近に発生する磁場を強めるためだ。モーターは銅製のコイルに電流を流すことで磁場が発生。銅線を巻いて作ったコイルだけでは発生する磁場が弱いため、コイルの中心に鉄心を差し込む必要がある。鉄は「強磁性体」と呼ばれ、周囲の磁場を強める働きがある。
重くなってはダメだ
超電導技術を利用し航空機の電動化を目指す産業技術総合研究所エネルギー・環境領域省エネルギー研究部門の和泉輝郎主任研究員は「航空機を大型化し鉄心を使って磁場を強めようとすると推進系は現在の10倍以上に重くなる。これではダメだ」と指摘する。
航空機の電動化を阻むこうした問題の解決に貢献すると期待されているのが超電導技術だ。超電導状態にすることでコイルの電気抵抗がゼロとなる。「多くの電流を流せるため、コイルだけで大きな磁界を発生させることができ、結果的に大きな出力密度が得られる。同じ出力であればモーターの小型化も可能だ」(岩熊教授)とメリットを挙げる。
果たしてこうした原理をどう実現するのか-。研究者らの挑戦が始まった。
※ 後編に続く。