政策特集空の移動革命がもたらす未来 vol.3

移動が変わる、霞が関も変わる

空飛ぶクルマプロジェクトチーム座談会【後編】


 「空飛ぶクルマ」プロジェクトを通じてそれぞれが描く未来-。話題は社会のありようのみならず、これからの施策のあり方にも及んだ。

いかに使ってもらえるか

 製造産業局総務課課長補佐 牛嶋裕之氏(以下、牛嶋)
 大きな潜在需要を秘めた空飛ぶクルマにおいて、日本はどこに技術優位性を見いだせるかといった議論は意味がないと感じています。機体を作って売るだけがビジネスではなない。どんなサービスを通じていかに世の中に使ってもらえるかに目を向けるべきだと思います。

 製造産業局航空機武器宇宙産業課係長(※当時) 高橋拓磨氏(以下、高橋)
 僕らにとっても空飛ぶクルマ開発競争に勝つことだけがミッションではありません。制度整備を通じて、「空の移動の大衆化」をどう実現するかという視点も重要になります。

 牛嶋 いち早く機体を開発する、あるいはサービスインする、社会に実装する-。これに尽きるんですよ。日本としての強みは何だろうなどと考えている前に動くべきだと思いますね。

自治体との協力カギ

 製造産業局総務課 係長 庄野嘉恒氏(以下、庄野)
 カギを握るのは、自治体との協力だと思います。実証実験のフィールドとしてすでに名乗りを上げている自治体は複数ありますが、渋滞問題の解決や離島や山間地域での新たな移動手段の確保など、目的はさまざまです。地域課題を踏まえ実証を重ねることでユースケースが明確になってくると期待します。

海老原氏(右)と牛嶋氏

 牛嶋 とりわけ福島県にあるロボットやドローンの研究開発拠点「福島ロボットテストフィルード」には空飛ぶクルマの試験飛行にも必要な設備が揃っています。また、上部と周囲がネットで覆われた飛行場は航空法適用外です。こうした場をぜひ、活用して頂きたいですね。

政策手法も変わっていく

 製造産業局航空機武器宇宙産業課課長補佐(総括) 海老原史明氏(以下、海老原)
 空飛ぶクルマは政策立案手法においてもひとつのテストケースだと思うんですよ。外部の専門的な知見を積極的に取り入れることは僕たちがチャレンジする新しい政策立案手法です。この3月から4月にかけて、副業・兼業限定の「週一官僚」としてプロジェクトメンバーを新たに公募したところ1300名を越える応募がありました。

 庄野 僕も空飛ぶクルマプロジェクトは他の政策に生かせる部分は大きいと感じています。

 海老原 そうだよね。世の中の変化に合わせて政策立案手法もどんどん変わっていくべきだし、そのためには社会との双方向の対話が重要になります。僕らには行政経験しかないが、さまざまな分野の専門家は霞が関の外にいる。空飛ぶクルマに象徴される未来社会に影響を与えうるテーマに関心を持っている方も多い。だからこそ転職まではいかなくとも週1回でもその専門性を生かしてもらえないだろうかと新たなメンバーを公募したのです。

 高橋 空飛ぶクルマプロジェクトにおける国交省との連携では、ドローンの政策を経産省と国土交通省が連携して進めてきた経験も活きました。

庄野氏(左)と高橋氏

 海老原 加えて、僕らのチームは組織の枠を越えて関係省庁が協力しやすいよう留意したこともあったよね。若手中心だかこその面もありますが。

 庄野 他省に対する認識って年代によって異なるのかなと感じることがあります。僕ら世代は、他省に攻め込むというよりも、日本を良くするために霞が関でともに汗を流すという意識が強いです。民間との対話の機会が広がり、さまざまな背景を持つ人と未来について議論を重ねることを通じて、霞が関そのものも変わっていくのではないでしょうか。