政策特集空の移動革命がもたらす未来 vol.4

新たな移動手段を確保せよ 動き出す自治体

地域課題解決の一助に

経産省が作成した未来社会のイメージ


 「さあ、空を走ろう」ー。経済産業省が制作した動画ではこんなキャッチコーピーとともに、未来社会のある日常が描き出される。過疎地に1人暮らしの祖父を訪ねた少年。滞在中に体調を崩すも、祖父は「空飛ぶクルマ」を難なく手配し、孫を都市部の病院へ無事搬送し事なきを得る。

「空を走る」時代に

 「eVTOL」と呼ばれる電動垂直離着陸機や小型無人機「ドローン」をはじめとするといった次世代モビリティーには自治体も大きな期待を寄せている。地域課題の解決や経済活性化、観光振興が見込めるからだ。例えば、都市部では交通渋滞を避けた通勤や通学への活用、離島や山間部では前述の動画が描き出すような身近で手軽な移動手段、このほか物流や災害時などの救急搬送など大きな役割を果たすと考えられている。

都市交通の未来切り拓く

 2019年度から「空飛ぶクルマ」の試験飛行が始まる見通しだが、多くの自治体がその誘致に向けて動いている。
 「新たな構想が都市交通の未来を切り拓くことを楽しみにしている」。2018年夏、東京都の小池百合子知事は米配車サービス大手、ウーバー・テクノロジーズが開催した「空飛ぶタクシー構想」の説明会でこう述べた。革新的な技術に対する感度が高く、グローバル経営者との交流も広い小池知事だが、次世代モビリティーに対する都の本気度は開発企業に対する支援規模からもうかがえる。
 国内初のeVTOLの開発を手がけるSkyDriveは、都から最大3年3カ月、5億円の補助を受けることが決まった。同社は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年のデモフライトを目標とする有志団体CARTIVATOR(カーティベーター)のメンバーを中心に設立された企業。SkyDrive代表取締役でCARTIVATOR共同代表の福澤知浩さんは「多く外国人が訪れ、ますます人口も集中する東京都で災害時・観光・移動手段などのユースで活用されることを目指しています」とコメントしている。都政策企画局では「『空飛ぶクルマ』が社会実装されれば、高齢者の移動手段はもとより、都市部の移動時間の短縮にもつながる」と早期の実現に期待を寄せる。
 一方、大阪府では夢洲や舞洲などでの実証実験が予定されていることに加え、地元の中小企業が技術を持ち寄り、「空飛ぶクルマ」を開発するプロジェクトもこのほど始動した。開発するのは、6つのプロペラで飛行する1人乗りの機体で、1時間程度の連続飛行を想定。2025年の大阪万博でのデモ飛行を目指している。

関西の中小起業が開発する「ハイドローン」のイメージ。水素(ハイドロゲン)とドローンを合わせ命名


 離島や山間部を結ぶ社会インフラとして期待を寄せるのは三重県。2019年度は国内のベンチャー企業や物流事業者などの民間事業者による実証実験を誘致するとともに、導入効果調査を実施する計画だ。こうした取り組みを通じて、離島や山間部を有する地域を中心とする交通の改善や観光振興、災害対策などにつなげる狙いだ。
 行政分野での「ドローン」利活用を進める兵庫県。これまでに約30機を所有し、操縦可能な職員が災害現場や工事実施後の調査などに用いてきた。2019年度からは神戸市とも連携し、全庁あげて積極利用し、多様な分野・業務の効率化や行政サービスの向上を目指す。

空の環境整備も

 ドローンをはじめとする、新たなモビリティーが空を頻繁に飛び交うー。そんな時代を見据えたインフラ整備も進む。
 今年2月末。「福島ロボットテストフィールド」(福島県)および周辺で行われた実証実験。900メートル×600メートルの空域に複数事業者のドローン10機を同時に飛ばし、衝突することなく安全に飛行するための運航管理が実施された。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)がNECやNTTデータ、日立製作所など8つの企業や団体と開発したもので、今後、プロジェクトに参画していない事業者も運航試験を同フィールドで実証できるようシステムのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を公開する計画だ。

福島ロボットテストフィールドで行われた飛行試験


 社会の旺盛な需要に伴い、開発が急ピッチで進む「空飛ぶクルマ」。これまで航空機や空港に限定されていた「空」関連ビジネスが日常に広がることで、新たな需要を喚起し、産業創出につながる可能性を秘めている。安全基準や運航ルールづくりといった制度整備も技術革新や社会の変化に応じて進めていく必要がある。