
【神奈川発】「もの造りのお手伝い」に徹し、販売先の信頼勝ち得る
神奈川県横浜市 株式会社旭商工社
旭商工社は産業機械や工具を扱う専門商社。横浜の中心部に本社を構え、70年以上、「もの造りのお手伝い」に徹してきた。Eコマースが拡大し、世界中から必要なものを何でも取り寄せられる時代。あふれる情報を吟味して、フェイス・トゥ・フェイスの手厚いサポートによって販売先の信頼を勝ち得てきた。単に製品を供給するだけでなく、取引先に対するアドバイスやコンサルティングなどを通したテクニカル・ソリューション・サプライヤーを目指すことで、「地域で輝く企業」としての存在感を高めている。
戦後間もない1951年、6人の仲間と創業し、日産自動車に工具を納めるビジネスを始めた。やがて、高度経済成長の波に乗り、電機、機械、鉄鋼、そして造船など幅広くもの造りを支えてきた。1960年代半ばからは油圧機器を扱うようになり、ビジネスの重点は工具から、より大がかりな設備に移っていった。社名の由来を尋ねると、「実は正確なことがわかっていなくて、『あ』から始まることで、電話帳などで最初の方に表示されるから、『旭』がいいだろうという説が有力です」と野村満輝社長(50)は笑う。
コロナ禍の落ち込みから完全に回復

JR横浜駅から徒歩十数分で本社に。1階には扱っている商品を紹介するショールームがある
その後、国内外に拠点を増やし、現在国内で20拠点、海外は中国、メキシコ、タイで計12拠点を展開する。特殊なモーターを使った溶接用ロボットなど最先端の機器を扱うケースも増えた。国内外の2000社以上から製品を仕入れ、国内を中心に1000社以上に販売。2024年度の売り上げは約204億円と対前年度比3%の伸びを記録し、「コロナ禍の落ち込みから回復することができました」と野村社長は業績を振り返る。

「お客様の課題を間に入って解決するのが私たち商社の役目」と話す野村社長
「ソリューション提案のニーズは残る」
商品を左から右へ流すだけなら、商社に存在理由はないという。実際、景気が落ち込むたび、流通過程を複雑にし、コスト増にもつながりかねない商社の「不要論」がささやかれてきた。「それでも、業界のさまざまな事例を知っている商社には、メーカーに代わって新商品を紹介したり、もの造りの効率的な仕様を考えたりしてソリューションを提案するニーズは残るはず」と野村社長は話す。

指先ほどの大きさの工具から、大規模な製造設備まで幅広く扱う
三つの「S」を大切にしながら活路見いだす
そのために三つの「S」を大切にしているという。一つ目が「Solution supplier(ソリューション・サプライヤー)」。メーカーに対して最適な機械・工具の組み合わせやラインの改造など専門的なアドバイスを行う。二つ目が「Closer service(クローサー・サービス)」。取引先とのフェイス・トゥ・フェイスの関係を強みとし、できるだけ現場に近い位置でサービスを提供する。そして三つ目が「Strategic partner(ストラテジック・パートナー)」。取引先が業務拡大をする際になくてはならない存在として伴走すること。「これらの三つの『S』を融合し、テクニカル・ソリューション・サプライヤーを目指すことで、専門商社としての活路を見いだしていきたいと思っています」

経産省による「地域未来牽引企業」の認定証など、これまでの取り組みを紹介
人材が躍進する業績のカギを握る
その核となるのが人材だという。「我が社と取引先の間に立ってコーディネートする人材の優劣で企業としての差が出てくる」と野村社長。損得勘定抜きで、誠実な人間として取引先から認められることが中長期的なビジネスでは重要となるという。そのために社員を手厚く扱う。育児時短勤務制度は子供が小学3年生まで最長9年間利用でき、産休の取得率も100%を記録。さらに5年ごとに全社員を対象にした海外旅行を実施しており、参加率は8割になる。

知名度向上も兼ね、自動車レースのスポンサーも
社員研修にも力を入れている。新入社員研修では、社会人としての必要なマナーから扱っている商品の知識まで、1か月をかけてじっくりと学ぶ。入社してからも入社年別の研修や中堅の入門研修があり、技術勉強会も頻繁に行われる。社内の教育カリキュラムも100以上あり、会社が費用を負担する。「業界の激しい変化の波に対応するためには、こちら側が先手を打って知識や技術を習得しておく必要があるからです」

「人材の多様性がこれからの経営のカギ」と話し、社員の中に進んで入っていく野村社長(右から2番目)
社員の多様性を重んじた経営目指す
野村社長がこれからの経営で、とりわけ大切にしたいと思っているのがダイバーシティーだ。「きれいごとではなく、実際に必要」。複雑な社会やニーズに対応し、社員が力を発揮するため、人材の多様性は欠かせない要素だという。例えば、営業スタッフ。現在、日本人男性が9割近くを占めるが、外国人や女性を積極的に採用し、いずれその割合を半々にしたいという。採用にも力を入れ、ホームページには自社専用の採用サイトを開設。若い人に関心を持ってもらおうと、マンガで旭商工社の仕事を紹介したり、地元のFMヨコハマで企業CMを流したり、「まず、旭商工社を知ってもらう」ための地道な努力を重ねている。

ショールームには取り扱い商品を使ったクレーンゲーム機で遊べるコーナーも
就職氷河期世代ならではの想いも採用に込める
野村社長自身、大学卒業後、ワーキングホリデービザで1年間、ニュージーランドに滞在して第2新卒として旭商工社に就職。就職氷河期の世代で、なかなか内定を得られず、メンタル的にかなり落ち込んだこともあったという。しかし、取引先を開拓し、地域社会に溶け込んでいく中で、ビジネスパーソンというより、人間として鍛えられた。「そんな経験をこれから入社して来る若い人たちにもしてもらいたい」

ショールームには扱っている商品の紹介に加え、実物も展示されている
自らが社長の任にあるうちに現在約200億円の売り上げを500億円にし、社員数も500人まで増やしたいという。中国中心だった海外展開も東南アジアや北米へ広げていくことも検討している。「専門商社としての業態を極め、小規模なメーカーや新しくて興味深い製品の発掘にも注力していきたい」と野村社長は話す。日本のもの造りのために役に立ちたい――。その強く熱い想いが、商社という枠を超えた企業として、旭商工社を地域で輝かせている。
【企業情報】▽公式企業サイト=https://www.kkamic.co.jp/▽代表者=野村満輝社長▽社員数360人(グループ全体、2025年3月末現在)▽資本金4億8500万円▽設立=1951年11月9日