
「ウーマンズ パビリオン」で「意識スイッチ」をONに。カルティエが万博で世界に伝えたい事とは
フランスの高級宝飾品ブランド「カルティエ」は大阪・関西万博に内閣府、経済産業省、博覧会協会と共同で「ウーマンズ パビリオンin collaboration with Cartier」を出展する。コンセプトは「ともに生き、ともに輝く未来へ」。ジェンダー平等や女性のエンパワーメントをテーマに、パビリオンから様々な情報発信を展開する。
カルティエは万博を通じて世界に何を伝えたいのか――。カルティエ ジャパンのプレジデント&CEO宮地純さんに話を聞いた。
「ともに生き、ともに輝く未来へ」―。ドバイ万博に続き出展
――今回のパビリオンのテーマ「ともに生き、ともに輝く未来へ」に、どのような思いが込められているのですか。
私たちが、2020年ドバイ万博に初めて「ウーマンズ パビリオン」を出展した際のタグラインは、「When women thrive , humanity thrives」でした。女性活躍というテーマは、女性だけでなく、ジェンダー、年齢、国籍などを超えた、皆で考えるテーマだと思っています。そのため、「ともに」という言葉は絶対に入れたいと思っていました。より生きやすい、より豊かな社会をつくっていくことは、社会を構成する全員で取り組むことだという思いが込められています。
今回の万博には、ユニバーサルなテーマが掲げられています。そして、ユニバーサルでありつつ、一人ひとりの見解や理解、意識、置かれている状況が違うものばかりです。私たちがパビリオンを通じて達成したいのは、まずは一人ひとり来場者に、この大きくて難しいテーマを、心で感じてもらうということです。そこから、それぞれが考え、具体的なアクションを起こしていくきっかけになればと思っています。

宮地純(みやち・じゅん) カルティエジャパン プレジデント&CEO。京都大学法学部卒業後、外資系証券会社に入社。INSEADにてMBAを取得後、ラグジュアリー業界でのキャリアをスタート。2017年リシュモン ジャパン株式会社(現:合同会社)に入社し、カルティエ ジャパン マーケティング&コミュニケーション本部長に就任。2020年8月より現職
女性活躍=「より良い社会」をどうつくっていくか
――ドバイ万博に続いて、大阪・関西万博にも「ウーマンズ パビリオン」を出展するに至った理由とは、どのようなものでしょうか。
ドバイ万博の「ウーマンズ パビリオン」は非常に大きな反響をいただきました。私自身、ドバイで、女性活躍の問題は、「より良い社会」をどうつくっていくかという更に大きなテーマの中にあると実感しました。
それまで私自身、女性活躍の問題について今ひとつ意識していませんでした。それがドバイでの体験を通して、「意識スイッチ」が入りました。「意識スイッチ」は1度オンになると、オフになることはありません。常に気になり、自分で調べ、「日本ではどうなっているんだろう」といった問題意識につながっていきます。より多くの人の「意識スイッチ」をオンにすることには、大きな意義があると思ってます。
カルティエは、「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」という女性起業家プログラムを2006年から続けています。また、「カルティエ フィランソロピー」では、主に発展途上国における女性や子どもの教育、医療支援も行っています。
1933年、カルティエの初代クリエイティブディレクターに就任したのが女性だったこともあり、男女を問わずインディペンデンス(自主独立)の重要性を、とても大事にしてきました。そういった土壌から、「ウーマンズ パビリオン」出展を含め、様々な活動が育まれてきたのだと思います。
ジェンダーギャップ解消に必要なスピード感
――日本における女性活躍の現状について、どう見ていますか。
ジェンダーというテーマがメディアなどで多く取り上げられるようになったのは、ここ最近ではないでしょうか。様々な意見があるのだと思います。ジェンダーギャップ指数が全世界で100位にも届かない状況ですが、日本が何もしていないわけではありません。ただ、改善と加速の余地は大いにあります。他の国々もこの問題に取り組んでおり、共通の課題や解決策を交換することで学ぶことは多いと思います。
取り組みを加速していくためには、三つの視点があると思っています。一つは広くオーディエンスの意識を変えていくこと。二つ目は意思決定に携わる層のコミットメントをとっていくこと。最後にそれを担保していく制度、環境の整備です。この後押しはいずれ必要なくなることが理想だと考えています。
万博は世界各国からセクターを超えて人々が集まる場です。世界の英知を集めて、話し合い、解決策を求めていくことができます。万博をテコにして、日本が世界から吸収できることはたくさんあると思いますし、世界における日本の存在感を発信することもできます。私たちもウーマンズ パビリオン館として、官民の垣根を超えて難しいテーマに挑戦していくことの意義を、世界に発信していきたいと思います。

カルティエが大阪・関西万博に出展する「ウーマンズ パビリオンin collaboration with Cartier」 ©Cartier
ドバイ万博・日本館の資材を再利用。「つかう責任」も体現
――「ウーマンズ パビリオン」はドバイ万博・日本館の資材を再利用するとうかがいました。
ドバイ万博の日本館を設計された永山祐子さんは、設計当初からサーキュラリティ(循環性)やサステナビリティ(持続可能性)を強く意識されていました。資材の再利用は万博の歴史においても画期的な試みです。
永山さんが設計された日本館は、多くの組子パーツに分かれ、それぞれが違う形をしています。全てのパーツをデータ管理し、解体し、ドバイから日本に輸送し、保管したうえで再び組み立てるわけです。多くの関係者のサポートがあって今回実現しました。
「ウーマンズ パビリオン」において、持続的開発目標(SDGs)の17の目標のうち、NO5の「ジェンダー平等の実現」に加えて、資材を再利用することで、NO12「つくる責任、つかう責任」にも取り組むことができたのは、非常にうれしいことです。
多彩なセッションを展開。「感じて、考えて、一歩踏み出して」
――展示の見所を教えてください。
「グローバル アーティスティクリード」を務めるエズ・デヴリンさんは、ドバイ万博の英国館を女性アーティストとして初めて手掛けた方です。舞台演出をされていることもあり、大きく漠然としたテーマを、一個人に落とし込んだ時にどう感じ取ってもらえるか、考えに考え展示内容をつくっていただきました。
一例を言えば、来場の際、来場者の下の名前をお預かりするという演出があります。一人ひとりに感じて、考えて、一歩踏み出して欲しいと言う思いを込めた仕掛けが用意されています。
――「WA」という多目的スペースが設けられるそうですね。どのように活用されるのですか。
「大いなる地球」「ビジネスとテクノロジー」「教育と政策」「芸術と文化」「フィランソロピー」「役割とアイデンティティ」の六つのテーマの様々なパネルディスカッションを展開します。万博開催期間中、既に150以上のセッションの開催が決定しています。各国パビリオンやNPO、教育団体など、様々な国やセクターと一緒に企画しており、世界中から素晴らしいスピーカーの方々が参加されます。是非多くの方に聞いていただきたいですね。

ウーマンズ パビリオン内に設置される多目的スペース「WA」
熱い思い、挑戦…「多くの人にパッションを感じて欲しい」
――もうすぐ開幕です。最後に開幕にむけた意気込みをお願いします。
公式参加国や民間パビリオンなどの方々と話すと、みなさん熱い思いを持ち、様々なチャレンジをされていることが、ひしひしと伝わってきます。既に私はすっかり万博のファンになっています。
是非多くの人に夢洲でそのパッションを感じていただきたいと思います。