地域で輝く企業

【愛媛発】食生活を潤すエキス開発、圧倒的な研究開発力で市場拡大を目指す

愛媛県大洲市 仙味エキス株式会社

古い街並みや文化財が数多く残り、「伊予の小京都」にも例えられる愛媛県大洲市。蛇行する肱川沿いに大洲城がそびえ、城下町らしい落ち着いたたたずまいが国内外から多くの観光客を引きつける。その山懐に本社を構えるのが仙味エキスだ。エキスとは魚介類や畜産類などから風味などに関わる成分を抽出したもので、かまぼこやハム、そしてカップ麺など様々な食品に使われている。創業当初から「医食同源」という想いを大切にしながら研究開発に力を入れ、天然調味料に加えて機能性食品の製造も手がける。国際的な和食ブームの今、本格的な海外進出も視野に入れ、今春、最新機器を備えた工場も新設。圧倒的な研究開発力で独自の存在感を示し、地域での輝きを増し続けている。

大半が業務用だが、一般消費者向けの商品も徐々に増えてきている

酵素を利用して味や香りの成分を抽出

ところでエキスとは何か? だしと似ているが抽出方法が違うらしい。だしは鰹節や昆布などを熱水で抽出した煮汁だが、エキスとは酵素やアルコールなどを用いて素材から原料特有の味や香りをより強く抽出したものをいう。仙味エキスでは酵素分解技術を利用して様々な原料素材のエキスを取り揃えており、味の深みや厚みをより出すことを大切にした生産を心掛けているという。

工場の右側にトンネルがあり、それを抜けると八幡浜市になる

エキスがないと、料理が作れないというわけではない。しかし、エキスがないと素材のおいしさが引き立たず、スーパーやコンビニエンスストアで売られている惣菜などは文字通り「味気なく」なってしまうという。しかも、天然素材を使っているので体にも優しい。種類も実に様々。タイやハモなどの魚系やカニなどの甲殻類系、ホタテなどの貝系、そしてポークやビーフといった畜産系など、扱っている商品数は300種類に及ぶ。その大半を業務用として食品メーカーなどに販売しているが、近年は濃縮だしや鍋つゆのような一般消費者向けの商品も販売している。

食糧難の時代、消費者の健康を考えて商品開発

整然と並んだステンレスタンクで、様々な種類のエキスが作られていく

そうしたエキスの可能性に注目したのが、筬島(おさじま)克裕社長(71)の父親で創業者の筬島一治氏だ。終戦直後の食糧難の時代、九州大学で「ペプチド」というタンパク質を分解してアミノ酸へ移行する中間の状態を研究。具体的には魚体を液化する技術だという。「タンパク質を分解した状態であれば、体力の弱い高齢者や子供でも栄養を容易に摂ることができると考えたようです」と、筬島社長の長男の筬島秀幸専務取締役(40)が教えてくれた。当時、近くの浜で魚が大量に水揚げされ、市場に出ずに捨てられるものもあった。それらを有効活用できないかとも創業者らは思ったらしい。

「研究開発が我が社のアイデンティティ」と話す筬島専務(左)

「研究開発」のDNAを代々引き継ぐ

そして、その工業化に成功し、1976年に大洲市に隣接する八幡浜市に仙味エキスの前進となる「四国エキス産業」を創業。当初から「研究開発型」の企業だったわけだ。それを引き継ぐ形で、筬島社長も九州大学から大学院に進学して食品工学を研究。筬島専務も早稲田大学で化学を学び、やはり九州大学大学院で修士号を修めている。これまでも九州大学や愛媛大学、そして水産大学校などとの共同研究も行っている。「やはり先進的な技術を商品開発に反映させていこうという強い想いがあるんです」と筬島専務は話す。

エキスに付加価値を付けるため研究に力を入れ、「ドクター」のスタッフも複数いる

さて、沿革。1977年に新工場が大洲市に完成し1978年に本社も移転した。もっとも、当時は化学調味料全盛の時代。エキスはまったく見向きもされなかったという。そこで全国のかまぼこメーカーを一軒一軒回って地道な営業を重ね、天然素材を使った「本物志向」のエキスの魅力が徐々に理解されるようになっていったという。1981年には天然原料を活かした「仙人の味」「仙境の味」を追究するという理想を掲げ、社名も「仙味エキス」に変更した。

新工場も完成し、新たな飛躍のきっかけに

今年3月に完成した新工場。工場内の温度管理などにも最新の設備を使っている

企業の方針も「自然の恵みを通じて、おいしさと健康を追求し、すべての人々の幸せづくりに貢献する」とした。筬島専務によると、この企業方針の下、製品作りで大切にしているのが「安全」「美味しさ」「健康」の3点。「安全」は食品衛生管理の国際基準であるFSSC22000 と対米HACCPの認証を受けている。今年3月には製造工程の流れを一望できる工場も完成し、より細部まで衛生管理を徹底することができるようになった。「美味しさ」は自然な風味を引き出し、天然の濃縮エキス特有のコクの深さと複合的なうま味を感じられるように仕上げることに最優先で注力する。そして「健康」。1980年代半ばから、機能性食品の研究を手がけ、血圧上昇を抑制する機能のあるイワシペプチドを開発し、素材として製薬会社、健康食品メーカーなどに供給している。1999年にはトクホ(特定保健用食品)の表示許可も取得。2009年には四国の産業技術に発展のあった企業を表彰する四国産業技術大賞を受賞している。

新工場内ではエキスの製造工程が一望できるようにレイアウトを工夫した

「地域社会への感謝を忘れない」と筬島社長が話すように、地元の図書館に子供向けの図書を寄贈したり、フードバンクに製品を提供したり、社会貢献にも取り組む。豊かな海産物をもたらしてくれる瀬戸内の風土を地元の企業として大切にしていきたいという想いがあるからだ。「新工場ができて、製造工程が一望できるようになったので、学校からの社会見学なども積極的に受け入れていきたい」と筬島専務も話す。

地元農家らとクラフトコーラを商品化

今年7月に発売を始めた「大洲くらふとコーラぞぶる」。「ぞぶる」とは大洲の方言で「水に浸かってじゃばじゃばと遊ぶ」こと。

そしてこれから、売り上げを今後10年ほどで倍増させるという長期ビジョンを描いており、そのために視野に入れるのが海外展開。海外での和食ブームもあって、食材の風味を手軽に調えられるエキスのニーズは高まるとみているからだ。これまでの研究開発のノウハウを活かして健康分野にも一層力を入れていくという。そして、ブランディングの一環として、スーパーやドラッグストアなどで一般消費者が買うことのできる最終製品の開発にも力を入れたいという。今年夏には地元の農業団体と協力して、クラフトコーラ「ぞぶる」を発売。市場に流通しない摘果品・規格外品の柑橘類やショウガ、そして原木シイタケなど7種類の地元農産物を使い、仙味エキスの抽出技術なども応用しながら3年かけて開発した。「ビジネスがB to Bなので、地元で何をやっている会社なのかあまり知られていなかった」と筬島専務。フードロス削減にも役立つアップサイクル飲料としてクラフトコーラを地域の人たちと完成にこぎつけた。「こうした商品を通して自社製品や活動のアピールにも力を入れていきたい」。あと1年後の2026年は創業50周年の節目の年。これからも「地域で輝く」ために技術革新を核にした仙味エキスの挑戦は続きそうだ。

肱川から眺めた大洲城は、大洲の街を象徴する

大洲城を近くから。2004年に天守が復元された

【企業情報】▽公式企業サイト=https://www.senmiekisu.co.jp/▽代表者=筬島克裕社長▽社員数184人(2023年10月現在)▽資本金9000万円▽創業=1976年