日本の航空機技術を国際標準に!安全性のルールづくりで主導権目指す
日本の航空機産業がサプライヤーから脱却し、成長するうえで政府が技術開発とともに重視しているのが、認証能力の向上だ。将来の航空機開発に向け、設計・認証プロセスの変革や脱炭素化が進む中、認証能力の底上げ、「軽量化・効率化」、「電動化」や「水素」などの新技術に関する国際的な安全基準づくりへの理解と積極的な関与がカギを握る。
経済産業省と国土交通省は2022年6月、「航空機の脱炭素化に向けた新技術官民協議会」を設置。新技術の安全性に関する国際標準の策定プロセスに、積極的にかかわろうとしている。
MSJの教訓、安全認証は必要不可欠
なぜ標準化なのか――。背景には、三菱重工業が進めた国産小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」事業の中止がある。
MSJは飛行試験までは進んだが、開発に時間を要し、並行して行われる機体の安全性を示す「型式証明(TC)」の取得や初号機の納入にいたる前に、結果的に中止となった。事業環境の変化などとともに、開発時の認証プロセスへの理解・経験不足も一因だった。経済産業省航空機武器産業課・呉村益生課長は「安全性の証明には、飛行機のものづくりとは別の能力、別のチームが必要だ」と指摘する。
経済産業省と国土交通省が設立した官民協議会には、機体/装備品関連メーカー、航空会社、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが参加。「電動化」「水素」「軽量化・効率化」の3つのワーキンググループを設置して活動をしている。2023年3月には、日本企業が開発する脱炭素の新技術を、産官学で戦略的に国際標準化等に取り込んでいくための国内連携体制の構築や、必要な制度の整備などについてまとめたロードマップを策定した。さらに、2025年度中には国内の産官学が連携する場として国内協議団体を設立する計画だ。
国土交通省航空局は航空機や装備品の安全認証を担当するとともに、国際民間航空機関(ICAO)、欧米の航空当局などとの調整を行う立場だ。航空機安全課の千葉英樹課長は「次世代航空機に欠かせない新技術のルールづくりを日本企業がより深く理解し、更には主導できれば、ビジネス上も優位性が高まります。航空機は開発期間が長く、また安全審査は航空機の開発後ではなく、材料や部品のレベルから開発の進捗と同時に進行していきます。ルール検討時から議論に入り、安全基準や関連規格をいかに日本に有利に作っていくかということが、我が国の航空機産業の大きなテーマです」と語る。
ルールメイキングへ、国際標準化団体への参画が重要
航空機の安全基準は国が定めるが、その基準に適合することを示す試験や解析などの方法の詳細については、国際標準化団体の規格の活用が一般化しており、近年は更にその傾向が強まっている。日本の新技術に応じた安全基準や規格を策定するためには、産官学が互いに協力して、戦略的に国際標準化団体へ参画していくことが現時点では不可欠だ。
2023年3月、経済産業省と国土交通省航空局は航空宇宙・自動車に関する米国の国際標準化団体(SAE)との間で、航空機の脱炭素化分野における国際標準づくりに際して日本の産業界と連携していくことを確認する覚書を締結。産官学で連携して国際標準づくりに関与していく姿勢を明確にした。
安全性の認証プロセスのDXでもイニシアチブ
安全認証プロセスのDXについても、日本発で積極的に進めている。経済産業省の主導する「経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)」に採択されたプロジェクトの中では、JAXA、川崎重工業、三菱重工業と国土交通省が連携して「認証DX」に取り組んでいる。2023年度から2027年度までの5年間で、解析ツールの成熟度を向上させ、認証に適用するためのガイドラインを作成する予定だ。
千葉課長は「航空機の安全性の基準は、過去の事故やトラブルを教訓に、例えば、まれにしか発生しないような厳しい気象条件も考慮に加えるなど常にアップデートしてきています。その検証で、実機を使って実際に飛行試験を行う代わりにデジタル技術を活用して、様々なシミュレーションをコンピューターの中で行うことも研究されています。これによりメーカーの開発の効率が高まります。安全性を検証する我々の立場からも、シミュレーションが正確であれば、効率的にきちんと評価できるようになります。データを集積し、経験を重ねることで、DXによって解決できる範囲が広がることに期待しています」と話す。
関係省庁がワンチーム、新たな成長ステージへ
経済産業省航空機武器産業課の呉村益生課長は「新技術を新たなルールに落とし込んでいく作業は、技術開発を支援する経済産業省と、規制・審査当局である国土交通省で連携していくことが大切です。航空機の基礎技術の開発の面でJAXAとの連携も重要です。また、航空機のサプライチェーンは防衛と民間で緊密につながっており、グローバル戦闘航空プログラム(GCAP、日英伊で次世代戦闘機を開発)は防衛省と経済産業省が連携して進めています。国土交通省、(JAXAを所管する)文部科学省、防衛省と連携しながら、我が国航空機産業を支える事業能力を獲得し、新たな成長ステージへタッグを組んで進んでいきたい」と決意を語る。
航空機開発をめぐる日本の再挑戦が始まっている。
※本特集はこれで終わりです。次回は「下請けからパートナーの関係へ」を特集します。