自動運転で「2024年問題」解決!国内メーカーが目指す「レベル4」のトラック・バス・タクシーとは
「働き方改革関連法」によってトラックやバス、タクシー運転士の時間外労働時間の上限が2024年4月から年960時間に規制された。物流・人流の「2024年問題」とも言われ、公共交通やトラックなどの輸送力低下が懸念されており、トラックによる農産物輸送の遅れなど影響は既に出始めている。
このまま対策を講じなければ、2030年度には輸送力が34%不足すると言われる中、問題解決のカギを握るのがトラックやバス、タクシーなどの自動運転化だ。国内自動車メーカーなどは、実用化を目指して、各地で実証実験を進めている。その多くは2027年度にかけて実現する見通しだ。
決められた範囲内ではドライバー・フリー、運転士不足の解消目指す
自動運転はレベル1から5まで、5段階に区分けされている。レベル1、2はドライバーによる周辺監視が必須。レベル3は一定条件下で周辺監視の主体はシステムに移るが、緊急時など必要に応じてドライバーが操作する必要がある。レベル4になると、ODD(運行設計領域)の範囲内ならドライバー・フリーとなる。
ODDとは地域の特性、道路の種類、速度範囲、天気、時間帯に応じて、自動運転車両のセンサーやソフトウェアが安全に作動するように設定された領域のこと。「2024年問題」の解決が期待されているのは、レベル4での自動運転技術だ。
いすゞ、2027年度に自動運転トラック・バスを事業化へ
いすゞ自動車は2024年4月、レベル4のトラック・バス事業を2027年度に開始すると発表した。また、経済産業省と国土交通省が進める「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」に参加し、2024年秋頃から実施される新東名高速道路での実証実験に向けた車両を開発中だ。
実証実験用のトラックには、自車の位置を推定する「GNSS(衛星測位システム)」、前方の物体を検知する「カメラ」、側方の物体を検知する「ミリ波レーダー」、車両周辺360度をスキャンする高性能センサー「LiDAR」が設置される。カメラ-センサーから得られた情報によって「自動運転制御ECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)」がトラックの動きを制御する。
高速道路を走行中の車の動きを①発車、②本線合流、③車線変更(工事区間を避ける)、④渋滞追従、⑤合流してくる他車を本線に入れる、⑥緊急退避、⑦側道に入る、⑧規定の駐車枠に駐車――の8つの「走行シナリオ」に分けてプログラミング。パーキングエリア等から発車して車線変更や渋滞、緊急時への対応などを経て駐車するまでの一連の流れを、高性能センサーと制御システムだけで行う。
いすゞは2027年度中の自動運転トラックの事業化を目指している。
バス路線で実証、歩行者配慮などドライバーのノウハウ蓄積
バスについても、いすゞは自動運転システムの開発や導入支援を手掛けるスタートアップ「ティアフォー」(名古屋市)に出資し、「レベル4」の路線バスの自動運転の開発を共同で進めている。
福岡空港内の国際線と国内線のターミナルビル間の連絡バスルートで、将来的なレベル4実現に向けた実証実験を2022年から実施。2023年度からは、福岡県北九州市と神奈川県平塚市の各バス事業者と連携して、実際のバス路線を使って実証実験を続けている。最終的には無人運転を目指しているが、実証実験では、運転士を座らせて実施している。
商用モビリティ推進部部長の興津茂氏は「いすゞは、商用車メーカーとして、大型車の大きくて重い車両を安全に操作するノウハウを持っています。また、自動運転車両の安全性の確保では、ODDに合わせた走行シナリオを想定した評価・検証に取り組んでいます。ただ、プロの運転士は、安全なうちから少し早めにブレーキを踏むとか、歩行者に配慮して水たまりを避けるといった『気遣い』がある。そういうノウハウを集積していくことも実証実験の大きな目的です」と話す。
興津氏は「2024年問題や少子高齢化でトラック・バスのドライバーは全国的に不足している。物流は日本の産業全体の根幹に関わる基礎的な部分であり、そこが今、危機を迎えている。課題意識を持ちながら、2027年度の事業化に取り組んでいく。自動運転車両を開発して終わりではなく、実証実験を通じて社会受容性を高める取り組みを行い、人々が自動運転を受け入れやすくするための環境整備やルール整備、また自動運転事業のモデルの構築にも貢献していきたい」と決意を語った。
日産は横浜市などで自動運転によるモビリティサービスを提供へ
ドライバー不足はタクシー業界でも深刻だ。そこで、都市部を中心に「自動運転タクシー」への期待が高まっている。実現すれば、ドライバー不足の解消につながるだけでなく、人件費が削減できることで、現在の運賃よりも、安価な値段でタクシーを利用できる可能性がある。
米国や中国では、すでに自動運転タクシーが商用化されている。例えば、米国サンフランシスコでは、IT大手グーグル傘下の「ウェイモ」が、中国の北京や上海などでは、IT大手「百度(バイドゥ)」が、ドライバーのいない完全自動運転のタクシーを運営している。
開発で遅れをとっていた日本も、自動車メーカーらが次々と自動運転タクシーの開発計画を発表、社会への実装化に向けた走行実証を進めている。
日産自動車は2027年度にも自動運転によるモビリティサービスの提供を始める計画だ。2024年度からセーフティドライバー(監視員)が乗車した状態での走行実証実験を開始。技術的な課題の解消を図った上で2025~2026年度にかけて、横浜市のみなとみらい地区や桜木町、関内などのエリアで自動運転システムを搭載したミニバン「セレナ」を最大20台運用して、オンデマンドで域内を移動できるサービスを無償で提供する。2027年度以降、有償サービスの開始や地方を含む3~4市町村への拡大を目指している。
自動運転タクシーをめぐっては、ホンダもGMなどと共同で2026年に東京都内の一部のエリアでサービスを始める計画を明らかにしている。
「完全無人」の自動運転サービス、全国100か所で導入予定
2023年5月、福井県永平寺町で自動運転のレベル4による運行サービスが始まった。永平寺町から運営を委託された第三セクターが運行しており、産業技術総合研究所(産総研)と車載機器や通信機器メーカー等とのコンソーシアムが自動運転機能を追加した7人乗りのヤマハ製電動カートが、約2km区間を時速12kmで走行している。運行区間は自転車と歩行者の専用道路で、一般車両の進入はないものの、公道での運行は全国初となる。
政府は2025年度をめどに全国50か所程度、2027年度までに100か所以上で、こうした、車内に運転手がいない自動運転システムを活用した移動サービスの実現を掲げている。
レベル4の社会実装に向けて、経産省は既存プロジェクトに加えて2023年度補正予算で無人自動運転システムの開発、実証事業に27億円の予算を計上。自動運転用の車両開発を加速し、幅広いサービスの実用化につなげる。また、ドライバーの人材不足や人口減少などに対応するビジネスの早期具体化と将来を見据えた高度技術の開発を、両輪で推進していく方針だ。