下請中小企業の価格交渉をサポート 価格転嫁対策
電気料金などのエネルギー価格の値上がりや原材料価格、労務費などの高騰は、中小企業の収益を圧迫しています。中小企業庁では、下請中小企業が、発注側企業との取引価格にコスト上昇分を適正に反映する価格転嫁の支援策を強化しています。2023年7月には、価格交渉に関する基礎的な知識の習得支援や原価計算の手法の習得支援を実施する「価格転嫁サポ―ト窓口」を、全国47カ所に設置されている「よろず支援拠点」に新設します。
発注元企業との価格交渉・価格転嫁を後押し 「価格交渉促進月間」
中小企業庁は2021年9月から、下請中小企業が発注側企業との価格交渉を進めやすくするため、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と定め、支援を強化してきました。この「月間」の機会を活用して、発注側企業に原材料などのコスト増加分を取引価格に上乗せするよう求めています。
さらに、「月間」終了後には、下請中小企業30万社を対象にして、フォローアップ調査を実施し、価格交渉・価格転嫁の実態を把握しています。2023年3月の調査では、「価格交渉を申し入れて応じてもらえた/発注元企業側からの声かけで交渉できた」割合は63.4%で、前回の2022年9月より5ポイント増えました。一方で「発注側から交渉の申し入れが無かった」「協議に応じてもらえなかった」「減額のための協議申し入れがあった」といった回答は合計で約16%に達するなど二極化が進んでおり、依然として下請中小企業が価格転嫁できずに不利になる取引は少なくありません。
業種別の「価格転嫁率」ランキング公表と指導・助言
価格転嫁率は、下請中小企業のコスト上昇分に対して、発注側企業が取引価格への転嫁に応じた割合を示しています。2023年3月は全体で47.6%と2022年9月の46.9%から微増しました。中小企業庁は、実態を示すために業種ごとの価格転嫁率などを算出して順位付けしています。
2023年3月の調査結果によると、最も高かったのは、「石油製品・石炭製品製造」の57.0%で、「卸売」の56.9%、「造船」の56.1%が続きます。最も低かったのは、「トラック運送」の19.4%で、続いて「放送コンテンツ」の22.7%、「通信」の33.5%の順でした。
また、フォローアップ調査の結果、価格交渉や転嫁の状況が芳しくない発注側企業を特定し、下請中小企業振興法に基づいて、事業所管大臣名で「指導・助言」を実施しています。2022年9月の調査では、約30社に状況改善を促しました。中小企業庁は、「価格交渉促進月間」とそのフォローアップ調査などを通じて、コスト上昇分を取引価格に適切に転嫁しやすい環境をつくることを目指しています。
価格交渉のサポート体制を強化 「価格転嫁サポート窓口」
中小企業の取引上の悩み相談の相談窓口として、「下請かけこみ寺」があります。全国48か所に設置されていて、専門の相談員や弁護士が取引に関する中小企業の悩み相談に応じています。また、中小企業へのヒアリングを通じて取引の実態を調査するのが「下請Gメン」です。中小企業庁は、Gメンが収集した年間約1万件の取引情報を業種ごとに集計・分析し、支援策に反映しています。ヒアリングにおいては、「2023年3月に原材料費、労務費の高騰の資料を提示し、4月中に提示通りの価格転嫁で決着した」など、価格転嫁の実現に当たって、原価を客観的に示した価格交渉が有効であるという事例も報告されています。
こうした取り組みの強化策のひとつとして、全国47カ所に設置されている中小企業などが抱える経営課題に対応するワンストップ相談窓口である「よろず支援拠点」に「価格転嫁サポ―ト窓口」を新たに設置し、原価計算の基本を含めた価格交渉のための基礎知識を伝えます。個々の企業の実態を踏まえた製品ごとの原価の算出方法をはじめ、実践的なアドバイスを行います。
価格転嫁対策の充実 中小企業の賃上げを実現へ
中小企業庁は2022年7月、下請中小企業振興法に基づく振興基準を改定しました。価格転嫁対策では、価格交渉促進月間の機会を捉えることなどにより、年に1回以上の価格交渉を行うことを求めています。また、取引価格の決定にあたっては、下請中小企業の適正な利益を含み、賃上げできる水準となるよう、十分な交渉を促しています。2023年3月の「フォローアップ調査」では、価格転嫁率が高い中小企業ほど賃上げ率が高くなる傾向が明らかになりました。賃上げ原資を捻出するには、コスト上昇分を取引価格に転嫁する必要があります。
国内雇用の約7割を支える中小企業に賃上げが広がれば、消費が活性化して企業の収益が増え、更なる賃上げをもたらすという経済の好循環につながります。物価高などによるコスト負担は下請中小企業だけでなく、発注側企業を含めたサプライチェーン全体で適切に分担することが大切です。中小企業庁では今後も価格転嫁対策を拡充する考えです。
【関連情報】
価格交渉促進月間(2023年3月)のフォローアップ調査の結果を公表します (METI/経済産業省)
※本特集はこれで終わりです。次回は「国際経済の流れを捉える 通商白書2023」を特集します。