G7の論点①「気候変動・エネルギー」ウクライナ侵略で激変
日本が議長国を務める2023年のG7は昨今のエネルギー危機が主要テーマの一つになるだろう。
きっかけはロシアによるウクライナ侵略だ。ドイツをはじめ欧州各国は、パイプラインを通じてロシアから天然ガスを調達していた。そんな中、侵略によりG7を中心とする諸国とロシアの関係が悪化。資源国であるロシアはエネルギーを制裁への対抗カードとして切った。これにより欧州への天然ガス供給が著しく抑制された。
欧州はこれまで、気候変動問題の打開に向け、世界的にも野心的な再生可能エネルギーの導入目標を掲げてきた。近年のG7での議論でも、その立場を貫いている。
とはいえ、直ちに全てのエネルギーを再エネに転換することはできない。他の地域と同様に、足元では天然ガスをはじめ化石燃料に頼っているのが実情だ。
こうした中で、ロシアからの供給が抑制され、欧州は他の地域から調達せざるを得なくなった。天然ガス供給量の劇的な減少は、世界的な価格の高騰を招いた。火力発電への依存率が高い日本の電気料金が跳ね上がったのは、これが大きな要因である。
ウクライナ侵略により、欧州をはじめとする国々のエネルギーの安定供給に対する考え方が変わった。足元のエネルギー安全保障を確保するために化石燃料の利用など各国の事情に応じたエネルギーの在り方をどうするか、その上で、中長期的に温室効果ガスの排出をどう削減するか。この点がG7で議論されることが見込まれる。
気候変動への対応どう評価? 「削減貢献度」という新たな評価軸を提案へ
気候変動対策は、二酸化炭素(CO₂)をはじめ温室効果ガスを多く排出する企業が、いかに削減に寄与したかが重要になる。2000年代に入って、そのための基準作りが進んだ。
その一つが「温室効果ガス(GHG)プロトコル」という排出量を算定するための国際的な基準だ。企業の生産活動やそこで消費した電力だけでなく、製品の上流から下流に至るサプライチェーン全体で排出されるCO₂を対象としている。例えば、原材料・部品の調達、製品の販売、廃棄、さらには従業員がどういう手段で通勤したかまで計測し、公表する。
ただ、それは直接的な企業活動やそのサプライチェーン上の排出という閉ざされた範囲の評価でもある。新興国の経済発展に伴い、世界のCO₂排出量に占めるG7以外の割合は7割を超えるとされる。日本をはじめG7諸国企業の努力による地球規模の削減には限界がある。
そこで経済産業省などが近年、提唱しているのが「削減貢献度」という概念だ。企業活動で社会全体のCO₂排出量がいかに減ったかを「貢献」として評価する。例えば、空気の熱を使って温度をコントロールする「ヒートポンプエアコン」。ある企業が生産、販売し、化石燃料を多く使う暖房器具からの買い替えが広がるごとに、社会全体のCO₂排出量は減ることになる。
GHGプロトコルに沿って企業自身が削減努力をすることが引き続き重要である一方、削減効果の高い製品がいかに普及し、社会全体でどれだけ減らしたかという観点も重要となる。
2つの企業を比べたときに、GHGプロトコル上は共に排出量が同じであったとしても、一方が大きな社会全体への削減に貢献していたとしたら、どちらが気候変動の観点から評価されるべきか、明白であろう。
削減貢献度はこうした課題を解消する基準として期待されている。GHGプロトコルと合わせて使うことで、社会全体のCO₂削減にどれだけ寄与したか、気候変動対策の面でより正確、適切な企業価値を示すことができる。経済産業省は、こうした取り組みを進める企業に資金(ファイナンス)などの経営資源が向かう仕組みをつくることができれば、グリーンな製品・サービスの普及を促し、経済成長による排出量「ネットゼロ」の実現が期待できると考えている。
日本などの主要国はこうした製品・サービスに強みを持つ企業が多く、金融やビジネスの各分野で注目が集まっているが、国レベルでの議論は始まっていない。2023年のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で、どのように議論されるかに注目が集まる。
日本発「GX」をG7でグローバルに
2050年のカーボンニュートラル達成に向け、経済産業省は「GX(グリーントランスフォーメーション)」を掲げる。GXとは、温室効果ガスの削減が経済成長をもたらす社会システムへの変革を意味している。経済産業省の木原晋一審議官(環境問題担当)に2023年G7に向けた意気込みを聞いた。
GXは日本で大きなキーワードとなっている。排出削減と経済成長は(一方が進めばもう一方が停滞するという)トレードオフの関係ではなく、両立できるという考え方だ。日本は議長国として、グローバルなGXの実現を目指してメッセージや施策を議論し、世界に発信する場にしたい。
その観点で注目されているものの一つが、削減貢献度となる。日本企業はこれまで、CO₂削減に貢献するという姿勢で製品を開発し、世界に販売してきた。つまり、自社の活動だけでなく、世界全体でCO₂を減らすというソリューションを持っている。削減貢献度の概念が普及すれば、日本企業の強みが発揮され、ひいては産業競争力の強化につながる可能性がある。
また、エネルギーの観点では、ロシアのウクライナ侵略により、エネルギー供給は世界的に厳しい状況にある。近年の再エネシフトにより化石燃料への投資が控えられたことも、足元の状況をさらに悪化させている。中長期的に見た場合、新興国は今後も成長するため、需要は加速度的に増大する。エネルギー安全保障は危機に直面しており、G7でもしっかり考える必要がある。
加えて、世界の中でも成長を続ける国が多いアジアは、世界のエネルギー需要の重心になると思う。日本はこれまで、アジアの新興国を含めた国々で何が起きているかを考慮しながら、エネルギー問題への対応を示してきた。カーボンニュートラルという目標は多くの国々で共通だが、そこに至るまでの道筋は国・地域によって異なる。2023年のG7を含め、アジアで唯一のG7国という橋渡し役的な日本の立場を忘れずに議論を続けることが大切だ。