METI解体新書

「現場主義」と「聞く力」で中小企業を“伴走”支援!

【経営支援課】

経済産業省という複雑な組織を「解体」して、個々の部署が実施している具体的な政策について、現場の中堅・若手職員が分かりやすく説明する「METI解体新書」。

第13回は、中小企業庁 経営支援課 経営力再構築伴走支援推進室の大澤 宏夢係長に話を聞きました。

日本経済を支える中小企業を元気にする

中小企業庁のミッションは、日本企業の99.7%、雇用の約7割を担う中小企業の健全な発展を促し、元気にすることです。経営支援課では、そんな経済を支える屋台骨ともいえる中小企業の経営支援を行っています。経営支援と一口にいっても、中小企業の皆様の相談窓口である「よろず支援拠点」などの支援体制の整備、人材育成や人材確保対策、デジタル化の推進など、業務の内容はいろいろです。

今年5月、経営支援課に「経営力再構築伴走支援推進室」という長い名前の部署が立ち上がり、初期メンバーとして、関東経済産業局から着任しました。その名の通り、中小企業の「経営力」を「再構築」するために「伴走支援」を行うという経営支援のモデルを、全国に普及・展開することがミッションです。出向元の関東経済産業局は、経済産業省の地方ブロック機関で、関東の1都10県を担当しています。全国に先んじて中小企業への伴走支援モデルを実践していたため、その経験を本省で活かしてほしいと声がかかり、2回目の本省出向となりました。(経済産業省では、地方経済産業局を「地方局」、経済産業省本省を「本省」といい、連携して仕事をしています。)

「対話と傾聴」で伴走するという支援方法

私たちが実施する、経営力再構築のための伴走支援は、経営者や従業員の方との「対話と傾聴」を通して、本質的な経営課題に気づいてもらい、能動的なアクションに繋げ、自己変革力の向上(自走化)を促すことを目指しています。関東経済産業局では、職員と、民間の企業経営に詳しいコンサルタントで「官民合同チーム」を結成し、実際に現場に足を運び、中小企業の経営者や従業員の方のお話を伺い(対話と傾聴)、課題の設定を行うところから一緒に行っていました。この「課題の設定から」という点がポイントです。

これまで行政が行う支援は、企業の特定の課題や悩みに対し、解決策となる支援の提供を行う形が一般的でした。例えば、「設備投資をしたい!」といった相談に「この補助金が使えますよ!」と紹介する感じです。
しかし、最近は新型コロナウイルス感染症や国際情勢の動きにより、経営者の置かれている環境も目まぐるしく変わる中、「提示された課題は、果たして真に取り組むべき課題なのか。目の前の課題に対して対症療法的に支援策を処置するだけで、企業の持続的な発展につながるのか。」といった問題意識がありました。そこで、支援の現場の方に集まってもらい、支援の在り方について検討して生まれたのが、この「伴走支援」です。

元々は、福島相双復興推進機構(官民合同チーム)が、原子力災害で被災された事業者の方の事業・なりわい再建を目的として、事業者一人一人への寄り添った支援を行っており、その形を参考にしています。これまでの支援が「課題解決型」の支援だったのに対し、この伴走支援は「課題設定」の段階からの支援です。官民の合同チームが経営者と対話し、傾聴することで、経営者は本質的な課題に気づき、自社内の自主的なアクションにつなげていきます。

例えば、「プロジェクトがうまくいかない」という課題には、「社内のコミュニケーションが十分にとれていない」、「組織内外の人間関係のしがらみがある」といった本質的な課題が隠れていることがあります。でも、いきなり外部の支援者が「これが本当の課題ですよ」と投げかけてもピンときません。自分たちで気づき、導き出した課題であれば、納得感と当事者意識を持ち、なんとか改善しようという能動的な行動につながります。解決するためにどうすればよいか、自社内でアクションを検討し、実行していくことで、支援者がいなくなった後も、自らPDCAを回して解決できるようになります。

机に座っているだけでは得られない経験と充実感

この手法は、組織開発の研究者である米国のエドガー・シャイン氏が提唱している「プロセス・コンサルテーション」という支援の考え方がベースとなっています。学術的に裏付けがあるとはいえ、関東経済産業局で伴走支援を始めた頃は、やり方を模索しながら進める日々でした。中小企業から理解が得られず、「目の前の課題に対応してほしい」と要望を受けることも。今は伴走支援のポイントをまとめたマニュアルがありますが、当時はなかったので、しっかりとコミュニケーションをとり、分からないことはチーム内の民間のコンサルタントの方にガンガン聞いて教えてもらいました。1社に対し計20回以上訪問するなど、現場に足を運び続け、チーム一丸となって取り組むことを意識し、徐々に効率的に支援ができるようになりました。

当たり前ですが、相手の話をよく聞くことがとても大事だと実感しています。なぜこれがやりたいのか、どうしてそう考えるのか、と投げかけていくうちに様々な課題が見えてきます。中小企業が自社内にプロジェクトチームを立ち上げ、課題解決にむけて取り組み、社内の雰囲気が少しずつ変わってくることを目前で感じました。それはただ机に座っているだけでは得られない貴重な経験でしたし、確実に前進している様子が見えて、充実した毎日でした。

関東発のモデルを全国へ

現在は、この関東経済産業局で基盤を固めた伴走支援モデルを、中小企業庁を中心に全国に広げるという挑戦をしています。実際に、全国の地方経済産業局で、今年から官民合同チームでの伴走支援が始まっています。地方局の職員からは、仕事にやりがいを感じ、自分たちの意識改革にもつながっていると聞きました。経済産業省が掲げる「現場主義」を実践できているのではないかと思います。

ゆくゆくは自治体や様々な支援機関の方にもこの伴走支援の考え方を広げていくため、支援者の方の暗黙知となっているノウハウの形式知化に向けた検討、伴走支援のできる人材の育成に向けた研修プログラムの開発などにも取り組んでいます。個別の企業での成果は見えてきていますが、例えばそれが地域経済を良くするためにどうつなげるかなど、政策の効果も検証しないといけません。

現場での経験を踏まえて、「本省」の視点から、伴走支援を推し進めるための企画・立案を行っていくという今の仕事は、現場とはまた違うやりがいを感じています。

共感と支援の輪を広げたい

企業との信頼関係を作り、その先に、企業自身が自らの経営課題を発見して課題解決に邁進していく。必ずしも短期的な成果が出ない取り組みだからこそ、「対話と傾聴」を重ね、本当の意味で企業に寄り添った支援をするのが伴走支援です。

「伴走支援」という言葉自体はこれまでもあり、多くの支援者の方達が取り組まれてきましたが、この「課題設定型の伴走支援」という考え方や、中小企業庁(行政)が主体的に取り組みを始めたことを知ってもらえたらと思います。行政が取り組むことで、中小企業の方も安心して任せてもらえるという側面もあり、官としてこの取り組みを推進する意義は大きいと感じています。この取り組みに共感し、伴走支援に取り組んでいただける支援者の輪をどんどん広げていければと思います。

【関連情報】
経営力再構築伴走支援について(令和4年7月11日中小企業庁)
「伴走支援の在り方検討会」の報告書を取りまとめました(経済産業省プレスリリース)