万博から、未来へ
若者たちでつくるテーマ「いのちを高める」
2025年の大阪・関西万博では、万博をきっかけに世界中の人々が日本に集う。
「母国と日本を繋ぐ架け橋」、「世界中のアイディアや夢が交わる場所」、「ワクワクや感動をもたらす空間」、「壮大な実証実験の会場」…。コロナ禍の後,大阪・関西、そして日本で開催される万博が魅せてくれるであろう「世界」への期待は高い。海外の方や若者たちは万博に何を夢見て何を思うのか。国威発揚の場であった万博は、権威の象徴とも思われがちだが、実は、常に「市民」の心を踊らせてきた存在だ。
そして、今、万博は市民に夢を見せる存在から市民が夢を作り出す場へと変わりつつある。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを務めるSTEAM※教育者(株式会社steAmCEO)の中島さち子さん、そしてアラブ首長国連邦(UAE)、日本、カンボジアの若者たちへ、「万博」に対する思いを聞いた。
※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた造語。2000年代に米国で始まった教育モデルで、理数教育に、創造性教育を掛け合わせた教育概念。
日本とUAEの架け橋になりたい
中島 ラシェッドさんは、ドバイ万博日本館のPRアンバサダーを務めていますね!どんな活動をしていますか。また、万博への期待や、将来の夢についてもぜひ教えてください。
ラシェッド コロナ禍前は、他のPRアンバサダーの人たちや、UAE大使館の人たちと、どう日本館を盛り上げていくかミーティングをしたり、日本のメディアでPRをしたりしていました。でも、今はそれができなくて残念です。コロナの影響でドバイ万博を僕はまだ見ることができていませんが、現地では盛り上がっていると聞いています。ドバイのロイヤルファミリーの王子様が、ツイッターで日本館のことを賞賛しており、とても誇りに思いました。
ドバイ万博では、日本の人にUAEを身近に感じてもらいたいし、大阪・関西万博ではその逆で、ドバイの人に日本を身近に感じてほしい。遠く離れていても、心の距離がぐっと近くなるはず。僕は将来、日本のUAE大使になって2つの国の架け橋になりたいです。
才能を伸ばすことで「いのちを高める」
中島 カンボジアも万博に出展しています。ソムアートさん、ソピアさんは、万博についてどう思っていますか。
ソムアート 私自身、これまで日本のことを学んできましたが、今後は日本だけでなく、沢山の国のことを知って、次世代を担うカンボジアの子どもたちに教えたいと思っています。また、勉強だけでなく、子どもたちの得意なことや才能を伸ばしてあげることが、大阪・関西万博のテーマの一つである「いのちを高める」ことに繋がるかもしれません。万博がそのきっかけになると良いと思います。子供たちを連れて大阪・関西万博に参加することが夢です。
ソピア 私もソムアートも今年、中島さんたちsteAmの皆さんとともに初めてプログラミングを学び始めたのですが、カンボジアの風景をアニメーションで表現できるようになったとき、大きな喜びを感じました。カンボジアの発展のために、自分自身もいろいろな知識を身につけながら、子供たちを育てたいと思っています。万博では、子どもたちに世界の広さを見せてあげたいです。
大阪・関西万博で「未来へのワクワク」をつくる
中島 日本の学生さんたちも伺いたいです。川村さんは大阪・関西万博でどんなことがしたいですか。
川村 「いのちを高める」ってなんだろう、と考えることが、最近よくあります。私はsteAmの活動などでたくさんの子供たちと関わることが多く、「こんなアイデアでこんなことができる」とみんなワクワクする。それが「いのちを高める」になるのだと実感できました。
大学卒業後は、母校の徳島商業高校の教員になって、そんなワクワク感を学校の現場に提供したいです。そして万博では、大阪でこんな未来が待っていると想像を膨らませられるような体験ができる。さらには、日本人の中にずっと受け継がれている精神や心も伝わる。そんな場所にできるような作り手になりたいと思います。
データヘルスを活用し、自分たち自身で命を守る
中島 小島さんは、いのちをテーマにした若者たちの組織「inochi WAKAZO」副代表、そして医学生として、万博でどんな社会貢献を目指していますか。
小島 WAKAZOのミッションに「医療の民主化」があります。医療従事者以外の人たちも、普段から医療に関心を持って、自分たち自身で命を守って未来に繋げていこうという活動をしています。
私たちが大阪・関西万博で考えているのは、データヘルスの活用です。普段の生活、例えば通勤中、運動中、在宅中の心拍数、血圧などのデータを把握・共有すれば、病院に行かなくても早期に病気を発見できるかもしれない。病院に行ったとしても、それほど深刻な病気にならないかもしれない。そう考えて、まずは若者たちのデータヘルスの輪を広げて、コロナ禍でのメンタル疾患に着目した実証実験をスタートする予定です。そこから子供やお年寄りにも取り組みを広げ、万博と連携して多くの方がデータヘルスを体験できる実証実験を行いたいと思っています。実際に体験することで「自分たちで命を守る」ということを伝えたいのです。
「万博を壊す!」くらいの覚悟を持って
中島 1970年の大阪万博の岡本太郎さんの「太陽の塔」は、ある意味では反万博でもあり、人間や原始生物のいのちは太古からこんなにも爆発的に輝いているという、「進歩」に対するアンチテーゼでもありました。これは岡本太郎さんが徹底的に、真摯に、万博の存在意義を考えた結果、自然と立ち現れた形です。私たちも「万博」に眠る爆発的な可能性を掘り起こす覚悟を持って、未来を担う若い人たちと一緒に、試行錯誤を繰り返しながら、「今」のあるべき万博を共創していきたいと考えています。
私が掲げている「未来の地球学校」はその大きな模索の一歩となる構想です。そして、テーマ「いのちを高める」を体現するパビリオン「クラゲ館」は、会期前から会期後まで続く「未来の地球学校」構想の象徴として、2025年に半年間だけ夢洲に誕生する、創造の歓びがあふれる共創空間です。本気で一人一人の奥底に眠る多様な創造性の輝きを信じ、それらを引き出し、開き、共鳴させる「創造性の民主化」社会の形を模索していけば、自ずとそれは5000年先のいのちをも感動させることができるうねりとなるはずです。
中島さち子さん(オーガナイザー)
東京大学理学部卒業。音楽家、数学研究家、STEAMS教育者。NY大学ではメディアアートを学ぶ。株式会社steAm CEO。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーに就任し、テーマ「いのちを高める」を担当。「未来の地球学校」構想を掲げ、遊びや学び、スポーツや芸術を通して、生きる喜びや楽しさを感じる共創の場を世界中に創出していくことを目指す。
ラシェッド・アル・アブリさん
東海大学付属高輪台高等学校3年生。UAEアブダビの皇太子のイニシアチブにより、両国の懸け橋となるべく日本語教育を受ける。両親がUAEの国民でありながらアブダビの日本人学校付属幼稚園に通い、UAEの中学校卒業後に日本に留学。現在ドバイ万博日本館PRアンバサダーを務める。
オーク・ソムアートさん、シアン・ソピアさん
ともにカンボジア・シェムリアップにある山本日本語学校を卒業後、同学校で日本語を活かして働く。コロナ禍においてアニメーションやビジュアルデザインなどを比較的簡単に作ることができるプログラミング言語「p5.js」を中島さんたちsteAmのもと、川村くんたち大学生とともにオンラインで学んでいるうちに、逆に日本の高校生にも教えるほど夢中になる。本職は、観光ガイド。コロナ禍でプログラミング学習にチャレンジ中。
四国大学 経営情報学部3年 川村知輝さん
中島さん率いる株式会社steAmや四国大学(鈴鹿剛先生)のもと、「いのちを高める」事業の一環ともいえる「未来の地球学校プロジェクト」(一部経産省「未来の教室」実証事業)に参画し、国内外のさまざまな学校や場のこどもたちのメンターリーダーとして活動。
日本医科大学 医学部2年 小島祐依さん
医学生・建築学生など、関西・関東のU30で構成する「WAKAZO」副代表。大阪・関西万博にて「誰もがいのちを守り合う「inochiのペイフォワード」」の取り組みをチームエキスポに登録。
※本特集はこれで終わりです。1月からは「飛躍する新興国ビジネス」を特集します。