政策特集水ビジネス海外戦略 未来を切り拓く羅針盤 vol.4

日本の水プレイヤー②「水分野におけるCORE JAPAN」

グローバルパートナーシップでコア技術の世界展開へ

 “コアとなる技術・価値、プロジェクトの主導権を確保しながらグローバルパートナーシップを実現”する「CORE JAPAN」。昨年12月に策定された政府の「インフラシステム海外展開戦略2025」において示された概念だ。水分野においても、日本企業が第三国企業・現地企業とシナジーを発揮し、より良いソリューションの提供に成功し、海外事業の拡大に乗り出す事例が増えている。メタウォーター寒川博之海外営業部長、東芝インフラシステムズ 社会システム事業部 相馬孝浩部長、横山詠一担当部長に、提携の背景や事業展開について聞いた。

欧州企業との戦略的な提携を進める

 メタウォーターは、浄水場の水処理等で使われる「セラミック膜ろ過システム」で、国内トップシェアを誇る。同社は2013年、PWN(オランダの水道事業体)の子会社PWN テクノロジーズ社(以下、PWNT)と戦略的提携契約を締結した。PWNT社のセラミック膜システム「CeraMac®」のグローバルマーケティングを共同で展開し、オランダのほかイギリス、シンガポール、スイスの浄水場で採用されている。

 —「CeraMac®」は、大きなタンクに貴社製のセラミック膜を最大90本収納した水のろ過システムですね。国内で採用されているセラミック膜を、そのまま海外で販売できないのでしょうか。

 「法規制や運営・維持管理の方法などが国によって異なるため、相手国や顧客の条件によって採用するシステムが異なります。日本の浄水場では水をろ過する場合、セラミック膜を単体で使いますが、オランダやイギリスの浄水場は複数の膜をユニット状にして運用することが多いので、「CeraMac®」が適しているのです」

 —現地市場の規格に合わせるために貴社が独自でセラミック膜をモデルチェンジするよりも、PWNT社の「CeraMac®」のコア部材として海外展開する方が効率的なのですね。一方、提携先のPWNT社にとってセラミック膜を選択することのメリットは何でしょうか。

 「当社のセラミック膜は汚水に強く、膜の破断リスクが極めて低いのです。そのうえ原虫類も除去でき、ろ過水の安全性がとても高いことが特徴です。耐久性が高く、初号機は納入して20年経ちますが、今も交換せずに稼働しています。長寿命・長期安定性で維持管理コストを削減できるといった技術の優位性が、「CeraMac®」の価値を高めていると思います」

CeraMac®システム(左、セラミック膜エレメント90本収納)、セラミック膜エレメント(右、CeraMac®システムに供給)


 —海外サプライチェーンの面ではPWNT社との提携はどう活かされていますか。

 「日本から人員を派遣しなくても、欧州での性能保証や営業をPWNT社に任せられるのは、提携の強みだと思います。セラミック膜の提供や水質データの解析といったエンジニアリング業務は当社が担うなど、役割分担が上手くできています」

公共電力や水道管のない地域でも安全で飲める飲料水を

 ―海外における今後の展開は。

 「例えば、イギリスの水道事業は大部分が民営化されています。民営化されると、水道事業者はいかに安定的にパフォーマンスよく水を供給できるかという責任を負うため、「CeraMac®」の採用につながっています。最近では、スコットランドでも採用が決定しました。今後は欧州各国でも導入できるか、適宜実証実験を行う構想もあります」

寒川博之海外営業部長


 —ハイエンドな技術があるからこそ、グローバルパートナーシップによるシナジーが発揮でき、現地のニーズや規格にもアレンジ可能なのかもしれませんね。欧州以外での展開についてもお考えでしょうか。

 「セラミック膜ろ過システムで更なる市場開拓を検討しています。システムを簡素化して発電機を搭載した「車載式セラミック膜ろ過装置」をカンボジアで実証しました。湖、川など水源に移動して浄水ができ、公共電力や水道管のない地域でも安全で飲める飲料水を提供できます。災害発生時の緊急対策用にも活用可能です。セラミック膜ろ過システムの付加価値を高めるような、新しいシステムを構築し、安全な水が行き届かない地域にも販売を拡大させていきたいと考えています」

日印パートナーシップで水処理事業拡大のためのシナジーを創出

 東芝インフラシステムズは、現地ローカルパートナーとの連携で実績を重ねている。2020年2月にはガンジス川流域の都市、チャプラとベグサライで下水処理事業(EPC※1と15年間の運用・保守業務)を受注。2021年8月にはガンジス川流域の都市ハジプールの下水処理場建設や15年間の運用・保守契約を受注した。

※1 Engineering(設計),Procurement(調達) Construction(建設)の略。

 ―インドの人口は2027年頃に中国を上回り、世界最多15億人になる見通しです。総人口に占める若年層割合も非常に高く、高い経済ポテンシャルが期待され、水ビジネスにとっては魅力的な市場ですね。一方、中国や韓国、欧州企業など競合も多数です。水処理事業拡大に向けて、経験豊富な現地ローカルパートナー※2との連携がポイントだったようですね。

※2 水処理エンジニアリング事業を行うインドUEM社(UEM India Private Limited、現在は東芝ウォーターソリューションズ(以下TWS)に社名変更)。同社は水処理分野におけるEPC、O&M(運用・保守)事業を、インド国内に加え、アジア、北米や中米、中東、アフリカなどグローバルに展開。事業領域においては、公共下水道プラントに加え、産業分野では、石油・ガスプラントを中心に純水を含む給水処理、排水処理、再生水処理や公共上下水道プラントなど幅広い領域をカバー

 「2014年にUEM社(当時:現TWS社)の株式を取得し、2018年100%子会社化しました。同社への取締役や技術者の派遣による経営参画と技術的交流を通して、相互の信頼関係構築と水処理事業拡大のためのシナジー効果の創出を図ってきました。TWS社はグローバルな市場でEPC、O&M(運用・保守)事業の実績を豊富に持ち、インド市場でのプレゼンスも高く、相互補完的に国際競争力を高めることができたと感じています」

 ―インドに限らず、途上国では、立派なプラントを作っても、その後適正に維持管理がされず、作りっぱなしになることがあると聞きました。

 「当社が受注した下水道事業は、複数年のO&M(運用・保守)が付与されていますので、長期間に渡り現地で安定したサービスを提供する日本のノウハウが活用できます。プラント稼働後も責任を持って維持管理を担うことができます。当社では入札のタイミングでLCC(ライフサイクル・コスト)を算出して提案しています。近年では、インド政府もEPC+O&M(10-15年)の長期間のパッケージで発注しているようです」

インドのアラハバード・サロリ下水処理場(当浄水場および関連施設の設計・建設・運転維持管理事業は、2021年に日系企業の質の高い海外建設プロジェクトなどを表彰する「JAPAN コンストラクション国際賞」を受賞)

競合も時には「頼れる存在」に

 ―インドのバンガロール上下水道局から、ティーケーハリ浄水場建設工事をフランスの水メジャー、スエズインド社※3と共同で受注されていますね。海外の競合企業と連携された経緯を教えてください。

※3 スエズ社のインド現地法人

 「当社は日本の上下水道で培ってきた監視制御や汚泥処理などの技術に強みがありますが、砂ろ過※4による水処理を採用した大型浄水場の建設実績がなかったので、現地でのEPC経験が豊富なスエズインドと組みました。スエズインドの砂ろ過水処理技術に加え、TWSのインド国内の実績、電気計装技術、汚泥処理技術が総合的に評価されました」

※4 ろ過池の砂層に水を通し、砂層の表層部に繁殖している微生物(生物ろ過膜)の浄化作用で水をきれいにする方法

 ―スエズインドはライバルでありながら、頼れる存在でもあるわけですね。
 
 「はい。特に海外では、自社の技術力や製品に固執し過ぎず、パートナー企業と互いの強み・弱みを補完し合って最適なソリューションを生み出す。それが何より大切だと考えています」

社会システム事業部の相馬孝浩部長(右)、横山詠一担当部長

 —フィリピンではメトロマニラ東部リサール地区の「ヒヌルガン・タクタク下水処理場」の建設プロジェクトが進行中ですね。

 「この下水処理場の処理能力は日量1.6万トンで、2023年に完成予定です。フィリピンでは厳格な排水規制があり、規制に対応した排水処理プラントが求められていました。我々はフィリピンの法規制や慣習、ライセンスを考慮して、現地のゼネコンと組むことにしました。また、実績やコスト面なども検討した上で、スエズインドから処理装置を調達しています」

 —各国で事業展開する中、今後の成長が期待できると感じる技術はありますか。

 「水分野におけるカーボンニュートラルです。例えば、国内で実証されている消化ガス発電システムもその一つです。下水汚泥の処理過程で発生する消化ガスを有効活用する技術で、国内外の環境改善に貢献できます。こうした当社が優位性を保つ技術については、今後もっと力を注ぎたいと考えます」

 

※第5回は、最新技術を活用し水分野の新たな課題に挑む、クボタと栗田工業の取り組みを紹介します。