政策特集身近になる宇宙 vol.4

衛星データ ビジネスに変革もたらす

渋滞対策や自動運転、新たな経済指標まで


宇宙からもたらされるデータを活用したビジネスチャンスが広がっている。ビッグデータの活用はすでにさまざまな産業分野に広がるが、高精度で大容量の衛星がもたらすデータが加わることで、得られる情報の価値は飛躍的に向上するからだ。

ケタ違いの精度

タイ・バンコク-。豊田通商は、同国のチュラロンコン大学などと組み、高精度ナビゲーションシステムの実証実験を行った。インフラ整備を上回る勢いでクルマが増える新興国では、渋滞対策が喫緊の課題。渋滞による経済的な損失も懸念される中、最新技術を生かした対策のフィールドスタディーの場となっている。
今回の実証のカギとなるのは2018年11月に本格運用が始まる準天頂衛星システム。日本版GPS(全地球測位システム)と呼ばれるその最大の特徴は、測位精度の高さ。使い方によっては数センチメートルの誤差で位置を特定できるとされ、既存のGPSによる測位が一般的に10メートル程度と言われていることを考慮すれば、まさにケタ違い。その精度の高さがさまざまな産業分野に革新をもたらすことが期待される。
豊田通商はこれまで、米国のGPSを用いた渋滞情報配信サービスをタイ国内で展開してきたが、GPS単独では車線単位での渋滞情報の把握ができなかったという。そこで、今回の実証実験では、みちびきの測位信号と、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した高精度軌道・クロック推計ツール「MADOCA」によるデータを組み合わせて解析する。これらデータの受信機を自動車に搭載し、その測位情報を収集、生成される車線単位の渋滞情報に基づき、ドライバーに混雑を回避するルートを案内する仕組みだ。

「みちびき」を活用したシステムのイメージ

みちびきは、日本から東南アジア、オーストラリアにかけての上空を飛行することから、同社ではオーストラリアでの自動運転実証にも乗り出す。同実証では、走行車両のデータ収集、解析などを行う管制システムを検証する計画だ。将来的には、データの受信機など機器や高精度3D地図、管制システムなどを組み合わせたトータルパッケージとして提供することや、自動運転を通じて物流の効率化を図ることも目指している。
「みちびき」の高精度測位をめぐっては、国内でもさまざまな実証実験や研究開発が進む。三菱電機は、みちびきのセンチメーター級測位補強サービス(CLAS)を測位に用いた自動運転車「xAUTO」の実証を山陽自動車道の一部区間で実施したのに続き、18年2月には、雪道の高速道路での自動走行実証にも成功した。見通しの悪い環境でもスムーズに走行できることが確認できたことから、悪天候下でも安全な自動走行を実現する技術として、自動車メーカーに売り込むという。

データの質・量向上で

これまで気象観測や災害時の情報収集などでの活用が中心だった衛星データ。だが、小型の観測衛星から得られる大量の衛星画像に、ビッグデータ解析や人工知能(AI)、ディープラーニング(深層学習)といった最新技術を組み合わせることで、地上で起きていることがこれまで以上に「よく見える」ことでビジネスに革新をもたらすことが期待されている。
「みちびき」や小型衛星を一体運用するコンステレーションなどにより、宇宙由来のデータの質・量がともに向上する中、国も社会課題や産業競争力の強化につながるアプリケーションビジネスの創出を後押ししている。
例えば、アジア航測などが展開するのは、世界の物流量の9割以上を担う船舶などの貨物量を衛星データから推定し、経済指標を提供するサービスの実証。経済動向分析のツールとして投資家や企業向けに提供する狙いだ。
衛星AIS(自動船舶識別装置)と衛星画像を解析し、船舶の種類や現在地、速度、大きさ、貨物の種類、ルートなどの情報を入手。これらを基に輸出量の予測をする。荷受け港の衛星画像を活用すれば、港に積んであった貨物量と実際に船舶が運んできた貨物量との差から貨物の消費予測も可能になるという。

港湾周辺を撮影した衛星画像のイメージ(アジア航測提供)

実証にはアジア航測のほか、衛星を打ち上げて衛星画像を提供するアクセルスペースや海上での交流シミュレーションを担当するアイ・トランスポート・ラボなどが参加。経済指標を精緻化する知見を提供するため、同志社大学も参加しており産学共同での実施となる。
今回の経済指標提供サービスは、数年前からアジア航測とアクセルスペースとの間で事業化を模索してきたという。衛星画像をベースにした経済指標は米国ベンチャーなども展開するが、「衛星AISを活用した経済指標提供サービスは例がない」(アジア航測の石井邦宙G空間biz推進部長)と期待を寄せる。2020年をめどに事業化し、まずは年1億円程度のビジネスに育てたい考えだ。