政策特集今、福島は vol.8

新たな産業の集積目指す

福島イノベーション・コースト構想の推進①


 浜通り地域の復興は新たなステージを迎えており、今後は産業復興が重要となる。東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、政府と福島県、関係市町村が一丸となって、新たな産業基盤の構築を目指す「福島イノベーション・コースト構想」を推進している。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産等の重点分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでおり、2回にわたって、最新の状況を紹介していく。

廃炉研究の中心となるJAEAの研究開発拠点

 日本原子力研究開発機構(JAEA)は、福島第一原子力発電所の廃止措置に伴う、燃料デブリの取出しや、発生する放射性廃棄物の処理・処分等に必要な技術開発を行う研究開発拠点を整備している。これらの研究開発拠点では、長期にわたる廃炉を支えるため、国内外の英知を結集した研究と人材育成が進められており、福島イノベーション・コースト構想の下で、これらの拠点を核とした廃炉産業の集積を目指している。

 JAEAの研究開発拠点の1つとして、2016年4月に本格運用を開始した、「楢葉遠隔技術開発センター」がある。廃炉作業等に必要な遠隔操作機器・装置に関する技術基盤を確立するための実証試験や要素試験を行う施設であり、廃炉の研究だけではなく、様々なロボットの開発に活用できるように整備しており、誰でも施設を利用することが可能だ。

 本施設の利用の一例として、「廃炉創造ロボコン」というロボットコンテストが開催されている。昨年12月に開催された第2回大会では全国の高専から16チームが参加し、廃炉の現場のようにロボットを直視できない困難な状況を想定した課題に挑んだ。

 廃炉・放射線分野には、地元企業も参入している。株式会社ふたばは、昨年夏に富岡町に帰還した。海外のフィールドも対象に環境調査、測量・設計、コンサルティング業務に携わってきた基幹ノウハウ「測る技術」の革新と応用を重ね、地域への貢献度を深めようとしている。復興を後押しするため、ドローンに様々な計測器を搭載し、三次元点群(地形データ)および植生・土地利用形態、空間放射線量を多角的に把握する取り組みを行っており、今後これらの大容量データを統合して解析プログラムを作成し、ネットワーク型解析システムで高速処理する環境を構築していくことを目指している。

福島ロボットテストフィールド

 ロボットも構想の重点分野だ。南相馬市と浪江町に、物流やインフラ点検、大規模災害などに対応する陸・海・空のロボット・ドローンの研究開発、実証試験、性能評価、操縦訓練を行うことができる、世界に類を見ない一大研究開発拠点である「福島ロボットテストフィールド」を整備している。先月着工が始まり、2018年度から順次開所し、2019年度には全施設が開所する予定だ。JAEAの楢葉遠隔技術開発センターとも連携し、補完し合いながら、研究開発で利用する企業のニーズに幅広く対応していく。

整備が進む福島ロボットテストフィールド

 また、このテストフィールドでは、2020年に開催するロボットの国際大会「ワールドロボットサミット」において、インフラ・災害対応分野の一部競技が開催される予定だ。今後、福島ロボットテストフィールドを核として、国内外の企業を浜通りに呼び込み、ロボット産業集積の実現を目指していく。

 浜通り地域では民間等によるロボット・ドローンを活用したサービスの提供や実証が活発化している。代表的な取組の1つが、楽天・ローソンの取組だ。昨年10月から、楽天とローソンによる新たな商品配送サービスの試験運用が南相馬市小高区で開始された。楽天のドローンは、ローソンの移動販売車で運べないホットフードなどを店舗から約2.7キロメートル離れた集落センターまで完全自律で飛行し、注文から約10分で販売車に届け、日本で初のサービスが浜通りで動きだしている。

 また、地元企業のロボット開発への参画も盛んになっている。例えば、自動化設備を得意とする南相馬市の協栄精機は、IHIと共同で災害物資をピストン輸送できる無人航空機の開発に取り組んでおり、同社の福島ロボットテストフィールドへの期待は高い。今後、地元企業によるロボット開発が、更に進んでいくことが期待されている。

先端的エネルギー産業の集積

 廃炉、ロボット分野に加え、エネルギー分野の取組も進んでいる。浜通りへの再生可能エネルギーや水素の導入等を通じた先端的エネルギー産業の集積等のプロジェクトを、「福島新エネ社会構想」の取組と連携して進めている。

 主要プロジェクトとして、浪江町において、再生可能エネルギーを用いて大規模に水素を製造する実証が昨年8月から始まった。今夏にもプラント建設に着工して整備を進め、2020年度には運転を開始する予定だ。ここで製造された水素を、福島県内のみならず、東京オリンピック・パラリンピックの際にも活用することを目指している。

 エネルギー分野における企業の取組も活発だ。フォーアールエナジーは今月より、浪江町で電気自動車用リチウムイオンバッテリーの2次利用事業を開始する。全国から回収した車載用バッテリーを異なる用途に応じて再製品化するという新たなエネルギービジネスを展開する予定だ。この車載用バッテリー再製品化事業は今後の急成長が見込まれるが、同社はそれだけではなく、浪江町を拠点としてグローバルに活動することで「スマートコミュニティ」をコンセプトとする浪江町の街づくりにも貢献することを目指している。

フォーアールエナジーが進める、電気自動車用リチウムイオンバッテリーの2次利用事業

 また、株式会社IHIは、相馬市において、出力変動の大きい再エネ電気を一般送配電系統に逆潮流させることなく、余剰電力の蓄放電や水素・熱への変換を駆使し、地産地消するスマートコミュニティ事業に取り組んでいる。さらに、生産した水素を利用した各種研究開発や、生成した熱を利用した下水汚泥乾燥による産廃減容化、燃料化の研究も進める予定だ。