海外IT人材の採用広がる
国内では不足感が深刻化
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ロボット、自動運転等々、次々と現れる新しいテクノロジーが社会や産業を大きく変えようとしている。その最先端分野で日本が競争力を発揮するためには、世界中から優秀な人材を集める必要がある。特にIT(情報技術)人材の不足は深刻化しており、海外人材の活用は避けられない。
今はチャンス
今月の3日、4日、インドのプネでIT系大学の学生を対象とした日本企業による就職説明会(ジョブフェア)が開催された。政府の支援を受け、日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施する初めての試みだったが、2日間で予想を上回る約600人の学生が集まった。日本からは大企業の現地法人のほか、中堅、ベンチャー企業など10社が参加。当日に内定を出した企業もあった。インドのIT人材の多くはシリコンバレーなど欧米企業への就職を希望するが、米国などでは就労ビザが厳しくなっている。今回のジョブフェアを運営したフォースバレー・コンシェルジュ(東京都千代田区)社長の柴崎洋平さんは「今はものすごくチャンス」と話す。
我が国ではIT人材の不足感は高まるばかりだ。経済産業省が2016年に公表した需給調査では、2015年時点でIT人材は約92万人いるが、企業へのアンケート調査から推計した結果によると、これでも約17万人が不足しているという。この不足は年々深刻化しており、2030年の不足数は最大で約79万人にも達すると予想している。世界的に人材の争奪戦が激しくなる中、多くの企業でIT人材の確保が喫緊の課題となっている。
政府もIT人材の不足には強い危機感を持ち、優秀なIT人材、とりわけ、世界第2位の人口を抱え、世界随一のIT技術者輩出を誇るインドからの人材獲得に力を入れている。昨年11月にインドで開催された日印両国IT産業の連携を目的とした経済産業省とインド通信IT省の合同作業部会でも、インドのIT人材活用が両国の大きな関心事項となった。2月のプネでのジョブフェアも、この流れを受けて実施されている。
アジア・トップ校などから約200人採用
ERP大手のワークスアプリケーションズ(東京都港区)は2017年、自社の活動で約200人の外国人のIT技術者を採用した。インド工科大学やシンガポール国立大学、北京大学、清華大学といったトップ大学からも多く入社した。中国や台湾などの学生は上海の開発拠点に、インドやシンガポールからはシンガポールの拠点にそれぞれ配属している。同社が海外の大学で採用活動を始めたのは2009年からで、現在は中国とシンガポールそれぞれに人事担当者を置き、現地の大学などとの関係を強化してきた。同社の海外採用責任者である成澤友和さんは「トップレベルの人材の能力は日本人も外国人も同じだと思うが、毎年輩出されるIT系の大学卒業生の数が1桁違う国もある」と、海外のIT人材を採用する理由を話す。
海外人材の採用拡大とともに、社内の人事制度も整備してきた。エンジニアの報酬は1年目から年収600万円。グローバル共通の多面評価制度を取り入れ、年功序列ではなく実力主義。フレックスタイム制を導入し、働き方も日本企業というよりは欧米企業に近い。優秀な外国人社員が東京に転勤し、日本人エンジニアに刺激を与えることも珍しくないという。海外から日本に来た留学生や中途入社も含め、300人程度の外国人社員が国内拠点で働く。「海外の学生はキャリア志向が強い。その会社で何が身につくのか、実際に社員は成長しているのかを気にする。だから同じ大学の先輩が仕事に満足していないと、後輩に勧めてくれなくなる」と成澤さんが指摘するように、実際に入社した外国人社員に活躍してもらうことが、採用拡大へ向けた最大の追い風となる。
優秀な人材は世界中から
同社では2014年末に人工知能型ERP「HUE」を発表した。海外展開に向け、各拠点に開発・サポート部隊を設けている。「変化が速く激しい時代には、我々も製品をいち早くリリースしては、お客樣からのフィードバックを受けて即座に製品に反映させ、それをまたリリースするという循環をどんどん高速で回していかないと競争に負けてしまう。そのために世界中から集めている優秀人材の活躍は重要だ」(成澤さん)と、外国人材は同社にとってもはや欠かせない存在となっている。
ベンチャー企業もIT人材の不足に悩む。クラウド向けセキュリティサービスを展開するHDE(東京都渋谷区)は事業拡大とともに、人材確保の壁にぶつかった。「このままでは企業の存亡に関わる、という状況だった」。同社が外国人材の採用に踏み切る直前の2013年ごろのことを、人財広報室長の髙橋実さんはこう振り返る。
日本語能力は求めない
同社が海外にIT人材を求めた背景には、クラウドサービスが主力に転じる事業構造の変化があった。「リナックス製品の開発では、日本語に翻訳されてから勉強しても間に合ったが、クラウドになると翻訳を待っていたら技術に追いつかない」(宮本和明副社長)。そのため技術者には英語力が求められたが、そうなるとますます採用が難しくなる。そこでたどり着いた解決策が「日本語を求めない」(宮本副社長)ことだった。
人材を求めて海外に飛んだのは2014年夏。台湾からベトナム、インドネシアの大学を訪問。当時の社員数は70人程度で、外国人の受け入れ体勢が整っているわけでもなく、無謀は承知の上。しかし現地の若者の日本への関心は思った以上に高かったという。現在の社員数は約130人で、外国人は20人を超えた。出身国も10カ国に及ぶ。技術者に限れば、この4年間の採用は外国人だけ。日本人も採用したいが、なかなか外国人と同レベルの学生が集まってくれないのが目下の悩みだ。
二択に迫られる日本企業
欧米諸国と比較しても日本の制度は高度外国人材の受け入れに極めてオープンだ。しかし、日本企業の外国人採用をサポートするフォースバレー・コンシェルジュ社長の柴崎さんによると、このことが海外にまだまだ伝わっていないという。その一方で「日本企業は二択を迫られている」とも訴える。日本企業の中には外国人の採用で日本語能力にこだわるケースも少なくないが、「ITの能力も日本語の能力も兼ね備えている外国人は滅多にいない。グローバル化したければ一部の部門でも良いから英語や欧米的人事制度を導入して海外人材を受け入れるか、そうでなければそのまま日本市場にとどまるかだろう」と指摘する。